2019年4月21日(日)、物質・材料研究機構(NIMS)の一般公開に参加してきました。2019年は元素周期表が作られてから150周年ということもあり、NIMSに所属する研究者たちの開発する材料が「どの元素のどのような力で生み出されたか」ということが全面に押し出されていた企画でした。

当日は、NIMS発の研究成果をラボ訪問や講演会・実験ショー、ガイド付き見学ツアーなど、さまざまな形で知ることができました。

アトムプローブ:原子の立体地図を作る

さまざまなラボを訪問しましたが、特ににぎわっていたテーマは「アトムプローブ:原子の立体地図を作る」でした。そもそも原子ってどのように観察するのでしょうか……。電子顕微鏡を思い浮かべる方もいるかと思いますが、NIMSが開発したアトムプローブを使うと、原子を平面ではなく立体的に観察することができます。さらに、物質を構成する無数の原子がどのように配置されているのか、そしてそれらの原子がどの種類なのかというところまでわかるようです。下記の動画で詳細について説明されているので、ぜひご覧ください。

一般講演「まるで骨! 自分でヒビを治しちゃう未来材料」

長田俊郎博士による一般講演「まるで骨!自分でヒビを治しちゃう未来材料」には、70-80名の聴講者が集いました。現在航空機が抱える課題として航空機エンジンの材料開発があります。エンジンの内部は600-1500度と高温のため、熱に強く・軽い材料開発が必要です。そのひとつの候補にセラミックスが注目されているのですが、唯一の弱点がその「脆さ」で、現在のままでは航空機に使うことは困難です。

しかし1995年、横浜国立大学・安藤博士が酸化アルミニウムに炭化ケイ素を混合したセラミックスで、セラミックスに発生したヒビが修復する「自己治癒能力」を持つことを発見しました。当時は自己治癒能力を持つメカニズムが理解されておらず、ヒビが修復するまでに1000度の環境下で1000時間(42日間)を要していたのですが、長田博士はそのメカニズムを調べることによって、酸化マンガンを適切な箇所に加えることで、ヒビを最短1分で修復できることを明らかにしました。

長田博士は講演の締めくくりに「より性能の良い航空機エンジンを材料科学の立場から作り、ジェット機からでる二酸化炭素量の削減に貢献したい! 今日来てくれている子供たちと一緒に研究できることを楽しみにしています」と研究のビジョンと当日参加していた子供たちへのメッセージを熱く語っていました。

ナノ戦隊スマポレンジャー実験ショー

そして子供たちの人気を呼んでいたのが「ナノ戦隊スマポレンジャー実験ショー」。刺激に応じて自らの性質を変化させるように設計された材料「スマートポリマー(略してスマポ)」の役割について、スマポレンジャー(スマポレッド、スマポピンク、スマポイエロー、スマポグリーン、スマポブルー)たちがそれぞれの必殺技を活かしてウイルスを倒すというシナリオを通じて、子供たちにわかりやすく伝えていました。なお、スマポレンジャーの元締めである荏原博士は現在 academist でクラウドファンディングにチャレンジ中! スマートポリマーの多様な可能性にぜひご注目ください。

スマポレンジャーを一目見ようと100人近くの来場者が集まりました。ところでスマポレンジャーの中の人は研究者なのでしょうか……。

おわりに

一般公開はNIMSの3つの地区(並木地区、千現地区、桜地区)で開催されていたこともあり、全部を回りきることはできませんでしたが、元素のチカラを改めて知る良い機会になりました(来年は今年行けなかった桜地区から攻めようかな……)。

帰りのバス待ちの時間でも子供たちはスマポレンジャーになりきり死闘(?)を繰り広げていました。ただ残念ながら必殺技の名前は覚えていなかったようです。

この記事を書いた人

柴藤 亮介
柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。