深海や地底は、光合成生物が誕生する前の地球環境に似ているといわれている。そうした極限環境に住む微生物の活動について研究し、生命の起源や地球初期生命の謎に迫っているのが、東京大学大学院 理学系研究科 地球惑星科学専攻 鈴木庸平准教授だ。これまでに、1億年前に形成された海底下深部の溶岩から微生物の細胞を発見したり、メタンをエネルギー源とする微生物生態系が地底に存在していることを明らかにしたりなど、さまざまな成果を残してきた。

一方で、鈴木准教授は、academistのクラウドファンデングにおいて、放射性粒子やPM2.5といった有害な粒子を炭酸カルシウムで包み込んで無害化する技術の研究に対して支援を募っている。将来的には、福島第一原発周辺の帰還困難区域をはじめとする放射能汚染環境の浄化に取り組んでいく考えだ。

極限環境の微生物と放射能問題——一見あまり関係なさそうにも思えるが、実はそこにはつながりがあるという。鈴木准教授に、研究の内容や経緯も含めて詳しく聞いた。

深海、地底、火星……極限環境に住む微生物の謎を追う

——鈴木先生はこれまでに、深海や地底の生態系や微生物について研究されてきたそうですね。

海洋研究開発機構(JAMSTEC)に在籍していたときには、有人潜水調査船「しんかい6500」に乗って深海底熱水噴出孔や海底火山に生息している生物の調査を行っていました。当時まだ運用が始まっていなかった地球深部探査船「ちきゅう」による岩石やマントルの掘削調査を見据えて、地学と微生物の知見を持つ私がプロジェクトに採用されたという形です。JAMSTECに在籍していた最後の年には、1年間で8回もしんかい6500で潜航しました。ちょっとそこのコンビニでポテチを買うような感覚で深海に潜っていましたね(笑)。

鈴木准教授がはじめてしんかい6500に乗船したときの潜航記念証。グアム沖の海底火山の調査を行った

その後、産業技術総合研究所に移り、高レベル放射性廃棄物の地層処分に関するプロジェクトに参画しました。日本では、放射性廃棄物、つまり原子力発電で生まれる「核のごみ」を地層深くに埋めて長い期間にわたって人々の生活環境から隔離する方針がとられていますが、地殻変動が活発な日本においては、火山や地震の影響を十分に評価して、安全を確保していかなければなりません。そこで、私は岐阜県の瑞浪超深地層研究所など全国3か所の施設を拠点に、地下数百メートルの地下水や岩盤の様子を解明する研究を行っていました。具体的には、実際に3か月くらい施設に滞在し、現場監督として地下深くの岩石や地下水を採掘して、それらの調査を進めていきます。

ただ、そうしたプロジェクトに携わるなかで少し自由になりたくなって……(笑)、統合国際深海掘削計画という国際的な海底の掘削プロジェクトに参加したこともあります。タヒチから乗船してニュージーランドのオークランドで下船する2か月のあいだ、南太平洋の海底下の岩石を採掘する調査を行っていたのですが、研究の結果、採取した岩石から微生物の細胞が見つかったんです。その岩石は、火星の地下深部にあるものと良く似ているため、火星で生命を発見するための手がかりになる結果であるといえます。

極限環境の微生物と放射能汚染環境の浄化——そのつながりとは?

——鈴木先生は今回、有害粒子を炭酸カルシウムで包み込んで無害化する技術の研究に対してクラウドファンディングにチャレンジされていますね。これまでの深海や地底の微生物の研究とは、一見するとあまりつながりがなさそうに思えるのですが……。

実は、もともと私は微生物に興味があって研究を始めたわけではないんです。修士課程までは、核のごみ問題を解決したいと考えて、ウラン鉱床から溶け出したウランが結晶として固定される自然現象について研究していました。

そのときに、ウランで呼吸する微生物がいるということを指導教員から教えてもらったのが、微生物に興味をもったきっかけでした。ウランで呼吸する微生物をうまくだましてコントロールできるようになれば、放射能汚染環境の浄化技術として使えるんじゃないかと思ったんです。そこで、博士課程のときには米国に渡り、ウランを結晶として固定する微生物の働きを利用して汚染環境を浄化する技術の研究を行っていました。

