【新春企画】編集部の”イチオシ”研究&研究者発表!
academist Journalのキャッチコピー「イチオシ研究発掘メディア」には、ここで取り上げたさまざまな研究や研究者のなかから、読者のみなさんの”イチオシ”を見つけてほしい、という思いを込めています。そこで本記事では、2017年に公開された研究コラムのなかから、academist Journal編集部メンバー”イチオシ”の研究・研究者をご紹介いたします。
研究コラム
【周藤イチオシ】クォークの織りなす新奇な世界 – 新粒子候補テトラクォークZc(3900)の正体に迫る
academist Journal編集長・周藤のイチオシ研究紹介記事は、理論物理学分野から選びました。
2013年、日本と中国の2つの高エネルギー加速器実験グループから同時に、ハドロンと呼ばれる粒子のひとつとして、まったく新しい粒子「Zc(3900)」の存在を示唆する実験データが報告されました。Zc(3900)の正体はいったい何なのか? 世界中で理論物理学者たちの競争が始まり、日本からは、HAL QCD Collaborationという研究グループが独自のアプローチで挑みました。
実はこの研究では、「Zc(3900)は新粒子とは呼べない」ということが明らかになります。そう聞くと、読者のみなさんは少しがっかりしてしまうかもしれません。しかし、今回の成果によって、Zc(3900)以外の新奇なハドロン候補の正体も理論的に解明する道筋がついたのです。一見、直接的な成果に繋がらなかったように見える研究でも、着実に科学の進歩へ貢献しているということを、ぜひこの記事を通して感じていただければと思っています。
【柴藤イチオシ】「細胞質流動」の再現に成功! – 人工細胞を作って、細胞の仕組みを解明する
アカデミスト代表・柴藤のイチオシは、細胞質流動の再現に成功したという研究紹介記事です。
私たちの身体を構成している細胞の内部には、さまざまな細胞小器官が存在していますが、それらは特定の場所に留まっているのではなく、細胞内を流れていることが200年以上前から知られていました。しかし、この細胞質流動がどのような仕組みで発生しているかということは、明らかにされてきませんでした。
素人目線からすると、実際の細胞内部を詳細に観察しようと思えてしまいます。しかし今回、早稲田大・宮崎牧人助教は、細胞の中身をいったん全て取り出し、それらを再びカプセルに封入することで、この謎を解明しました。「人工細胞を作ろう」と考えた点が、本記事をオススメする一番の理由です。ぜひ本編で続きをお楽しみください。
【谷口イチオシ】DNAを使って世界一細い電線をつくる
academist Journal編集部インターン生・谷口のイチオシは、DNAを使って世界一細い電線をつくるという研究紹介記事です。
上智大学の近藤次郎准教授は、銀原子があいだに入った特別な塩基対を用いることで、DNAの中に銀原子をまっすぐ並べることに成功しました。本来は遺伝情報を持っているDNAを単なる物質として扱うことで、世界一細い銀ワイヤーを作製したことは非常に面白いと思います。
近藤先生によると、細い電線はデバイスを小型化でき、DNAを使っているので生体にも使えるとのことです。実際に電線として使えるかどうかは研究中ですが、DNA-銀ハイブリッドナノワイヤーが使われる未来を想像してみてはいかがでしょうか。
インタビュー
【周藤イチオシ】理研・初田哲男博士、分野横断型組織iTHEMSについて語る。「分野融合のカギは、”環境”に尽きる」
日本における分野横断型研究の取り組みは、海外と比較して遅れをとっているといわれています。この状況を変えていくためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか? さまざまな分野の研究者を取材していくなかで、異分野融合研究の研究アイディアは「ふだんの何気ない会話から生まれてくる」ケースが多いように感じています。数理科学を軸とした分野横断型研究の取り組みを進める理化学研究所の数理創造プログラム(iTHEMS)は、まさにそんな会話が生まれる環境が整った組織です。
【荒井イチオシ1】かたひじはらない法哲学者、スナック研究に挑む – 首都大学東京・谷口功一教授
新しいと思ったものが、実はあまりにも身近過ぎて気づかなかっただけ、ということは少なくない。谷口教授が主導するスナック研究もそうだ。少し街を歩けば容易にスナックが見つかるように、日本という国にスナックは深く根付いている。根付いているがゆえに、日常生活の中では意識されず、空気と化している。そんな中、谷口教授は研究会を立ち上げ、当たり前過ぎて見過ごされていたスナックを学術的な検討の俎上に載せた。では、なぜ法哲学者の谷口教授がスナックを研究するに至ったのだろうか。
【荒井イチオシ2】科学史の研究って、どんなことをしているの? – 国立科学博物館・有賀暢迪研究員に聞く
ロックを毎日のように聴いていても、その起源について知っている人は少ない。科学者にとっての「科学」もこれと似ていないだろうか? 科学史を専門とする国立科学博物館の有賀研究員のこの記事はそうした問いを投げかけます。18世紀のヨーロッパと戦後の日本とでは同じ「科学」といっても印象がだいぶ違うようです。今は当たり前のことが昔は別のあり方をしていた、裏を返せば今では想像もつかないような科学が100年後、200年後にはあるかもしれない、そんなふうに想像力をドライブさせてくれるのが科学史、ひいては歴史学の面白さだと気づかされました。ぜひ、記事を通して科学史の魅力の一端に触れてみてください。
【谷口イチオシ】地球の限りある資源をどう使っていくべきか? 触媒化学から見る未来 – 早稲田大学・関根泰教授
メタンをどうにかする——早稲田大学・関根教授はそのために新しい触媒開発に取り組んでいます。天然ガスの主成分であるメタンは、大量にあるにも関わらず、反応しにくいという難点があります。新しい触媒開発を通して、関根先生はメタンを別の物質に転換して有効利用しようとしています。地球の持続性までも考えて話す姿は印象的でした。ぜひ、ご一読ください。
【柴藤イチオシ】星の死後にできた中性子星の謎とは? – 雷雲プロジェクトの立役者、京大・榎戸輝揚特定准教授に聞く
京大・榎戸輝揚特定准教授に、先日Nature誌に掲載された「雷雲プロジェクト」の詳細とご自身の専門とする中性子星に関してお話を伺いました。研究プロジェクトのリーダーを務めるには、研究遂行能力だけではなく、長期的なビジョンを掲げてチームをまとめていくリーダーシップが必要であることを感じるインタビューでした。世界的に活躍する若手研究者・榎戸准教授の取り組みに、ぜひご注目ください。
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academist Journalでは、2018年も魅力的な研究コラムやインタビュー記事を掲載してまいります。どうぞよろしくお願いいたします!
この記事を書いた人
- academist journal編集部です。クラウドファンディングに関することやイベント情報などをお届けします。