現在、academistにてプロジェクトに挑戦中の、動物行動学を専門とする総合研究大学院大学 助教の塚原直樹さんと、コンピューター科学を専門とするシンガポール国立大学リサーチ・フェローの末田航さんは12月14日、カラス型ドローン開発プロジェクトに関するセミナー「カラスを騙し対話するドローンを作りたい」を、デジタルハリウッド大学院大学で開催しました。

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セミナーの案内ポスター

セミナーはまず、塚原さんの研究紹介からはじまりました。

音と動きでカラスを騙したい

塚原さんは学部4年生のころ、「カラスがどのように会話をしているか調べてみたらどう?」という当時の指導教官からのアドバイスをきっかけに、カラスの研究をはじめました。それから13年間、出張先のあらゆる場所でカラスの鳴き声を録音し、音声解析を進めてきたそうです。研究では、長年蓄積されたデータ群から「求愛」「威嚇」「餌ねだり」などのように、カラスの鳴き声が合計41種類に分類されることを明らかにしてきました。

会場からは「音声データは一般公開しないのか?」「41種類の声はどのように分類したのか?」などという質問が次々に出るなど、大勢の方々が興味を示している様子でした。塚原さんによると、すべての種類のカラスの鳴き声を厳密に意味付けすることは難しく、現在は主観で分類せざるを得ない状況だそうですが、できるだけ早い段階でのデータの公開と論文化を目指して進めていきたいと仰っていました。

また音声解析を進めていくなかで、カラスは逃げるまでの過程で、はじめに警戒声を、次に威嚇声を、そして逃げる直前に逃避声を発することがわかったそうです。塚原さんはこの結果を利用して特許を獲得した「カラス撃退装置」を開発しました。

しかしこの装置を使っても、カラスを思い通りにコントロールすることはなかなか難しく、塚原さんは、次のステップとして、「音」だけではなくカラスらしい「動き」を加えることで、カラスをコントロールできるのではないだろうかと考えるようになったそうです。

機械と動物の共生の可能性について考えたい

ここで、末田さんにバトンタッチです。

末田さんの研究対象は、昨今話題に上がることの多い「ドローン」です。ドローンの性能は日々向上しており、制御不能になっても自動的に出発点に戻すことができたり、あらかじめ飛んで欲しい位置情報を入力することで自動制御できたりするなど、人間の思い通りに制御することが可能となっています。はじめのうちは、思うようにドローンを飛ばせなかった末田さんですが、試行錯誤を繰り返すうちにノウハウが蓄積し、今ではFirst Person View(FPV:一人称視点)ゴーグルと、頭の傾きを感知してカメラの視点を追従させることのできるヘッドトラッキング機能を搭載したドローンを作成し、毎朝ドローンと「空中散歩」ができるまでになったそうです。

セミナーでは、末田さんが作られた実物のゴーグルとドローンを提示していただき、大きなディスプレイでつかの間の空中散歩を楽しむことができました。

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ゴーグルを付ける塚原さん(左)とドローンの解説をする末田さん(右)

そんな末田さんの研究目標は、動物とロボット間のコミュニケーションの可能性について調べることです。「機械と人間の共生がある程度進んできたので、機械と動物の共生の可能性について考えたい」と語る末田さんは、今回のカラス型ドローンの研究を通じて、その第一歩を踏み出そうとしています。

異分野融合研究に挑戦!

最後に、塚原さんと末田さんが挑むクラウドファンディング・プロジェクト「カラスと対話するドローンを作りたい!」の説明がありました。今回の挑戦理由のひとつは、大学間競争激化に伴う研究成果のグローバル化であると末田さんは主張します。研究機関の評価は主に「論文数」で行われるため、実績を残すためには、多くの論文に引用されている論文をもとにした研究を進める流れができます。そうすると、異分野連携型の研究やまったく新しい分野の研究をはじめることが難しくなってしまうのです。そこで今回、研究のファーストステップとなる研究資金を募るために、クラウドファンディングへの挑戦を決意したというわけです。

そんなお二人のプロジェクトは、残り4日で見事達成しました!  支援された方々には、本プロジェクトで使われたドローンの実物や、塚原さんの開発するカラスレシピのひとつ「カラス燻製」のリターンを用意しています。残りの期間でも支援は可能です。ぜひご注目ください。

この記事を書いた人

柴藤 亮介
柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。