雷はなにをきっかけに発生するのだろうか——このような疑問に挑戦する「雷雲プロジェクト」は、2015年10月からacademistで研究資金の募集を開始し、目標金額を大きく上回る160万円を獲得した。2016年には科研費を獲得し、研究を軌道に乗せることに成功。そして先日、プロジェクトの成果がNature誌で発表された。本プロジェクトを主導している京都大学白眉センター榎戸輝揚特定准教授は、自身の実現したいサイエンスを追求するべく、国内外を飛びまわり活躍する若手研究者だ。今回、若手研究者チームで達成した雷雲プロジェクトの研究成果と、NASAで進めている中性子星の研究、これから10年間で成し遂げたい野望について、詳しくお話を伺った。

——まずはじめに、今回の研究成果の概要を教えていただけますでしょうか。

私たちはこれまで、雷が発生するときに放出されるガンマ線を検出する装置を開発してきました。今回、4台の検出器を新潟県柏崎市に設置したところ、201726日に、検出器から数百メートル離れたところで発生した落雷とそれに引き続いて、3つの特徴的なガンマ線の信号を得ることができました。

——それぞれどのような信号だったのでしょうか

まず、落雷の瞬間に非常に強いガンマ線を検出しました。その後、50ミリ秒ほどで急速に減衰するガンマ線をとらえて、それから約35秒後に、0.511MeV のエネルギーを持つガンマ線をとらえました。

——3つのガンマ線の発生源について、教えてください。

はじめのガンマ線は、落雷の瞬間に観測された「雷からのガンマ線」です。このガンマ線は、大気中に含まれる14Nと相互作用します。通常のガンマ線が窒素原子と相互作用をすると、窒素原子の電子を弾き飛ばしたりするのですが、今回はガンマ線のエネルギーが高いため、原子核と反応できます。この場合、陽子に捕獲された中性子を弾き飛ばす「光核反応」が生じたと考えられます。

——14Nから中性子が叩き出されると。叩き出された中性子はどうなるのでしょうか。

最終的には、大気中や地表の原子核に吸収されます。大気中に多く含まれる14Nに吸収されると、窒素の同位体15Nとなり、この原子核のエネルギーが高い状態から低い状態に移る際に再びガンマ線を放出します。このガンマ線が、2つ目の「即発ガンマ線」です。また、中性子が14Nの原子核を構成する陽子と入れ替わる反応が起こる可能性もあり、このときには14Cが生成されることになります。

——一方で、14Nから中性子が叩き出されると、同位体13Nができることになりますね。

そうなります。ただし、13Nは不安定ですので、雷雲と一緒に風下に流されながら13Cに崩壊します。このプロセスで陽電子が発生するわけですが、陽電子そのものの寿命は短く、大気中の電子と対消滅してガンマ線を放出します。これが、3つ目の「対消滅ガンマ線」です。13Nは約10分間は崩壊し続けるので、このときの雷雲は、反物質の雲と考えることができます(※)。
※厳密には、陽電子が反陽子と組み合わさるような安定原子を形成した場合に「反物質」と呼称として使われる。


——一連のプロセスで、学術的に面白いポイントはどのあたりになるのでしょうか。

まずは、雷が光核反応を引き起こすということです。光核反応は原子核物理学の分野では既に知られていた反応だったのですが、雷で発生するかを疑いなく示した事例はありませんでした。今回、雷という身近な現象で光核反応の発生を確認できたことは、面白い結果だと思います。

また、雷が大気中で炭素の同位体である13Cと14Cを作ることも興味深いポイントです。たとえば、14Cは動植物がどの時代に存在していたかを調べる年代測定に使われているのですが、今回の研究から雷も炭素同位体を作ることがわかったので、年代測定に与える影響については重要な研究課題になると思います。

最後に、雷が反物質の作り手であったという、自然の隠れた姿が明らかになったことも、純粋に面白いと感じています。

——榎戸先生は10年前に、「陽電子砲でシトを攻撃できるか、を物理的に計算する」という記事を公開されています。記事の終わりに今回の雷雲プロジェクトの話をされていて、陽電子砲の計算がその布石だと書かれていることに驚きました。

あれ、そんなこと書きましたっけ(笑)。大学院生の頃、友人とエヴァンゲリオンを観にいったのですが、双子山上空で主人公のエヴァが敵をポジトロン砲で攻撃するシーンがあり、いろいろ気になって計算したノートです。当時使っていたシミュレーション・ソフトを試してみたかったという理由もあります。が、布石ではありませんよ。それにしても、恥ずかしい記事を見つけてきましたね……。


——天文学を10年以上研究されていることになりますが、そもそも天文学者を目指したきっかけは何だったのでしょうか。

うーん……やはり物理学の考えかたが、シンプルだったことです。他分野にももちろん興味はあるのですが、さまざまな自然現象を少ない原理で説明するという発想が、好きなんですよね。天文学を選んだのは、基本的に宇宙観測が好きだったからで、宇宙でなくてはダメということではありません。

——特に、「中性子星」に関心を持たれていると伺いました。

そうですね。中性子星とは、星が一生の終わりに起こす「超新星爆発」により形成される星で、その名のとおり中性子から構成されています。半径は約10kmなのに質量は太陽の1.4倍程度もある、極めて密度の高い星です。たとえるならば、スプーン1杯に富士山を押し込めるくらいの密度になります。さらに秒速30回転以上の高速回転をしている天体があるのも特徴的です。

