2015年1月にacademistのプロジェクト「5億年前の化石「small shelly fossils」の謎を解明したい!」で目標金額を達成した佐藤友彦研究員に、中国雲南省での調査研究の様子についてご寄稿いただきました。クラウドファンディングで獲得した研究費で、どのような調査をされてきたのでしょうか。以前本誌でも取り上げた佐藤研究員のインタビュー記事とあわせてご覧ください。

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地球史のなかで最も急激に生物が進化・多様化したことで知られるカンブリア紀は、アノマロカリスをはじめとする奇妙奇天烈化石で有名ですが、それよりも早くに出現したのが「small shelly fossils(通称SSF:約5億4100万年前~)」と呼ばれる化石たちです。「カンブリア爆発」の進化の第一段階として、SSFが多様化した要因を明らかにしたい、というのが私の研究目的です。

カンブリア紀のバージェス頁岩型化石の出現時期は、カナダ・ブリティッシュコロンビア(約5億800万年前)や、グリーンランド・シリウスパセット(約5億1800万年前)よりも、中国・澄江(約5億2000万年前)が最も古いことが知られています。それと同様に、SSFも最古のグループは中国で多く見つかっています。そのため、SSF進化の研究を行うためには、「カンブリア紀の進化のホットスポット」と言うべき中国での調査が欠かせません。

私は、2009~2014年の間、中国雲南省で毎年野外調査を行ってきました。雲南省には、約40億トンという世界最大の埋蔵量を誇るカンブリア紀のリン酸塩岩が分布し、生物にとって必須な栄養であるリンと生物進化との関係が議論されてきました。私はこれまでの調査・研究で、カンブリア紀当時に昆明地域に存在した「リンに富む閉鎖的な浅い海」でSSFの多様化が起きたということを明らかにしました。SSF進化の起きた場所・タイミングをさらに絞り込むため、また、大量のリンを供給したのが火山活動なのではないかという仮説を検証するため、academistでのクラウドファンディング(2014年12月~2015年1月)を通じて獲得した研究費により、今回2年ぶりの野外調査を敢行しました。

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中国雲南省の田舎の風景。道沿いにカンブリア紀初期の地層が露出しています

2016年8月、中国雲南省昆明地域および会澤地域で野外調査を行いました。地域による環境の差がSSFの進化にどう影響を与えてきたのかを念頭に、各調査地で地層の観察・記載をし、岩石サンプルを採取しました。今回の調査では、学生時代の師匠と2名の後輩、そして中国西北大学の共同研究者の劉さん、地元ドライバーの張さんにご協力いただきました。

私は、過去の調査の結果、他の研究者が報告していたよりも古い地層(リン酸塩岩層中部)から、多様化したSSFを発見しました。今回、各調査地でリン酸塩岩層の下部~中部を重点的にサンプリングしました。採取したリン酸塩岩からSSFを抽出し、多様化のタイミングがさらに古くまで遡れるか否か検討します。また、火山活動の証拠でもある、火山灰層のサンプルを採取しました。この火山灰層に含まれる鉱物(ジルコン)を使って年代測定を行うことで、火山灰が噴出≒堆積した年代を測る事ができます。その結果を用いて、SSF多様化を細かい時間スケールで解き明かそうと考えています。

カンブリア紀初期のリン酸塩岩層。縞々に見えるのはリン酸塩岩と炭酸塩岩が交互に堆積しているから。矢印の部分に厚さ5 cmの火山灰層があります

また、昆明地域のあるリン鉱山では、SSFと同じリン酸塩岩層の中から、生痕化石や、大きなミミズのような生物化石を発見しました。この発見によって、カンブリア紀初期の生態系が、mmスケールのSSFだけでなく、cmスケールの軟体生物が共存する豊かなものだった、という新たな描像が得られそうです。思わぬ発見に、私も時間を忘れて、リン酸塩岩の層理面に這いつくばって化石を探しました。

リン酸塩岩から抽出したSSF(左)と、同じ層から見つかった生痕化石(右)。カンブリア紀の生態系は、思ったより早い段階から豊かだった可能性が出てきました

academistでのクラウドファンディングのおかげで(当初の予定より遅れてしまいましたが)、目的の層序記載・岩石採取だけでなく新たな発見もある、実り多い調査をすることができました。また、サポーターの皆さんから温かい応援のメッセージをいただき、そのほかにもいろいろな所でお声かけいただく機会を得ることができ、なにより自分自身の研究への強いモチベーションになりました。あらためて、皆さんに御礼申し上げます。ありがとうございます。

現在、これまでの雲南省でのSSF研究の成果をまとめた論文の執筆を進めつつ、前期原生代(約21億年前)のアフリカ・ガボンの大型化石という新たな研究テーマに向けて始動しています。「生物進化」という大きな謎に、時代を越えて挑んで行きたいと考えています。どうか、今後の研究成果にご期待ください。

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この記事を書いた人

佐藤友彦
佐藤友彦

1984年生まれ。2012年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。現在は東京工業大学地球生命研究所に所属。好きな超大陸はロディニア。