高エネルギーの光で見る宇宙

私たちがふと見上げ眺める夜空は、宇宙のほんの一部の姿に過ぎないことをご存知でしょうか。それは、私たちの目に映る宇宙は、可視光という狭いエネルギー範囲の電磁波を通して見るものだからです。20世紀以降、人類はX線やガンマ線などのより高いエネルギーで宇宙を観測できるようになりました。最近では、可視光の1000兆倍のエネルギーまで手が届きつつあります。

そのように新しい観測の窓が開いていくと、これまでよくある普通の星だと思われていたものが、実は全く特殊であることがわかり、その天体の理解ががらりと変わることが往々にしてあります。この記事では、その一例として、「ガンマ線連星」という未だ謎多き天体を、最新の研究結果とともに紹介したいと思います。

超高効率粒子加速器「ガンマ線連星」

X線での宇宙観測は、連星系からのX線放射という予期せぬ発見から始まりました。1962年、アメリカのジャコーニらは、X線観測装置を搭載したロケットを打ち上げ、太陽系外から予想外に明るいX線を検出しました。後に、このX線源の正体は、恒星と中性子星が対を成して回る連星系だと判明します。このような、中性子星やブラックホールを含んだ連星系は、この銀河系のX線源として次々と見つかります。これらの天体は、X線連星と呼ばれるようになり、今では300個以上、知られています。

2000年代に入り、X線連星の中で、さらにガンマ線でも明るく輝く特殊な天体が見つかり始めます。それが、この記事の主役「ガンマ線連星」です。アフリカにあるヘスガンマ線望遠鏡が、X線連星からTeVガンマ線と呼ばれる、可視光の1兆倍のエネルギーの光を観測したことがその発端でした。現在までに10個程度のガンマ線連星が発見されています。

初めに見つかったガンマ線連星の1つ LS 5039は、元々は、1960年頃に作られた可視光のカタログの中にいた、よくある青白い星のひとつでした(ちなみに、LSというのは、Luminous Starsの略です)。1990年代にX線連星であることがわかると、2005年には、今度はTeVガンマ線でも明るいことがわかりました。X線ガンマ線の観測技術の発展とともに、その特殊さがだんだんと浮かび上がったよい例です。

アフリカ・ナミビアにあるヘスガンマ線望遠鏡と、TeVガンマ線で観測させたガンマ線連星 LS 5039 の画像
https://www.mpi-hd.mpg.de/hfm/HESS/pages/about/telescopes/ および HESS collaboration et al., 2005 より)

では、ガンマ線連星が、TeVガンマ線で明るいことは、いったい何を意味するのでしょうか。このような高いエネルギーの光は、低エネルギーの光が高エネルギーの電子に叩き上げられることで生まれると考えられています(逆コンプトン散乱と呼ばれています)。観測されたガンマ線のエネルギーを説明するには、叩き上げる電子も同等のエネルギーが必要で、それは速度に換算すると、ほとんど光速と変わりません(1 TeVの電子の速度は、光速の99.99999999999%)。つまり、これらの連星は、非常に高いエネルギーの電子を生み出しているということです。

TeVガンマ線の生成過程である逆コンプトン散乱のイメージ図。ガンマ線連星では、恒星から放射される可視光が高エネルギー電子に散乱され、高エネルギーガンマ線になる。

さらに面白いのは、その高エネルギー電子の生産速度です。加速された高エネルギーの電子は、いつまでもそのエネルギーを保てるわけではなく、さまざまな物理プロセスによって自身のエネルギーを失っていきます。先ほどの逆コンプトン散乱や、磁場との相互作用などによって、ガンマ線連星では、ざっと数10秒で、そのエネルギーを失うと予測されます。それにも関わらず、観測すると、いつも安定して明るいガンマ線放射が見られます。これは、高エネルギー電子が冷えるのと同じくらいの時間で、どんどん電子を加速し新しく供給していることを意味します。

こう考えていくと、ガンマ線連星は、秒速で、電子をほとんど光速に加速し続けている「宇宙の超高効率な粒子加速器」という際立った天体であることが見えてきます。宇宙線の起源としてよく研究されている超新星残骸では、少なくとも数10年の時間をかけて宇宙線を加速していることと比べると、まるで「瞬間湯沸かし器」のようです。