——ものすごいエネルギーが必要になりそうですね。中性子星はどれも似たような特徴を持っているのでしょうか。

現在のところ、中性子星は2600個くらい発見されているのですが、そのなかでも全く異なる光りかたをしたり、星の進化の経路が違ったりなど、多様性に富んでいます。多様な中性子星を観測を通じて整理し、理解を深めていくことが、この分野のひとつの目標です。

——榎戸先生は現在、どのような研究をされているのでしょうか。

中性子星の内部状態を理解するための研究を進めています。中性子星の内部は、状態方程式と呼ばれる数式で記述されるのですが、状態方程式は未だ一意に決まっていません。私は現在、国際宇宙ステーションに搭載されたX線望遠鏡で中性子星を観測するプロジェクト「NICERNeutron star Interior Composition Explorer)」に参加しているのですが、まさにこのプロジェクトの目的が、観測から状態方程式を明らかにしようというミッションです。

——観測データから、中性子星の状態方程式を導きたいと。

もうすこし具体的に言うと、複数の中性子星の半径と質量を精度良く測定できれば、状態方程式を一意に決められると考えられているのですが、これもまだ予想の範囲内で、現在議論されているところです。

——半径と質量は、どのように測定するのでしょうか。

中性子星の表面に「ホットスポット」と呼ばれるあたたかく光る部分があるのですが、中性子星が回転すると、灯台の明かりのように明暗が時間的に変化することになります。この光の時間変化をX線で測定することで、中性子星の半径と質量の比を知ることができて、別の情報と組み合わせると、半径と質量をそこそこの精度で推定できるのではないか、と期待されているんですね。これまでなかなか行われてこなかった計測法なのですが、NICERではこの方法で状態方程式を決めていこうと、日々研究を進めています

——榎戸先生は、NICERでどのような役割を担っているのでしょうか。

初期のころは、X線の観測装置を作るグループで仕事を始めました。検出器が完成した後は、磁場の強い中性子星「マグネター」のサイエンスを行う10人程のグループのリーダーをしています。衛星から得られたデータを解析することはもちろん、どの天体をどれくらいの長さ観測すれば良いかどうかを検討したり、検出器の特性をきちんと理解するというような仕事もあります。

——イチオシの中性子星があれば、教えてください。

一番の興味は、やはりマグネターです。いわゆる普通の星の物理や進化過程は、すでに多くが解明されていて、教科書にも記載されています。一方で中性子星は、星が死んだ後のゾンビのような星で、これまで理解されてきた星とは全く別の種類の世界を理解することになります。この「裏の星の世界の進化」は、まだ理解されていなくて、これから解かれていく面白い話だと思っています。

——今後10年間で実現したいことはありますか。

将来的には、いくつかの研究室と連携して小型衛星を運用したいです。ここ数年で、ブラックホールどうしの合体から出た重力波と、中性子星どうしの合体から出た重力波が観測されたのですが、実は、高速回転する中性子星から定常的な重力波を観測できるのではないかという話があります。

——なぜ重力波に注目されるのでしょうか。

地球からの距離9000光年のところに、「さそり座X-1」というものすごく明るいX線源があります。さそり座X-1自体は中性子星で強い重力を持つため、周りのガスや塵が落ち込み、星の回転が速くなっていきます。ある程度速くなると、遠心力で星が壊れてしまうはずなのですが、実際には壊れていないんです。その理由として、中性子星のまわりに形成されている降着円盤が中性子星の角運動量を奪っているという説があるのですが、重力波の研究者たちのなかでは、定常的な重力波が角運動量を外部に持ち逃げしているという予想もされています。

——重力波が観測できれば、この予想を裏付けることができるということですね。

ただ、重力波を探査するときのパラメター空間が広いため、高感度の観測ができるかというとそうではありません。特に、さそり座X-1の自転周期がよくわからないことが、探査を難しくしています。自転周期そのものの観測は難しいのですが、自転周期の情報を持っていると思われる「準周期振動」を小型X線衛星で長期的に観測することで、自転周期がわかってくる可能性があるんです。そうすると、パラメター空間がかなり絞られてくるので、重力波を用いた高感度の観測ができるようになります。

——そのためにも、小型衛星で長期的に観測することが重要になると。

大型衛星はたくさんの研究者が使うこともあり、観測時間が限定されてしまいますからね。重力波が見つからない可能性ももちろんあるのですが、中性子星における降着の物理のようなものがスピンオフで見えてくる可能性もあるため、比較的マッチングの良いサイエンスではないかなと考えています。10年後くらいまでには、実現させたいですね。

榎戸輝揚(えのと・てるあき)京都大学白眉センター特定准教授プロフィール

天文学者。東京大学大学院理学系研究科 博士課程修了。スタンフォード大学、理化学研究所、NASAゴダード宇宙飛行センターの研究員などを経て、多様な分野で創造性に富んだ人材を国際公募する京都大学白眉プロジェクトに平成27年度より採用される。京都大学の宇宙物理学教室勤務。専門は宇宙X線望遠鏡を使った中性子星の観測などで、極限環境で起きる物理現象を研究している。学術系クラウドファンディングも駆使し、オープンサイエンスの枠組みで進める「雷雲プロジェクト」の地上観測も進める。趣味は歴史小説とNHKの番組。

この記事を書いた人

柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。