産学協働で”人々の幸せ”の定量化に挑む – Santenが求めるアカデミアの学際的な「知」
企業活動とその発展、ひいてはより良い社会づくりに対してアカデミアが貢献できる手段は、研究成果の実用化や社会実装だけではない。変化が激しく不確実性が高い今の時代においては、アカデミアの「知」そのものが求められるようになってきている。
眼科領域のスペシャリティカンパニーである参天製薬(以下、Santen)も、アカデミアの学際的な知に期待を寄せる企業のひとつだ。同社は、天機に参与する——自然の神秘を解明して人々の健康に貢献する——という基本理念のもと、医療用眼科薬や一般用目薬をはじめとする医薬品の開発・製造・販売を手掛けており、近年ではグローバル展開を本格化するなど活動の幅をより一層広げている。創業130周年を迎えた昨年は、同社が目指す理想の世界像「WORLD VISION」および、その実現に向けたビジョン「Santen 2030」を打ち出した。Santenは、これまでに提供してきた製品に加え「眼科医療への貢献」「健康な目の追求」「共生社会の実現」を通じて人々の幸福に貢献し、Social Innovatorを目指す。現在、これらを具体化すべく、新規事業開発等を実行中である。
Santen2030の達成に向けた具体的な取り組みを実行するにあたってSantenが直面したのは「“人々の幸せ“をどう定量化するか」という課題だった。一企業だけでなく、アカデミア、そして社会全体にとって意義のあるこの問いにアカデミアの研究者とともに挑んでいくため、Santenは今回、academist Grantの公募を実施する。同社 VISION戦略推進室長 斎木陽子氏に、その狙いや展望について聞いた。
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「見る」を通じて人々の幸せに貢献するには
——まずは、昨年発表されたWORLD VISIONとSanten 2030についてご紹介いただけますか。
Santenが目指す理想の世界として、「Happiness with Vision」というWORLD VISIONを昨年発表しました。この言葉には、Best Vision Experience(『見る』を通じた人生における体験価値そのもの)をとおして、世界中の1人ひとりがそれぞれの最も幸福な人生を実現する世界をつくり出したい、という思いを込めています。
2019年の世界保健機関(WHO)の報告では、全世界で少なくとも22億人以上の人が何らかの視覚障害を持ち、そのうち約10億人は適切な治療を受けることができずに症状が悪化したとされています。眼科領域に特化した事業を展開している私たちとしては、そうした視覚障害に苦しむ世界中の方々にソリューションを提供できていないという課題意識を抱えていました。
さらにこの先の10-20年間で世界人口が増加し高齢化が進み、パソコンやスマートフォンの利用によって目を酷使するライフスタイルが進んでいくなかでは、目に不具合を抱える人の数はさらに増えていくことが想定されます。Santen 2030の出発点は、こうした状況において「これまでどおりのアプローチのまま活動を続けていてよいのだろうか」という課題感があります。
——より高い視点から企業活動をしていく必要があると考えられたわけですね。
私たちは、医薬品の開発・販売の実績や、そこに必要な眼科医の先生方とのネットワークなど、眼科領域の事業では長年の経験がありますが、逆に言えば、それ以外のものは持ち合わせていません。
より広い視点で世界の課題解決に携わり、「見る」を通じた人々の幸せを実現するためには、私たちが世界中のさまざまな技術や組織、そして人をつなぎ、オーケストレーションする立場になる必要があると考えています。そうした思いを込めて、Santen 2030では「Become A Social Innovator」という、当社のありたい姿を示しています。
——WORLD VISIONとSanten 2030を達成するために、具体的にどのような事業の展開を考えられていますか。
「Ophthalmology」「Wellness」「Inclusion」という3つの戦略の柱を立てています。
Ophthalmology(眼科医療への貢献)は、もともと私たちが強みとしてきた領域です。細胞治療や遺伝子治療などの最新技術も取り入れながら、引き続きコアビジネスとして取り組んでいきます。また、新興国などでは眼科医が不足しており、目の問題を抱えた患者さんが適切な治療を受けられないという課題もあります。眼科医療のエコシステムそのものを発展させることで、眼科医療を世界中に届ける仕組みづくりをしていく必要があると考えています。
