現在、クラウドファンディングに挑戦中の「アリに学べ!ロボットの集団行動最適化プロジェクト」は、ロボット工学や情報工学、数理生態学など、さまざまな分野を専門とする研究者で取り組む異分野連携型のプロジェクトである。しかし、異分野連携型と言っても、実際どのような連携が行われているかをイメージすることは難しい。今回、プロジェクトのメンバーであり、進化生物学を専門とする京都大学・土畑重人博士に、ご自身の研究内容と異分野連携のメリットについて、詳しくご紹介いただいた。

ーはじめに、土畑先生の専門分野についてご紹介ください。

私の専門は、進化生物学です。たとえば、丸い形をしていたほうが、四角い形をしているよりも生き残る確率の高い生物がいるとしましょう。するとその生物では、世代交代のたびに丸い形が増えることになるので、最終的にはみんな丸い形をするようになるはずです。このように、環境に最も上手く適応できた生物の性質が引き継がれていく考えかたのことを、「適応進化」と呼んでいます。進化生物学は、多様な生物のありかたを、適応進化という言葉で普遍的に捉えることを追求する学問であると言えます。

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ー土畑先生は、どの生物の適応進化に注目されているのでしょうか。

私は、アリに注目しています。アリの世界では、女王アリがたくさんの卵を産んで子どもを作り、働きアリが子どもを育てています。働きアリのなかでも、たとえば、若いアリは巣のメンテナンスや子育てを行い、高齢のアリは外から餌を持ってくるなど、各々が自分の役割を果たしながら生活しており、人間に似た社会性を持っています。アリでは、この社会性が適応進化してきたと考えられるのですが、働きアリは自分自身で卵を産むことはできません。そうすると、働きアリの性質がどのように次世代に受け継がれていくかよくわからないという問題が生じます。

ーたしかに、女王アリから働きアリの性質を持つ子が生まれてくるのは、不思議に思えますね。

この問題には、適応進化の考えかたを150年前に提唱したダーウィン自身も悩まされたそうです。それから100年経った今から50年ほど前に、ひとつの答えが示されました。働きアリは、自分では子孫は残さないのですが、働きアリと女王アリは血縁関係にあります。つまり、両者は同じ遺伝子を共有しているため、女王が子供を作ることで、働きアリは間接的に自分自身の遺伝子を残すことになっているといえるのです。自分では子供を作らないけれども、女王アリから産まれた自分の弟や妹を育てることで働きアリの性質を継承する。この考えかたは、進化生物学の研究を前進させるブレイクスルーになりました。

ー現在土畑先生は、研究でどの種のアリを取り扱われているのでしょうか。

私が大学院時代から研究してきたのは、アミメアリです。日本で行列を作って歩くアリの多くは、アミメアリです。そう聞くと、メジャーなアリであるかのように思われるかもしれませんが、実はアミメアリって、大きくふたつの理由から、一般の社会性昆虫という枠組みが当てはまらないんですよね。

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まず、アミメアリには女王がいません。逆にいうと、アミメアリ全てが女王として振る舞うと言っても良いのですが。アミメアリの社会は、巣に住んでいるみんなで卵を産み、それをみんなで育てるという仕組みを持っています。みんなが働きアリで、みんなが女王アリというように、分業していないアリなんですよね。

ーもうひとつは何なのでしょうか。

もうひとつは、オスがいないことです。アミメアリは、単為生殖で子供を作ります。厳密には、オスも少しはいるんですけれども、全く機能はしていません。こういうふたつの性質をあわせ持つアリはかなり特殊で、全部で1万数千種いるアリのうちでも、2種類だけなんです。

ーとすると、将来的にアミメアリのオスは淘汰されてしまうのでしょうか。

もしかすると、アミメアリがオスを作る性質はなくなるかもしれません。ただ、それば難しいところで、そもそもなぜ「性」が存在するのかということも、進化生態学の大きな問題なんですよね。サイズの大きな動物は、基本的にオスとメスの両方がいるんですけれども、オスがいなくなると、その種全体の寿命は短くなると考えられています。つまり、オスがいなくなることで、その生物種自体が絶滅するかもしれないということです。もしかすると、アミメアリはオスではなくて、アミメアリ自体がいなくなるほうが早いのかもしれませんね。

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ガラス管の内部で生息するアミメアリたち

ー現在土畑先生は、アミメアリのどのような特徴について調べられているのでしょうか。

みんなで産んでみんなで育てるアミメアリの社会は、一見平等社会であるように見えます。それではこの平等社会に、卵はたくさん産むけど仕事はしない突然変異体が発生すると、どうなると思いますか? 変異体が卵をたくさん産むことを考えると、次世代にはもともとのアミメアリが持つ遺伝子よりも、突然変異の遺伝子の割合が増えてきそうですよね。すると、巣で働く個体が少なくなり、巣の維持が難しくなると予想できます。この予想は先行研究でされていたのですが、実は私、卵をたくさん産み仕事をしない突然変異体を野外で発見したんですよ。

