キラキラネームとは何か : キラキラネームの定義とその構成要素
本稿では、キラキラネームの定義とその構成要素を概観した論文(荻原, 2022, 人間環境学研究)を、当該領域外の方にも理解していただけるように紹介しています。紹介している論文はオープンアクセスですので、どなたでもお読みいただけます。本稿では、「名前」と表記した際には、氏名の「名」(ファーストネーム)を意味しています。
概要
「キラキラネーム」という言葉が、広く一般的に用いられていますが、言葉の定義が曖昧であり、具体的に何を意味しているのか明らかではありません。キラキラネームの定義が曖昧であることが、世間でも学術界においても、誤解や不十分な理解、不要な論争を招いたり、適切なコミュニケーションや生産的な議論、科学的知見の蓄積を妨げたりしていました。そこで本論文では、キラキラネームの定義とその構成要素について、主要な辞典・事典を用いて整理しました。その結果、一貫して見られた要素は、「頻度が低い名前」のみでした。さらに、すべてではありませんが複数の定義に共通して見られた要素は、「伝統から逸脱した名前」と「読むことが難しい名前」、「肯定的または中立的な文脈で用いられる名前」でした。本論文は、これまで曖昧に理解され、散逸的に議論されていた概念を明確化し、共有可能な基礎的知見を提供しています。
研究の背景:キラキラネームの定義の曖昧さ
「キラキラネーム(きらきらネーム)」という言葉が、広く用いられています。新聞や雑誌、テレビやラジオなどのマスメディアや、SNSやブログ、ニュースサイトなどのインターネットメディアにおいて、しばしば使用されています。個性的な名前が増加していることもあり、そうした個性的な名前をおおよそ意味するものとして使用されているようです(個性的な名前の特徴やその経時的変化などについては、荻原, 2023を参照)。
しかし、キラキラネームという言葉の定義が曖昧であり、具体的に何を意味しているのか明らかではありません。定義は状況や個人によって異なっており、想定している具体的な名前も異なっています。例えば、広く「個性的な名前」として用いている人もいれば、「正しく読むことが難しい珍しい名前」、「人名としては不適切な非常識な珍名」、「当て字を使った非常に個性的な名前」といったニュアンスで用いている人もいます。キラキラネームの定義が曖昧であることが、世間でも学術界においても、誤解や不十分な理解、不要な論争を招いたり、適切なコミュニケーションや生産的な議論、科学的知見の蓄積を妨げたりしていました。そこで本論文では、キラキラネームの定義とその構成要素について、整理しました。
方法:主要な辞典・事典を分析
キラキラネームの定義とその構成要素について検討するため、既に定義を与えている主要な辞典・事典を調査しました。国語辞典・現代用語辞典(事典)・辞典(事典)データベース・インターネットメディアなど、さまざまな辞典・事典を調査し、定義を収集して、その構成概念を検討しました。最終的に、大辞林・大辞泉・イミダスなど、掲載が確認された6つの媒体における定義を分析しました。
類似概念(「DQNネーム」)と表記の違い(例:「きらきらネーム」)についても検討しましたが、その結果については、論文をご覧ください。
結果:キラキラネームの定義とその構成要素
その結果、掲載が確認された6つの定義の内、すべてに一貫して見られた要素は、「頻度が低い名前」のみでした。よってキラキラネームの広義は、「頻度が低い名前」と言えます。キラキラネームであるためには、低頻度な名前であることが必須の条件であることが明らかとなりました。
さらに、すべてではないが複数の定義に共通して見られた要素は、「伝統から逸脱した名前」と「読むことが難しい名前」、「肯定的または中立的な文脈で用いられる名前」の3つでした。キラキラネームは低頻度で珍しい名前であることは広く共有されているようですが、それがどのように低頻度であるのか、そしてその名前が与えうる影響や周囲からの評価をどのように想定しているかという使用文脈については、認識が共有されている訳ではないと言えます。
これらの要素をすべて含めた場合の狭義は、「漢字が用いられている場合に読むことが難しく、伝統から逸脱した、頻度が低い名前で、肯定的または中立的な文脈で用いられる名前」となります。
考察 :まとめと注意
本論文は、これまで曖昧に理解され、散逸的に議論されていた概念を明確化し、共有可能な基礎的知見を提供した点で意義があります。本論文の目的は、あくまで定義を整理して理解することであり、定義をひとつに制限して、それを強要することではありません。
キラキラネームは、広義では「頻度が低い名前」と定義されていました。ただし、キラキラネームを「頻度が低い名前」という広義でのみ使用し、既に説明したような構成要素を付加しない場合、敢えてキラキラネームという抽象的なラベルを付けて呼ぶ必要があるのかは疑問です。 「頻度が低い名前」や「珍しい名前」、「個性的な名前」、「一風変わった名前」などと直接意味を説明した方が分かりやすく、誤解を与えることもありません。
狭義では「頻度が低い名前」に加えて「伝統から逸脱した名前」と「読むことが難しい名前」、「肯定的または中立的な文脈で用いられる名前」の3つの要素を含む名前として定義されていました。同時に、代表的な辞典や事典においてさえ、定義に分散があり、含まれる構成要素にも違いがあることを示していました。よって、キラキラネームに関して主張や議論を行う際には、キラキラネームの定義、少なくともキラキラネームが何を意味しているのかを簡潔にでも説明してから、論を進めるべきです。その際に、代表的な辞典・事典の定義をまとめ、どのような要素によって構成されることが多いのかをまとめた本論文が役立てば幸いです。
参考文献
- 荻原祐二 (2022). キラキラネームの定義とその構成要素 人間環境学研究, 20, 71-79.
- 荻原祐二 (2023). 人名の読み方とその不確定性:実証研究の概観 日本語学, 42, 142-155.
- Ogihara, Y., & Ito, A. (2022). Unique names increased in Japan over 40 years: Baby names published in municipality newsletters show a rise in individualism, 1979-2018.Current Research in Ecological and Social Psychology, 3, 100046.
この記事を書いた人
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青山学院大学 教育人間科学部 准教授。京都大学 教育学研究科 博士後期課程修了。博士(教育学)。日本学術振興会 特別研究員PD、カリフォルニア大学ロサンゼルス校 心理学部 研究員、東京理科大学 教養教育研究院 助教を経て現職。専門は社会心理学・文化心理学だが、分野横断的なアプローチを行っている。社会・文化と人間の相互構成過程に興味があり、近年は社会・文化の維持と変容に関する研究を進めている。Society for Personality and Social Psychology(アメリカ人格社会心理学会) Student Poster Award 受賞(2015年)、日本心理学会 国際賞奨励賞 受賞(2022年)。
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