Wellness(健康な目の追求)の領域では、健康な方々も含めて「見える」状態の大切さを知っていただき、疾患の早期発見や目の健康維持につながるサービスを提供することで、能動的により良い目の状態を目指していただけるような取り組みを行っていきます。
Inclusion(共生社会の実現)の領域では、視覚障がいの有無に関わらず、いきいきと共生できる社会の実現を目指していきます。たとえば、視覚障害で失明されている方も、目が見えている方と同じ機会が得られれば、その人たちと同じくらい幸せな生活を送ることができるかもしれない。私たちのような医薬品メーカーは、いかに病気を治すかということに注目しがちですが、私たちは、患者さんが幸せな人生を送ることができるかどうかということも大切だと考えます。私たちが具体的にお届けしているものはお薬ですが、それを通して人々の幸せに貢献できるよう、どのような価値をご提供できるか考えて続けていきます。
目が見えていることと人々の幸せの関係性を見出したい
——今回のacademist Grantで公募されているプロジェクトを通して、今後アカデミアの研究者の方々とどのような取り組みを実施していく予定ですか。
「Happiness with Vision」を実現するために、目が見えていることと人々の幸せの関係性を見出したいと考えています。病気を治すことによってどれだけ損失が減ったかを示す指標は知られていますが、たとえば目が見える状態を維持することによってどれくらい幸福量が増えたかといったような、アップサイドの部分の定量化は進んでいません。Well-beingの考え方に近いと思いますが、そうした人々の幸福量の指標をつくることで、私たちが掲げるビジョンの実現にどれだけ近づけているか、定量的に追えるようにしていきたいと考えています。
——人々の幸せを定量化することは、学問的にも面白い試みだと思います。
医薬品の有効性や安全性に関しては科学的な測定方法が確立されていますが、人々の幸せの定量化は、医学だけではない、より学際的なアプローチが必要だと考えています。社会学や哲学、心理学、経済学、数学など、あらゆる学問分野が関わってくるのではないでしょうか。
——academist Grantに応募される研究者に対して、何を期待されますか。
Santenは目薬の会社というイメージが強いかもしれませんが、その印象に囚われず、医学や眼科領域以外の専門分野の知見をいかしたご提案を期待しています。
実際に定量化できた場合は、その数値をどのように向上していくかという課題も生まれてきますし、そこに対しても学際的なアプローチが必要になってきます。幸せの定量的な指標をつくる取り組みを、社会全体で「見る」を通した幸せについて考えるムーブメントにまでつなげていくことができれば嬉しいですね。今回のプロジェクトが、そのきっかけになればと思っています。
——アカデミアでの研究成果を直接的に活用するというよりは、Santenや他分野の研究者の方々と協働で研究プロジェクトを進めていくイメージですね。
そうですね。「このテーマを研究して、期間内に成果を出してください」といったような、よくある受託研究ではありません。どのようなアプローチが取れるのか、どういう研究ができそうかといったアイディア出しからお力を貸していただきたいです。
研究者の方にとっては、さまざまな分野の方々と一緒にコンセプトの段階から議論して協働でプロジェクトを進めていくことで、専門分野のなかだけでは出てこなかったようなアイディアをご自身の研究にフィードバックできるような機会になると良いと思っています。
——Santenだけでなく、アカデミアや社会にとっても非常に意義のある挑戦的な取り組みだと感じました。
私たちの掲げているビジョンは、Santen1社のみで実現できるものではありません。私たちが触媒となり、さまざまなステークホルダーの方々と協働していく必要があると考えています。
研究者のみなさんには、ぜひさまざまな観点からご意見をいただければと思っています。自分の専門分野の視点からは何が言えそうか、あまりハードルを高く考えずに小さなアイディアでもご提案いただけると嬉しいです。
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[PR]提供:参天製薬 株式会社
この記事を書いた人
- フリーランスライター/編集者。お茶の水女子大学大学院博士前期課程修了。修士(理学)。出版社でIT関連の書籍編集に携わった後、Webニュース媒体の編集記者として取材・執筆・編集業務に従事。2017年に独立。現在は、テクノロジー、ビジネス分野を中心に取材・執筆活動を行う。アカデミストでは、academist/academist Journalの運営や広報業務等をサポート。学生時代の専門は、計算化学、量子化学。 https://www.suto-hitomi.com/