ーなんと、実際にその個体がいたのですね。やはり巣はダメになってしまうのでしょうか。

それを実際に、飼育実験で確かめました。人間の事例で例えると、税金を払わない人がいると、その人は得をするけれども、社会としては損をすることになり、公共の利益が先細ることなりますよね。同じようなことが、アミメアリで起こっているんです。もし、巣の中に働くアリがいなくなれば、働きアリの系統を道づれにして、巣が滅んでしまうと考えられます。さらに、働かない「裏切り系統」のアリはほかの巣に移ることもあるのですが、アミメアリ全体に裏切り系統の遺伝子が残されることになるので、アミメアリ自体が絶滅することも考えられます。

ーこの裏切り系統は、いつごろからアミメアリと共存しているのでしょうか。

遺伝子を見てみると、実はこの裏切り系統は働きアリ系統と1万年くらい同じ場所にいるということがわかってきたんですよね。そんなに長い期間一緒にいると、アミメアリ自身が滅んでいてもおかしくないのですが……。その理由については、まだ答えを出し切れていないため、これから取り組んでいきたいと思っています。

ー実は裏切り系統が、何かしらの良い影響を巣に与えていたとか……?

もしかすると、裏切り系統がコロニーの巣の役に立っているという性質を見逃している可能性もあります。今のところ、見逃しているとは思えないんですけれども(笑)。裏切り系統はとにかく働かずに卵だけを産んでいるということは、間違いありません。

ー土畑先生の研究のモチベーションについて教えてください。

私は普段、アミメアリや社会性昆虫の研究ではなく、進化生態学を研究していると言っているんですよね。なぜかと言いますと、研究対象の生き物そのものよりも、その裏にある適応進化や巣が維持される仕組みに興味があるからです。先ほどお話しした、税金を支払わない人と裏切り系統のアリの対応もそうですが、違う生き物で見られる全く異なる現象が、実は同じ枠組みで説明できるということがあれば、とても楽しいと思うんですよね。たとえば、孔雀のオスが派手になるという現象と、カブト虫のオスのツノが伸びるという現象があるとします。現象としては全く違うものですが、つがいになる相手のメスがそれらの極端な性質を好むということから適応進化した、という意味では同じ枠組みのなかで理解できるわけです。見ている対象(もの)は違っていても、背後にある進化には何かしら共通する枠組み(こと)があると思っていて、私はそのような「ことの共通性」を見つけていきたいなと考えています。そういう意味では、研究材料はアリに限る必要はないんですよね。

ー「ことの共通性」を見つけるために、今クラウドファンディングで開発資金を募っている昆虫の歩行記録装置「ANTAM」は役に立ちそうですね。

そうですね。ANTAMが使えるようになったら、まずはアリの動きの普遍性を追求していきたいと思います。アミメアリの働く系統と裏切り系統を、それぞれANTAMの上で歩かせてみたいです。働きアリは餌を探すなど歩きまわる必要があるのですが、裏切り系統はあまり動く必要はないわけですよね。ただ、ほかの巣に侵入するときには、がんばってほかの巣を探さなければならないと。動くことに対する目的の違いが、歩行軌跡にどう反映されるのかは興味深いと思います。社会性とどう絡めるかは、これからの課題ではあるのですが。

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ー進化生物学の領域だけの視点では、ANTAMを使おうという発想には至らないと思うのですが、もともとANTAM開発者の方とはどのように出会われたのでしょうか。

ANTAM開発者の藤澤さんとは、研究集会で一度面識があった程度で、はじめは特に何か一緒にやろうということはありませんでした。最初に会ってから数ヶ月後、研究の材料を買いに東急ハンズに行って、帰りぎわに喫煙所に寄ったところ、藤澤さんに偶然遭遇しまして(笑)。そこで、研究について少しお話ししたところ、ANTAMのことをご紹介いただき、密に連絡を取り合うことになりました。

ー工学の研究者と議論をする中で、新しい発見はあったりしますか。

工学研究者の方の考えるシステムは、人間の合理的な思考の結晶なのだなあということをよく思います。たとえば、藤澤さんはアリが道しるべをたどって餌を探す行動を模倣した「群ロボット」を開発されているのですが、このシステムでは、2体のロボットが道しるべ上でぶつかったときに、巣から餌に向かうロボットが餌から巣に戻るロボットに道を譲るという「優先ルール」が組み込まれているんですよね。これは、「このほうが効率的だろう」という藤澤さんの直感で作られたのですが、私は社会性昆虫ではそのような行動が知られていないという知識を持っているので、驚きました。

ー工学的な視点が、生物学の研究テーマに広がりを持たせたということでしょうか。

そうですね。生物学の研究者として私がやるべきことは、実際のアリでも「優先ルール」が存在するのかどうかを調べることで、現在、そのような検証を計画しているところです。工学では、生物の形や暮らしぶりの合理性を工学的に応用しようとする、バイオミメティクスという分野があるのですが、私は逆に、工学研究者が考えたいろいろな合理的なシステムが、生物界にも発見できるのではないか、という興味を持ちながら研究を進めています。

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この記事を書いた人

柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。