ガンマ線連星のコンパクト星の正体の謎

すると、今度は、どうやって、ガンマ線連星は、効率よく電子を加速しているのかということが疑問になります。また、連星系ですから、どういう星のペアからなっているのかということも気になるわけです。まず、可視光の観測から、恒星の方は太陽の10倍から30倍程度の重い星であることはわかっています。問題は、もう一方のコンパクト星の方です。そして、ここが未だによくわかっていない大きな謎なのです。ここからは、先ほど少し登場した LS 5039 というガンマ線連星に絞って説明をしていきます。

LS 5039からTeVガンマ線が見つかった2005年頃、多くの研究者は、この天体にあるコンパクト星はブラックホールだと思っていました。ブラックホールが、恒星から出てくる物質を強い重力で捉えた後、ほぼ光速のジェットとして吹き出して、そのジェットの中で高エネルギーの電子が生み出される―こういったストーリーを考えていました。電波の解像度のよい画像を見ると、ジェットにも見えそうな構造がありましたし、当時のX線ガンマ線のデータはこのシナリオでよく説明できたこともあって、有力な説でした。

しかし、観測データが増えていくと、次第に風向きが変わります。たとえば、日本のX線天文衛星「すざく」による長時間の観測では、X線の明るさが、コンパクト星の軌道上での位置が同じであれば、観測時期によらず、いつも決まった明るさを示すことがわかりました。ブラックホールの連星では、この性質をうまく説明できませんでした。普通、もっとバタバタとした不安定な変動が観測されるためです。

その結果、主流になってきたのが、パルサー説でした。パルサーとは、高速で回る中性子星です。そのパルサーから吹き出る高速な風が、恒星から吹き出る恒星風とぶつかると、衝撃波ができ、そこで高エネルギー電子が生み出されるというシナリオです。高速スピンする中性子星の回転エネルギーが大元となって、加速電子が生まれているという説です。

ブラックホール説とパルサー説のイメージ図 (Mirabel, 2012より引用)

ただ、困ったことに、このどちらの説も、現在、観測データを上手く説明できていません。2010年代に入ると、今度は、Fermi衛星によるGeVガンマ線(可視光の10億倍のエネルギー)のデータが得られます。さらに、1990年代に活躍したCGRO衛星のMeVガンマ線(可視光の100万倍のエネルギー)の再解析結果も登場すると、驚くべきことに、この天体は、MeVガンマ線からGeVガンマ線にかけて一番明るく光っていることが判明するのです。私たちも、この天体の最新の観測データを使って、X線からTeVガンマ線までの放射スペクトルを調べましたが、先ほどのブラックホール説、パルサー説ともに、この一番明るい部分がよく説明できないことを明らかにしています。

X線とTeVガンマ線だけが見えていたときは、ほんの氷山の一角を見て議論が進んでいたわけですが、それらの放射の強さは、全体のほんの1%程度しかありませんでした。実は、総本山は、その間にあることがはっきりしてきて、この天体の理解をまた更新する必要が出てきたというのが今なわけです。

ガンマ線連星 LS 5039 の最新のX線ガンマ線のエネルギースペクトル。色の違いは、異なる軌道位相に対応していて、コンパクト星が観測者に対して恒星よりも奥側にあるときと手前側にあるときで分けている。実線は、パルサー説に基づく理論的な予想モデル。MeVガンマ線あたりのデータポイントが上手く合っていないことがわかる。詳細は、参考文献2つ目を参照。

超強磁場中性子星マグネターが潜んでいる?

