ウナギ保全の重要性と課題

ウナギ属魚類(以下、ウナギ)は人類に多くの恩恵をもたらす重要な魚類です。しかし、その資源量は近年、いくつかの種で急激に減少しており(図1上)、蒲焼として消費されるニホンウナギなどは、国際自然保護連合や環境省のレッドリストにおいて絶滅危惧種に指定されています。そのため、ウナギの重要な成育場である河川において最適な生息環境を保全することは不可欠となっています。

日本には主に、インドネシアから南日本にまで分布する熱帯種のオオウナギと、ベトナムから北日本にまで分布する温帯種のニホンウナギの2種のウナギが分布しています(図1下)。しかし、両種が生息する南日本の河川において、各種がどのような環境の生息地を利用するのか、また、どのような環境の河川にどちらの種が多く生息するのかという情報は、両種の保全に不可欠であるにも関わらず、ほとんど明らかとなっていません。

図1. 日本におけるニホンウナギの稚魚(シラスウナギ)漁獲量の推移(上)とオオウナギとニホンウナギの写真(下)

研究の舞台は屋久島と種子島

私は南日本に位置する屋久島と種子島で2種の生息環境を調べています。これら2島は非常に近接していますが(図2右)、不思議なことに、屋久島の河川にはオオウナギが圧倒的に多く生息する一方で、種子島の河川にはニホンウナギも比較的多く生息しています。

西部北太平洋のほぼ同じ海域で生まれ、北赤道海流や黒潮により運ばれるこれら2種の仔魚は、稚魚であるシラスウナギに変態して2島の河川にやってきます(図2左)。このため、稚魚として河川にやってきた段階では、両島で2種の割合(種組成)は同じであり、前述の種組成の違いは、屋久島の河川にはオオウナギが、種子島の河川にはニホンウナギが生き残りやすい環境が多く存在するために生じている可能性があります。そのため、これら2島で各種の生息環境を調べることで、両種の保全に役立つ情報を獲得できると考えました。

今回は、2島の河川のさまざまな環境の場所で両種を採集する採集調査と、オオウナギに小型の電波発信機をとりつけて生息地の年間を通じた変化を調べるバイオテレメトリー調査により、各種の生息環境を調べました。

図2 西部北太平洋におけるニホンウナギとオオウナギの産卵場と屋久島・種子島の位置(左) および2島の位置関係と勾配の違い(右)。ArcGISおよびGoogle Mapを使用して作成

河川の環境によって生息するウナギの種やサイズは異なる

採集調査の結果、屋久島と種子島の両島で、水の流れが速く、川底に堆積する基質(泥・砂・石・岩など)が大きい場所ほど、採集個体に占めるオオウナギの割合が高いことが明らかとなりました(図3)。この結果は、水の流れや川底の基質といった河川の物理環境が、オオウナギとニホンウナギの種組成に大きな影響を及ぼすことを示唆しています。

図3 河川環境とオオウナギとニホンウナギの種組成の関係

屋久島は種子島に比べて非常に急勾配な島で(図2右上)、屋久島には種子島と比べて急勾配な河川が多く存在します(図4上)。一般的に、急勾配な河川ほど水の流れは速く、川底の基質は大きくなるため、屋久島の河川には下流域から上流域まで、オオウナギが利用する、水の流れが速く、川底の基質が大きい環境が多く存在しています。一方で、比較的なだらかな種子島の河川では、下流域にニホンウナギが生息可能な、水の流れが緩く、川底の基質も小さい環境が、上流域にオオウナギが利用する、水の流れが速く、川底の基質の大きい環境が存在するため、両種が共存できると考えられます(図4下)。このように、2島の勾配の違いが種組成の違いの原因となっていることが示唆されました。

図4 屋久島・種子島の代表的な河川の勾配(上)と2島で種組成の違いを生みだすと考えられる要因 (下)

また、バイオテレメトリー調査では、さまざまな大きさのオオウナギに電波発信機を装着し、その日中の生息環境を1年間、追跡しました。その結果、オオウナギの小型個体は、一年を通じて水の流れが速く、川底の基質が大きい生息地を主に利用することが確認されました。一方で、大型個体ほど水深が深く、水の流れが遅く、川底の基質が小さい環境を利用することも明らかとなりました。この結果は、オオウナギの生息環境が成長とともに変化することを示しており、ウナギが効率的に成長するためには、多様な環境を必要とすることを示唆しています。

 

ウナギの保全にむけて

河川の物理環境が2種の組成に大きな影響を及ぼすと示唆されたことから、河川内に多様な環境の生息地を維持することが、両種を保全するうえで重要であると考えられました。また、オオウナギの生息環境が成長とともに変化したことから、多様な環境を維持することは、さまざまな大きさのウナギ個体が共存できる環境をつくるという観点からも重要であると考えられます。

近年、進められている河川の護岸工事や直線化は、治水や利水を行ううえで重要である一方で、河川環境の均質化を引き起こし、ウナギを含めた水生生物に悪影響を及ぼす可能性があります。我々人類は今後、生物の生態学的研究と、治水・利水などに関する理工学的研究の知見を融合させ、自然と共生する術を模索していく必要があるでしょう。その術を模索するうえで、本研究の成果は有益な情報を提供するものと考えられます。

 

謝辞

本調査の一部は、クラウドファンディングプロジェクト「ウナギの住みよい河川環境を解明し、保全につなげる!」への支援金を使用して実施いたしました。本プロジェクトには、石原久司様、おーつ様、ひでまん様、和泉光則様、半谷吾郎様、クマイトモヒサ様、海野真司様、高田忠幸様、たけ様、阿部正人様、斉藤俊浩様、村上善樹様、ケラトプスユウタ様、Kohei K.様、猪股聖様、井戸雅也様、岸田治様、始祖鳥堂書店様、鈴木正輝(ベル)様、冨田誠様、堀江尚志様、ミソサザイ様、saeko nakata様、タカ テルマサ様、大山滉介様、西澤篤央様、nkt様、中野光様、鈴木享子様、スズキシゲヒコ様、二ノ宮梓様、隣誠也様、ハラナオタカ様、真鍋明弘様をはじめとする75名の皆様からご支援をいただきました。心より感謝申し上げます。

また、本調査の実施にあたり、京都大学フィールド科学教育研究センター 三田村啓理教授および市川光太郎准教授、近畿大学農学部 渡邊俊准教授、石巻専修大学理工学部 久米学准教授、田中三次郎商店 田中智一朗様および渡辺友樹様、一般財団法人 鰻の食文化と鰻資源を守る会には、惜しみないご指導・ご協力・ご支援をいただきましたことを感謝申し上げます。

この記事を書いた人

熊井勇介
熊井勇介
東京大学大学院農学生命科学研究科 水産資源学研究室 博士後期課程在籍。1996年生まれ。静岡県静岡市出身。学部4年次から鹿児島県の屋久島と種子島をフィールドに、ウナギをはじめとした一生の間に海と川を往復する通し回遊魚の生態・遺伝学的研究を行っている。