動物の防寒

読者の皆さんは冬になると、どのようにして暖をとるでしょうか? 外出の際には暖かいコートが欠かせなくなるでしょうし、自宅ではコタツから離れられなくなる人もいるかもしれません。寒さ対策を行うのは、ヒト以外の動物たちも同じです。キツネは冬になるとモフモフの冬毛で覆われますし、長野県地獄谷のニホンザルは温泉に浸かります。マウスなどの実験動物の研究により、寒さによるストレスは免疫や繁殖機能に悪影響を及ぼすことがわかっています。寒さを凌ぐことは、動物たちにとって非常に重要な問題なのです。

ところで動物たちは、皆等しく寒さを凌げているのでしょうか? 私たちの寒さ対策に思いを馳せてみると、防寒の成否は人によって異なることがわかります。例えばストーブの近くにいる人は、遠くにいる人よりも暖かいはずです。厚手のコートの持っていない人は、冬に寒さを感じる機会が多いでしょう。このような防寒の個体差は、動物にも存在しているのでしょうか?

動物の世界では、獲得できる利益の量に個体差が存在することが知られています。また、その差を生み出す代表的な要因が、群れ内の順位序列です。多くの先行研究により、群れ内の順位が高い(優位な)個体は多くの食物を摂取できることや、多くの子を残せることが明らかにされています。この一般則を防寒に当てはめると、「順位が高い個体ほど防寒に成功している」という予測が立ちます。しかし、これまで動物の順位序列と防寒の関係について調べた研究は不足していました。

ニホンザルの猿団子

この謎に迫るべく、私はニホンザルの猿団子の研究を行いました。ニホンザルはわが国の固有種であり、北は青森県の下北半島から南は鹿児島県の屋久島まで広く分布しています。本種は冬期に群れのメンバーが身体を寄せ合って「猿団子」を形成し、暖をとります。猿団子は基本的に20頭以下の個体で形成されるものの、香川県小豆島や兵庫県淡路島など一部の地域では100頭以上の個体による巨大な猿団子が形成されることが知られています(図1)。この巨大猿団子の中では、位置によって接触できる個体の数やそこから得られる暖かさの量が異なるはずです。また、ニホンザルの群れには厳格な順位序列が存在することを鑑みると、順位の高い個体はより多くの暖かさを得ていると予想できます。そこで私は小豆島・銚子渓に生息するニホンザルA群(約150頭)を対象とし、個体の順位に応じた猿団子内の位置と接触個体数について分析しました。今回の研究では、順位序列が明らかになっていたオスに注目しました。猿団子内の位置については、胴囲の180°以上が他個体と接触している場合を「内側」、そうでない場合を「外側」と区分しました。

図1:小豆島の巨大猿団子

今回の研究では、データ収集の方法に工夫が必要でした。猿団子の中ではメンバーシップや個体の位置が常に変化し続けています。そのため、複数の個体の位置と接触個体数を瞬時に判定し、かつそれらを手書き記録することは至難の技です。そこで私は写真を使用することにしました。私が研究を行っていた当時、京都大学野生動物研究センターの研究チームがドローンで撮影した航空写真を使用し、ポルトガルの野生ウマの空間的位置を分析する研究を展開していました。私はこの研究を参考にし、できるだけ真上から撮影した猿団子の写真を使用して個体の位置や接触個体数を記録しました(なお、写真を撮影する際には動物にとって侵襲的にならないよう十分に配慮しました)。猿団子の周辺に転がっている石の上に立ち、デジタルカメラを頭上高くに持ち上げて猿団子を撮影していた私は、サルから見てもヒトから見ても不審者であったことでしょう。

順位の高いオスほど防寒に成功する

今回の研究では2017年の冬に撮影した100枚の写真を分析し、以下のことを明らかにしました。まず位置取りに関しては、順位の高いオスほど猿団子の内側を占める割合が高いことがわかりました(図2)。次に接触個体数に関しては、順位の高いオスほど多くの個体と接触していることがわかりました(図2)。これらの結果は、「順位の高い個体ほど防寒に成功している」という予測を支持します。順位の高さは採食や繁殖の上で有利に働くことが広く知られていたなか、本研究は順位の高さが防寒の上でも有利に働く例を示した点で意義があります。これらの結果は、動物の群れ形成や社会生活について理解する一助になることでしょう。

