全国初の学際研究に特化した対話型学術誌「といとうとい」は単なる論文掲載雑誌ではない。
※本記事は、下記クラウドファンディングのチャレンジャー・宮野公樹さんによる寄稿です。著者単独による仮想インタビュー形式でお届けします。
<関連クラウドファンディングプロジェクト(すべて支援期間終了)>
全分野の研究者と「学問の評価」を議論する研究会を開催したい!
——対話型学術誌「といとうとい」の創刊、おめでとうございます。
ありがとうございます! 実は、正直、おめでとうって言われても、そうなのかなって感じです。
——え? そこはお祝いですよね。そういう気分じゃないんですか。
そうなんですよね。構想からちょうど1年後に、実際に完成した雑誌を手にした時の感動は今でもはっきり覚えてますがね。あのずしっとくる重さ、手触り感……。 あぁ、ついに具現化した!といった作品づくりの感動に近いです。今はその感動よりも不安の方に押しつぶされそうです(笑)。ま、不安というか決意、覚悟ですね。
——その覚悟とやら、聞かせていただけませんか?
この対話型学術誌「といとうとい」創刊に至った経緯や特徴については、Webメディア「ほとんどゼロ円大学」さんに書いていたいだたこちらの記事が非常にわかりやすいので、そちらをご覧頂きたいですが、僕がここで覚悟という言葉を使ったのは、3つの意味があります。ひとつは、新しいジャンルを作ることになったということ。
——作ることになった? 最初からそれを狙っていたのではなくて?
確かに、あのアートワークや著者と編集者との全対話の公開、各論考末にある論文解説エッセイなど、いろいろと特徴はありますが、すべて結果なんです。学際とは学問本来の性質なので、学問の表現というものを突き詰めたらあのようになった、ということなんです。
——「学際とは学問本来の性質」。これについて説明願えますか?
単純なことです。そもそも研究者の問い、テーマというものは、「・・・学」とか「・・・分野」といった分類に収まるものじゃないでしょ? 分野があって問いがあるのではなく、衝動にも似た切実なる問いの方か先にあるものです、こと大学での研究は。それに従ったのなら、後付けであるラベル(分野)がどれだなど、取るに足らないことです。
加えて、どのような問いであれ、それを一生懸命突き詰めようとするなら、必ず他分野との接触を余儀なくされるもの。あらゆる事象は複雑で重層的な関係性のなかにあるものですから。哲学者・三木清は言ってます、その研究がまだ他分野と接触してないのは、まだ始まってまもないか、成熟してないかのどちらかだって(出典:三木清大学論集 (講談社文芸文庫)より)。
——その「学際」を具現化したら、このような学術誌になったと……。
そうです。通常の各専門領域における論文誌では、研究内容もさることながら、その分野のお作法、しきたりにしっかりと則っているかが大事な掲載基準です。一定のフォームがあり、それを満たしていれば評価もしやすいし読みやすい。そのフォームにその分野独自の歴史性があり、それが価値でもあるわけです。他方、学際、すなわち学問そのものを扱おうとするとそのフォームというものがない。しかし、どれかの専門分野のフォームに寄せてしまうと、それは個別専門ど同じ並びになってしまい、学際あるいは学問ではなくなってしまうのです。ちゃんとメタじゃないとだめ。
結局、学問とは何か、どうであったらよいかを考えた結果、言葉を重視しつつも言葉で伝えられないものも扱うためアート作品と掲載したんです。そして、学問とは本来開かれたものなので、研究者じゃなくても誰でも投稿できるようにしたり、いろんな人が読めるように学術界に閉じずに一般書店やコンシューマサイトでも購入できるようにしました。あと他にも、論文誌では珍しい編集者のエッセーを追加し、この論考はこういう読み方ができて、ここがおもしろんだよ、と解説を入れたりした訳です。果たしてこの試みはどうなるか。しっかりとしたジャンルとして確立するかどうかが勝負だと思ってます。
——なるほど。対話を掲載したのもその学問の表現の観点からですか。
そうです。当たり前すぎて言うのも恥ずかしいですが、論文って、目的じゃなくて手段ですよね。掲載されたことで完了しててはダメなんです。それがどのように知に貢献したか。曖昧ではあるけどそうとしか言いようがない。だからこそ、ひとつの論文が起点となって、どんな対話がなされたか。それを可視化する以外に学問の深化はないと考えたのです。次回Vol.1となる創刊号では、投稿されたコンセプトペーパーの段階から広く公開し、査読者だけでなく多くの人との対話の場を作ろう思ってます。その対話場の特設サイトは、論文掲載後もずっと誰でも書き込みできるように掲示保存し続けます。
——被引用数がその知の貢献に当たるのでは?