ただ、この博士課程での研究は悲しい結末を迎えてしまったんです……。もともと私は、核のごみ問題を解決したいという強い思いを達成するために、微生物が呼吸をするとウランが石として固定されるという現象を利用しようと研究を進めていたのですが、その石を実際に観察してみると、ナノメートルサイズのとても小さな石だったんです。こんな微小な石しかつくれないのであれば結局人間にとっては有害なままで、どう考えても汚染環境の浄化には役立ちません。ウランで呼吸する微生物は、自分が開発しようと思っている技術には使えないということを自ら発見してしまったんです。

それをきっかけに、ウランという言葉を聞くだけで心が沈んでしまうような状況になってしまって……。そこで少し違う研究をしてみようと、学位取得後は海底や地下の微生物生態系調査に従事してきたというわけです。

——そこからまた放射能汚染環境の浄化技術に関する研究を再開してみようと思われたきっかけは何だったのですか?

クラウドファンデングのページにあるように、瑞浪超深地層研究所で採掘された岩石を調査していたところ、偶然、炭酸カルシウム鉱物の内部にウランがナノ粒子として100万年ものあいだ取り込まれていたという現象を発見したためです。

瑞浪超深地層研究所がある岐阜県瑞浪市には、日本で見つかる鉱床中のウランの約50%が半径3kmに集まっているといわれる場所がありますが、なぜそこにそこまで大量のウランが集まっているのか、その原因はわかっていません。私たちは2000万年前まで遡って岩石の状態を調べることでその現象について紐解いていこうと、炭酸カルシウムの鉱物を調査していました。なぜ、炭酸カルシウムを調べるかというと、炭酸カルシウムには、当時の”水の情報”が保存されているためです。

調査で採掘される岩石の例。表面に炭酸カルシウムの結晶ができている

あるとき、炭酸カルシウム鉱物の分析を担当していた技官の方から、「先生、なんかウランがいっぱい入ってるんですけど」と報告を受けたんです。私は信じられなくて「いや、それは元素が間違っているよ。そんなところにウランがあるわけないじゃん」と答えたのですが、「でも、どうみてもウランなんですけど……」と、技官の方はゆずらない。そこで、私も実際に見てみたんです。すると、確かにウランの存在が確認できました。「えーっ!」 と声に出して驚きましたね。ウランが入っているなんて、夢にも思っていなかったので……。

しかもさらに、その炭酸カルシウム内のウランが小さなナノ粒子を形成していることも驚きでした。微生物がウランのナノ粒子をつくるという博士課程時代の研究と、ここでようやくつながりました。このウランのナノ粒子は、微生物によってつくられた可能性があるということです。これまでで一番強く、研究をしていてよかったと思った瞬間でしたね。

「微生物の働きを利用した汚染環境の浄化」というアイディアの社会実装に向けて

——炭酸カルシウムで有害な粒子を包んで無害化するというアイディアは、そのときの成果がもとになっているんですね。

はい。そして実は、ウランのナノ粒子だけでなく、それを包み込んでいる炭酸カルシウムも微生物がつくっている可能性があるんです。ちょうど先日、研究室の修士課程の学生が、地面の下で微生物に炭酸カルシウムをつくらせる再現実験に成功しました。試験管のなかで再現することはこれまでにもできていたのですが、実際に地面の下で意図して微生物に炭酸カルシウムをつくらせるということは、これまで誰も達成していませんでした。

——微生物の働きを利用して汚染環境を浄化するという博士課程時代の目標に、ここにきてようやく一歩近づいてきたという感じですね。クラウドファンデングのページには、実際に福島第一原発周辺の帰還困難地域で試料採取を行うとありました。研究成果の実用化に向けて、今後どのように活動を展開されていきますか。

目標は、放射性廃棄物や有害粒子を無毒化すること。炭酸カルシウムで有害粒子を包み込む技術はすでに特許化していますので、次は微生物を使って炭酸カルシウムをつくり、それを地面の下で起こすという技術の実用化を進めていこうと考えています。

