美しい土星の輪

1610年に、ガリレオ・ガリレイによって発見されてから、土星の輪の姿形の美しさは人々を魅了してきました。現在では、数千円の手頃な市販の望遠鏡でも土星の輪を観測することができるので、一般の人たちにも身近な存在になっています。

土星の輪は、特徴の異なる複数の輪から形成されています。輪の幅は、100kmから数万kmとさまざまで、大きさがμmからmの無数の小さな粒子から形成されています。さらに、土星の輪を構成している粒子の95%程度が、水氷で形成されています。このように観測によって、現在の土星の輪の正体が次々に明らかになってきた一方で、「土星の輪はそもそもどのように形成されたのか?」という問いに対しては、惑星科学者たちは頭を悩ませていました。

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探査機カッシーニによる土星リングの観測画像(NASA提供)

輪の外側には数々の衛星が?

土星の輪のすぐ外側には、多数の小さな衛星も存在しています。最新の研究結果によると、輪は数十億年をかけて、土星から遠ざかる方向にゆっくりと広がることがわかりました。そして、輪の端が土星から十分に離れると、輪を形成していた小さな粒子たちが、自身の重力によって集まり、衛星になることがわかりました。つまり、土星の輪が形成された当時は、周囲の衛星質量を足し合わせた現在よりも”巨大な輪”であったと考えられます。

天王星や海王星にも輪は存在する

「輪をもっている惑星は?」と聞かれたら、「土星!」と言う答えがまず返ってくると思いますが、実は天王星や海王星にも輪があります。さらに天王星や海王星にも、土星の輪の周囲にあるような小さな衛星群があります。しかしながら、天王星や海王星の輪は非常に暗い色をしており、土星の輪と異なり、水氷だけでなく、岩石も多く含んでいると考えられています。つまり、惑星周りには多様な輪が存在していると言えます。

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ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した天王星リングの観測画像(NASA提供)

輪の起源に迫る

約40億年前の太陽系において、”後期重爆撃期”と呼ばれる特別な時期が存在したと考えられています。このとき、現在のカイパーベルトを形成している微惑星が無数に太陽系全体を飛び交いました。ほとんどの月のクレータが形成されたのも、この時期だと言われています。最新の太陽系形成モデルによると、この時期に巨大惑星は、冥王星サイズの巨大な微惑星(またはカイパーベルト天体)との近接遭遇を、少なくとも一度は経験することがわかりました。

我々は、コンピュータシミュレーションを用いて、このような近接遭遇過程を詳細に調べてみました。すると、巨大惑星の十分近傍を通過した冥王星サイズのカイパーベルト天体は、巨大惑星の重力によって破壊され、その破片の一部が巨大惑星まわりに捕獲されることがわかりました。さらに、捕獲された質量は観測される輪の質量および衛星質量を十分説明できうるものになることがわかりました。

しかし、捕獲直後の破片は観測される輪の構成粒子に比べると、遥かに大きいことがわかりました。そこで我々は、捕獲破片の長期的な進化を調べる新たなコンピュータシミュレーションを行いました。すると、捕獲された破片は長期的な進化で互いに高速衝突を経験して、最終的には観測されるサイズの破片となり輪が形成されうることがわかりました。

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リングの形成過程の概念図。点線は、巨大惑星の重力が強く働き潮汐破壊が起こる臨界距離。(a)カイパーベルト天体が巨大惑星に近接遭遇をする際に、巨大惑星の潮汐力によって破壊される。(b)潮汐破壊によって破片の一部が巨大惑星まわりに捕獲される。(c)破片同士の衝突によって捕獲された破片は破砕され、軌道も徐々に円軌道に近づき、現在のリングが形成される(Hyodo, Charnoz, Ohtsuki, Genda 2016, Icarusの図を一部改変)

さらに、我々のコンピュータシミュレーションの結果から、土星と天王星(または海王星)の輪の組成の違いを説明できることがわかりました。近接遭遇する冥王星サイズのカイパーベルト天体は、層構造(内部に岩石コア、外側に氷マントル)をしていることが期待されます。そして、土星と天王星(または海王星)を比べると、土星の密度は天王星や海王星に比べると小さくなります。つまり、同じ質量を仮定した場合、天王星や海王星より土星の半径は大きくなります。

一方、近接遭遇過程でカイパーベルト天体は、巨大惑星により近づくほと、より強い重力を経験することで、より程度の大きい破壊を経験します。しかし、土星では半径が大きいため近づきすぎると土星にぶつかってしまいます。その結果、土星でおこる近接遭遇過程での破壊とその破片の捕獲は、層構造をなしているカイパーベルト天体の氷マントルだけに限られます。一方で、天王星や海王星では、巨大惑星にぶつからずに、より近くを通過できるので、氷マントルだけでなく、岩石コアも破壊・捕獲されるような近接遭遇が起こることがわかりました。それゆえに、土星では観測に矛盾しない水氷からなる輪となり、天王星や海王星では、岩石成分も多く含む輪になると言えます。

系外惑星の輪

我々のコンピュータシミュレーションによる結果は、太陽系のみでなく、近年続々と発見される系外惑星にも適用可能です。現在のところ、観測技術の限界によって輪は系外惑星ではひとつしか発見されていませんが、我々の結果は、多くの系外巨大惑星が多様な輪をもつ可能性を示唆しています。近い将来、多様な輪が観測されていくでしょう。

参考文献

  1. Hyodo, R. & Ohtsuki, K., 2015. “Saturn’s F ring and shepherd satellites a natural outcome of satellite system formation”, Nature Geoscience, 8, 686-689 DOI: https://doi.org/10.1038/ngeo2508
  2. Hyodo, R., Charnoz, S., Ohtsuki, K. & Genda, H. 2017. “Ring formation around giant planets by a single encounter of Kuiper belt object”, Icarus, 282, 195-213 DOI: https://doi.org/10.1016/j.icarus.2016.09.012

この記事を書いた人

兵頭龍樹
兵頭龍樹
神戸大学およびパリ地球物理研究所でJSPS特別研究員をしております。私の研究分野は、惑星および惑星系がどのように形成され進化してきたのかを探る「惑星形成論」という内容になります。近年は、惑星がもつ衛星や輪の起源・進化にも取り組んでいます。