最近、私たちは、新しい可能性として、このLS 5039にあるコンパクト星が、中性子星の中でも、宇宙最強クラスの磁場を持ったマグネターと呼ばれる天体ではないかという説を主張しました。

最初のきっかけは、この連星に、もし中性子星がいるのならば、中性子星がクルクルと回るのに対応して、周期的なパルス成分が見えないだろうか、という疑問でした。パルス探索は、電波やX線を使って、以前にもされていましたが、恒星風による吸収や他の放射成分に埋もれるためなのか、パルスは見つかっていませんでした。そういった影響の少ない、少しエネルギーの高い硬X線に私たちは注目して、日本のX線衛星「すざく」やアメリカのNuSTAR衛星を使ってパルス探索を行いました。

まず、「すざく」の硬X線データから、約9秒周期のパルス成分の兆候が見つかりました。また、信号の強さは小さいものの、「すざく」の9年後に観測したNuSTAR衛星のデータからも似たような成分が見つかり、これらを比べることで、パルスの周期が1年あたり0.001秒程度遅くなっていそうだということも分かりました。しかし、ここで一点、問題点が見つかります。先ほどのパルサー説では、放射エネルギーの大本が中性子星の回転エネルギーにあると仮定していましたが、得られた周期やその変化率からそれを見積もると、予想していた量に遠く及ばないことが分かりました。この結果を信じる限り、これまでと違う説明を考える必要が出てきました。

そこで考えたのが、1015ガウスというとてつもなく強い磁場を持つ中性子星「マグネター」の可能性です。まず、得られた周期・減衰率は、マグネターによく見られる値でした。また、マグネターの強力な磁場によるエネルギーがあれば、観測光度も自然に説明できそうだとも示せました。これをもとに、私たちは、LS 5039には、マグネターがいて、その強い磁場が恒星風と相互作用することで、電子が加速されているという新しいシナリオを提案しました。既存の説では説明がされてこなかったMeVガンマ線の放射成分も、今まで考えられてこなかった、磁場が中心的な役割を果たす電子加速を考えることで解決できるかもしれません。また、実は、マグネターはこれまで単独星としてしか見つかっていないので、この仮説が正しければ、連星系に見つかった初めてのマグネターという発見にも繋がります。

ただし、いくつか注意すべきこともあります。根拠としている周期成分は、検出感度のギリギリのところにあり、まだ確定的な観測証拠ではありません。また、マグネターがいたときに、具体的にどう電子加速が起きるかという詳細な物理機構もまだ不明です。私たちは、これまで考えられてこなかった新しいアイデアに辿り着きましたが、しばらくは、今後も新しい観測を続けながら、今回報告したパルス成分が本当に確かなものか調べていくことが重要だろうと思います。

すざく衛星の硬X線データのパルス探索の結果。9秒付近に、比較的強い周期的成分があるのがわかる。上部の赤い線は、統計的なゆらぎによって、0.1%の確率で、周期成分がたまたま生じるピーク強度の目安。詳細は、参考文献1つ目を参照。

最後に

この記事では、「ガンマ線連星」という特異な天体のこれまでと、私たちが、この天体には、マグネターという超強磁場中性子星が実はいるのでは、と提案するまでの経緯を紹介しました。まだまだ慎重に調べていく必要がありますが、新しい可能性はワクワクさせられるものです。また予期せぬ面白いデータが得られることを期待して、この記事を終わりにしたいと思います。

参考文献

  • Hiroki Yoneda, Kazuo Makishima, Teruaki Enoto, Dmitry Khangulyan, Takahiro Matsumoto,Tadayuki Takahashi
    “Sign of Hard-X-Ray Pulsation from the γ-Ray Binary System LS 5039”, Physical Review Letter, American Physical Society, 125, 111103, 2020
  • Hiroki Yoneda, Dmitry Khangulyan, Teruaki Enoto, Kazuo Makishima, Kairi Mine, Tsunefumi Mizuno, Tadayuki Takahashi
    “Broadband High-energy Emission of the Gamma-Ray Binary System LS 5039: Spectral and Temporal Features Using NuSTAR and Fermi Observations”, The Astrophysical Journal, IOP publishing, 917, 2, 2021

この記事を書いた人

米田浩基
理化学研究所 基礎科学特別研究員
2020年 東京大学大学院博士課程にて博士(理学)取得、その後、現職。中性子星を中心としたX線ガンマ線観測と、ガンマ線観測装置開発を主な研究テーマとする。趣味は、時々、ジャグリングをすること。