北大・山本順司准教授によるサイエンスカフェ「石の中の銀河・惑星地球の時空間」が開催されました!
クラウドファンディング「北大博物館に100万分の1スケールの地球断面図を作りたい!」で目標金額を達成した、北海道大学総合博物館の山本順司准教授によるサイエンスカフェが、8月19日(土)に東京・高田馬場にて開催されました。
今回のサイエンスカフェは二部構成で行われ、第一部では「石の中の銀河」と題して山本先生の研究紹介を、第二部では「惑星地球の時空間」と題して博物館の展示解説をしていただきました。本稿では、その様子をお届けいたします。
地球のすがたを知る
まずは、「石の中の銀河」と題した研究紹介でした。山本先生は太陽系の起源を解明することを目指しています。 小惑星探査機「はやぶさ」のプロジェクトでは小惑星から太陽系の起源を探索しようとしていますが、山本先生は地球深部と大気の性質を調べることによっても、太陽系や地球がどのようにして作られたかを知ることができると語ります。なぜなら、地球深部も大気も、原始隕石によって作られたものだからです。隕石の構成成分のうち、重い成分は地球深部の一部になり、軽い成分は気体となって大気を構成します。山本先生は、地球深部と大気の成分を調べて隕石の”記憶”を探ることで、地球の成り立ちを解明する研究を行っています。
隕石の”記憶”を探る
研究の過程では、ときに大変な経験もするそうです。たとえば、ハワイで溶岩を採取するために、船上で1か月近く生活していたこともあったと語っていました。ハワイを採取場所に選んだ理由は、原始隕石の成分を直接採取できるかもしれないと考えているからです。この考え方は、地球化学的なモデルに基づき、マントルは全体が均一ではなく、上層マントルと深層マントルに分けられるとするものです。この考え方のもとでは、ハワイは「ホットスポット」と呼ばれ、深層マントルが直接地上に上がってくる貴重な場所であるそうです。一方、マントル全体を均一として考える地球物理的なモデルもあり、どちらが地球の真のすがたであるかどうかはまだ決着がついていないと述べていました。
では、採取したサンプルのどの成分を調べるのでしょうか。それは、希ガスです。希ガスは安定で石と反応しないため、希ガス(ヘリウム・ネオン・アルゴン・クリプトン・キセノン)の比率を調べることで、地球深部と大気がどのような隕石からできたか推測できるそうです。
大気中の成分を調べた結果、大気の希ガス組成は炭素質コンドライトという隕石に含まれる希ガスの組成に近く、また、ハワイの溶岩を調べた結果、主に炭素質コンドライトからなっていることがわかりました。ただしデータを詳しくみると、エンスタタイトコンドライトという隕石が少量含まれた混合物の可能性もあるそうです。山本先生は、さらなる調査が必要であるとしたうえで、もし地球がどのように作られたかがわかれば、地球の内部温度がわかり、今後どのように地球が冷えていくかも予測できるかもしれないと語りました。
地震をきっかけに科学を伝えることに興味をもつ
続いて、「惑星地球の時空間」と題して北海道大学総合博物館の展示解説をしていただきました。話のなかでは、博物館リニューアルまでの道のり、クラウドファンディングで集めた資金を使って設置した「6.4mの地球断面図」について詳しく知ることができました。
大学3年生のころ、所属する研究グループが阪神淡路大震災の前兆(地下水のラドン濃度上昇)を観測していたことが、科学をどう広く伝えるべきか考える機会になったという山本先生。これまでに、科学館をもたない大分県において「青少年科学館を作る会」という活動を行い、石からマグマを作るといった出張実験教室などを行ってきました。こうして科学を伝えるなかで、「新しい博物館を作りたい」という思いは山本先生の心の中にずっとあったそうですが、現在所属している北海道大学に移るまで、それを実現する機会はなかなか得られませんでした。
世界のどこにもない、とんがった大学展示を作る
北大に移ってから少し経った頃、博物館改修の機会が得られ、どうせなら大きくリニューアルしようと思ったそうです。そのコンセプトは「世界のどこにもない、とんがった大学展示を作る」でした。大学展示というと、どこか古くさい内容で、展示内容もずっと同じような印象がありますが、山本先生はそのイメージを変えようとしました。大きくリニューアルするために大学内でさまざまな交渉をする必要があり、非常に大変だったとも語っていました。
その苦労のかいもあり、入館料無料で、北大12学部すべての展示室を設置し、お酒や展示に絡めたメニューを提供するなどこだわりのカフェを備えた、魅力的な博物館が完成しました。バリアフリーで、授乳室や手で触ることができる展示などを設け、ユニバーサルミュージアムとしての取り組みも行っています。リニューアル前よりも来館者は伸びており、年間40万人の来館者を目標にしているそうです。
リニューアル時に、山本先生は念願だった自身の展示室を作ることができるようになりました。山本先生が整備した展示室では主に石や鉱物を展示しています。展示品がよく見えるように、照明の当て方や展示ケースの配置にも工夫したと語っていました。標本ラベルをあえて付けていない展示や、合成結晶や生体鉱物の展示といった展示内容はもちろん、鉱物を硬さ順や比重順に並べるなど、並べ方にも工夫が凝らされています。地殻とマントルの境目(モホ面)という非常に珍しい展示もあるそうです。
その展示室のなかでもひときわ目を引くのが、「6.4mの地球断面図」の存在です。これは、アカデミストのクラウドファンディングで集まった資金によって制作されたもので、壁一面に貼られた断面図から、100万分の1スケールで地球の内部を詳細に知ることができます。正面から見ると、ライトアップされた断面図が強調されてきれいに見えます。また、断面図の表面につくった凹凸で立体感を演出するなど、細部にまで工夫が施されています。この断面図を見ると、日本の富士山も地球規模では小さな点ほどの大きさであることが実感できます。また、46億年にもおよぶ地球の歴史を表現したパネル「4.6mの地球史年表」も印象的です。札幌を訪れた際には、北海道大学総合博物館にぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
- 早稲田大学先進理工学研究科先進理工学専攻 一貫制博士課程4年。2017年度より日本学術振興会特別研究員(DC2)。早稲田大学リーディング理工学博士プログラムに所属し、「エナジー・ネクスト」をテーマとして、外部刺激で動く新しい材料の開発を目指して研究しています。