図2:オスの優劣順位に応じた猿団子内の位置取りと接触個体数。図中の黒点の大きさは観察された回数を反映している。

順位の高いオスはどうして猿団子の内側を占めることができるのでしょうか? この理由は、個体の猿団子への加入方法に隠されていると考えています。猿団子への加入は、外郭の個体に身体を接触させ、外側の位置を占めることが基本となります。しかし一部の順位の高いオスは、割り込みによって猿団子の内側に加入することが可能なのです。私が観察を行っていた当時、A群でもっとも順位の高いオスであった「団十郎」は、猿団子の上をツカツカ歩き、内側の個体を引っ張り出してその位置を横取りするという行動をしばしば見せていました(図3)。猿団子の上を悠然と歩く団十郎とそれにまったく抵抗しない他のサルたちの様子は、ニホンザル社会の順位序列の厳格さをよく反映していました。

図3:団十郎が猿団子の上を歩いている様子。この後猿団子の内側に割り込んだ。

余談ですが、私はこの研究を最初から計画していたわけではありませんでした。私は当時、オスの繁殖戦略の研究のために交尾や社会行動のデータを集めており、猿団子の観察はその合間にしか行っていませんでした。しかしある時に順位の高いオスが猿団子の内側を占めることが多いことに気付き、そこではじめて猿団子の研究の欲求が急増したのです。フィールドワークでは、現場で「何か」に気付く感性が必要になります。私にその感性があるかはさておき、フィールドでの発見を一つの研究としてまとめられたことは、私にとって大きな経験になりました。また、猿団子は冬の風物詩として有名であるため、この研究が小豆島の地域住民やメディア関係者から多くの注目を浴びたことも良い思い出です。

猿団子研究のこれから

今回の研究では順位の高いオスが猿団子の中で防寒に成功していることが示唆されましたが、今後突き詰めるべき課題も残っています。その一つが、熱量の計測です。今回の研究では接触個体数を暖かさの間接指標として使用しましたが、暖かさを客観的に評価するためには熱量の計測が必要です。実は私はすでにサーモグラフィを使用して熱量の計測を試みています(図4)。しかし、現時点ではサーモカメラと個体の距離が一定でないことや、計測できる身体の部位が一定でないことが問題になっており、実用には至っていません。今後は動物の身体に装着した体温計を用いることなどにより、より定量的に体温を測定することが必要になるでしょう。

図4:猿団子のサーモグラフィ。

さらには、そもそも小豆島のニホンザルがどうして他地域よりも大きな猿団子を形成するかについても明らかにすることが必要です。実はニホンザルの猿団子の大きさに地域差が存在する理由については明らかになっていません。一説では高い寛容性が巨大な猿団子の形成の基盤になっていると考えられているものの、証拠は不足しています。私は現在様々な研究者と協力し、猿団子の形成プロセスを解析する研究や、瀬戸内地域のニホンザルの系統関係を探る研究を進めています。多角的な視点で今後の研究を進めることにより、いつか巨大な猿団子が形成される理由を明らかにしたいと考えています。

参考文献

  • Ishizuka S. (2021) Do dominant monkeys gain more warmth? Number of physical contacts and spatial positions in huddles for male Japanese macaques in relation to dominance rank. Behavioural Processes 185:104317.

この記事を書いた人

石塚真太郎
石塚真太郎
東邦大学理学部・日本学術振興会特別研究員(PD)。京都府出身。京都大学農学部を卒業後、京都大学大学院理学研究科で博士号を取得。日本学術振興会・特別研究員(DC1)、京都大学霊長類研究所・研究員を経て2021年より現職。哺乳類の地域個体群の構造やダイナミクスに興味を持って研究を進めている。
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