だとは思いますが、それは限られた一側面ですよ。極論ですが、あまりに当たり前となった理論は引用しませんし、それに昨今、被引用数が評価軸となってきな臭い動きも出てきてますしね。そも学問研究の評価など、できやしないんです。そういう側から考えたら、対話そのもの、プロセスそのものを残し、今を生きるさまざまな大勢と議論し、未来の人間も巻き込み、みんなで深めあうことが本来の営みでないかと思った訳です。「といとうとい」の論文掲載基準は、考え尽くした深さがいかほどのものか、です。多様な分野からなる8名程度の研究者が記名にて投稿者と対話し、よりよい論考に仕上げます。
——次に、2つ目の覚悟をお聞かせください。
上記とも関係しますが、「といとうとい」に掲載した著者たちのコミュニティーを作ろうと思ってます。この学術誌に投稿しようとする人たちって、やっぱり現状にどこかしら不満があったり、突き破ろうとしてたり、とってもクリエイティブで本質的な研究者たちだと思うんですよね。投稿者は、編集者とのやりとりをはじめ、たくさんの対話を経て最終論考掲載に至る訳ですが、さらに、投稿者同士が集まる場を作り、投稿者同士でも磨き合う! それを夢想するだけで楽しみで仕方ありませんが、そういう分野も超えて、大学という組織も超えて、研鑽し合う場は作る自信はあります。しかし、それが権威化しないように、特殊化しないように、過度に組織化しないように、なんとか日常的に存在させたいんですよね、クローズドだけどオープン、みたいな。そのために何がどうできるのか……。とにかく必死に頑張りますよ。ご関心ある方、ぜひ一緒にやりましょうよ。それも踏まえたところで一般社団法人STEAM Associationも作りましたしね。
——それは激アツですね。他方、最近の研究者はどんどん忙しくなっていると聞きます。誕生したばかりの「といとうとい」に、実際に投稿して、業績ではなく研鑽が目的のそのコミュニティに参加しようとしますかね。
そう期待したいところですが、どうでしょうかね。去年、学際研究イメージ調査を実施したんですが、当然ですが自分の専門が第一という研究者は多いです、それが良い悪いではなくね。アンケート結果において、学際研究に関心がある研究者は約8割強ですが、現状の我が国の学術界は専門固定を前提とした制度なので、学際研究や学際活動は、まだまだエキセントリックな扱いというか、メジャーにはなってません。SNSを眺めてても、博士院生とか若手研究者で学際的な分野の人たちは、とても苦労している状況がいまだにありますよね。だからこそ、学際研究、すなわちどの分野でも受け付ける学術誌を作った訳ですがね。
——なるほど。学際研究をやってもしっかり業績になるっては大事ですからね。
はい。なので、来年度の「100人論文」では、これまでのような通常の研究テーマ掲示に加え、ちょっとガチの学会発表的なやつも同時開催しようと思っています。皆さま、ぜひご期待ください。何度も話しているように学際は学問本来の性質。学問本来の仕事なのにそれが評価されにくいっていうこの逆説は、なんとしても改善せねば。
——だんだん宮野さんのやりたいこと、その全貌が見えてきた気がします。最後の覚悟について教えてください。
ちゃんと発刊し続けるよう、持続的に制作費を確保するってことです。
——え? 京大学際センターの事業だから、そこにお金があるんじゃないんですか?
ないです。いや、正確にいうと、学際センターがしっかりと自立自走するようにしたいと考えているのです。文科省であったり、大学本部組織であったり、どこかしらに依存するとそこがボトルネックになりがち。それに、どうしてもつきまとう過度な説明責任ないしは評価作業に追われると、どっち向いて仕事してんのかって話になるので。しっかりといい事業を安定して回していかないと、挑戦し続けられない。それがいい仕事であるなら、きっと制作費も確保し継続できるはずです。それには覚悟がいることですがね。
この論文誌は、売れたいんじゃなく読まれたい。読んだ人に覚悟を迫りたい、学問するってことは覚悟するってことなんだって。それを決してブラさず、大勢の人たちに揉まれ、共同し、ひたすら「学問」をするだけです。そのために、全国の学際や異分野融合をミッションとする大学組織と連携しようと思ってます。著者たちのコミュニティだけでなく、組織単位でもコミュニティーを作ろうと思ってます。無謀な計画のように思えますが、実は、ポツポツとご寄付いただくなど、手応えも得ています。学術界のみならず、産業界からもいろいろお声がかかってもいます。
——最後に今後の予定をお教えください。
現時点では、次のVol.1は2022年12月発行予定です。そこから逆算し、論文投稿受付は2022年4月末ぐらいになる予定です。詳細は、京大学際センターHPに掲載しますが、リマインダー欲しい方は、こちらのメールマガジンにご登録しておいていただければと思います。
この記事を書いた人
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京都大学学際融合教育研究推進センター准教授
1973年生まれ。立命館大学理工学部卒業。同大学博士後期課程修了。その後、McMaster大学、立命館大学、九州大学を経て2011年より現職。京大総長学事補佐、文部科学省学術調査官の業務経験も。、国際高等研究所客員研究員。研究・イノベーション学会理事。一般社団法人STEAM Association代表理事。近著は2021年2月発刊「問いの立て方」(ちくま新書)
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