昨年、福島県のNPO団体が運営する福島第一原発体験ツアーに参加した際、地元の方にこの技術の話をする機会があったんです。そのとき地元の方から「こうやって福島の問題を解決しようとしてくれる人がまだいたんですね。それを知ることができただけで嬉しいです」というコメントをいただき、なるべく早く技術の実用化につなげたいという気持ちが強くなりました。

実用化に向けては自治体や県、国などにも働きかけて取り組んでいく必要がありますが、やはり難しいことも多いです。ただ、そこに対して、クラウドファンディングはひとつの重要な”武器”になりえると思っています。研究費を獲得できることはもちろんですが、一般の人たちからどれだけ支持されている研究なのかということを可視化できるというのも、クラウドファンデングの重要な特徴です。クラウドファンディングでどれだけの支援が集まったかアピールしていくことで、民間企業や行政、大学などを動かし、さまざまな関係者を巻き込みながら進めていければと考えています。

自然を理解しているからこそ、技術に説得力がある

——お話を聞く前は、鈴木先生は「知的好奇心探求型の研究」と、「課題解決型の研究」の両方に取り組まれている珍しい研究者だなという印象を持っていて、そのモチベーションはどこからくるのか、不思議に思っていました。実際にここまでのお話を聞いていると、世の中の役に立ちたいという課題解決型の意識のほうが強いように感じましたが、いかがですか。

高校生の頃に研究者の道を志したのは、環境問題を解決したかったから。世間的には、地底や深海の研究者と思われているかもしれませんが、正直に言えば、本当に自分がやりたいことは、放射能問題を解決することなんですよね。クラウドファンデングに挑戦しているのは、「本当の僕をみてくれ!」っていう気持ちもある(笑)。ただ、放射能汚染環境の浄化という目的を達成するためには、”肉”だけではなく、”野菜”も食べなくちゃいけない。周辺分野の研究にも取り組んでいく必要があります。

同じような技術は世界中で開発が進められているのですが、みんな失敗しているんですよ。実験室ではできているけれど、実際の現場では一瞬にして破綻してしまうようなものばかりです。それは、自然の複雑なカラクリをきちんと紐解かないまま進めてしまっているから。みんな、自然を舐めているんです。

私はよく学生に対して「自然を舐めたらいかんぜよ」と言っています。いかにシミュレーションしても、実際に見てみるとまったく予想と違うものや現象に出会うことはよくあるんですよね。深海や地底の研究を通して自然を深く理解している私のような人間が、こうした技術をつくるということには意味があると思っています。

——たまたま見つかった現象が技術のもとになったというお話もありましたし、知的好奇心探求型の研究があってこその炭酸カルシウムによる無害化技術ということですね。

今の技術は、まだ”種”の段階です。私としてはその種を育てて、芽を伸ばしていくだけでなく、最後にはきちんと枝分かれしたひとつの大きな木になるようにしていきたいと思っています。そして、クラウドファンデングは、その種を育てて芽を出すというところに大きく貢献してくれるものと信じています。

鈴木庸平准教授 プロフィール
2002年ウィスコンシン大学マディソン校地質・地球物理学専攻博士過程修了。海洋研究開発機構極限環境生物圏研究センター研究員、産業技術総合研究所 深部地質環境センター研究員を経て、2011年より東京大学大学院理学系研究科 地球惑星科学専攻准教授。現在、国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)の火星サンプルリターン試料の分析プロトコル策定委員会で欧米以外では唯一の委員を務める。国内では宇宙航空研究開発機構(JAXA)の惑星保護審査部会委員。

この記事を書いた人

周藤 瞳美
周藤 瞳美
academist Journal 編集長
お茶の水女子大学大学院博士前期課程修了。修士(理学)。出版社でIT関連の書籍編集に携わった後、Webニュース媒体の編集記者として取材・執筆・編集業務に従事。2017年に独立。現在は、科学・技術、IT、ビジネス分野を中心に取材・執筆活動を行う。アカデミストでは、academist Journalの編集長としてWebメディアの運営に携わっているほか、クラウドファンディングのプロジェクトページなどコンテンツ制作全般をサポート。学生時代の専門は、計算化学、量子化学。 http://www.suto-hitomi.com/