会場からの風景

2016年5月12日(木)、アカデミスト挑戦中の徳島大学・古屋玲准教授による一般公開セミナー「宇宙における星形成史を辿ってみたい!」が開催されました。星形成における磁場を観測するプロジェクト「B-fields In Star forming Region Observations(BISTRO)」チームの日本代表として研究を進める古屋先生より、天文学の魅力や難しさ、最終的に明らかにしたい究極の問いまで、1時間に渡る講演が行われました。本稿では、当日お越しいただくことができなかった方々のために、セミナーの様子をダイジェスト版でお送りします。

ラジオ好きだった少年時代

小・中学生時代はラジオのような電子機器をいじることに興味を持っていた古屋先生。家中にインターフォンを張りめぐらせたり、バケツをコイルにしてラジオを製作したりしていたそうです。しかし、学生時代に在籍していた鹿児島大学で電波望遠鏡に出会い、天文学にのめり込むようになります。直径45Mの望遠鏡が設置されている長野県の野辺山天文台で博士号を取得した後は、イタリアのフィレンツェにある研究所、カリフォルニア工科大学、ハワイにある天文台と、主に国外を拠点として研究を進めていきます。

天文学者の悩ませる2つの問題

古屋先生を悩ませてきた問題のひとつが、「奥行き」です。たとえば、面に対して垂直の方向からお盆を見たとき、上下左右の位置であれば簡単に特定することができます。しかし、「奥行き」はそう簡単にはいきません。面の垂直方向に10cm奥にある点と、50cm奥にある点の位置の違いは、なかなか正確に捉えることはできません。同様の問題は、星の観測でも発生します。地球と観測したい星の距離を調べる度に、この「奥行き」問題に悩まされているそうです。

お盆を利用して「奥行き」問題の説明をする古屋准教授

また、私たちの生活に欠かせない「空気」が、天体観測では都合の悪い存在になっています。たとえば、水中を泳ぐ魚が水面を見上げると、水があるために水面が見えにくいはずです。それと同様に、空気中に住む人間が空を見上げると、空気があるために空が見えにくくなってしまいます。つまり、より正確な観測を行うためには、空気のできるだけ薄い場所に望遠鏡を設置しなくてはならないということです。BISTROチームが標高4000mにあるハワイ天文台で研究を進めている理由も、このためです。

「Are We Alone?」 – 究極の問いに答えたい

古屋先生の研究の最終目標は、「宇宙のなかで人間は孤独なのだろうか?」という疑問に答えることです。宇宙には、天の川銀河だけでも1000億個の星が存在するため、そのなかにひとつくらいは地球のような惑星があるのではないかと、古屋先生は予想します。最終目標を成し遂げるために、古屋先生は現在星形成の歴史を辿る研究を進めています。

歴史を辿るためには、星そのものを観測することが必要です。そして観測を進める際には、どの波長域で星を観測するかが重要になります。たとえば、星の発する可視光線を観測したときに真っ暗で何も見えなかったとしても、それだけでは「何もない」と言い切ることはできません。この段階では、「真空で何もない」か「何かがあるけど黒く写っている」のいずれかの可能性が残されることになります。両者を判別するためには、波長を変えて実験することが必要です。実際、可視光線よりも波長の長い近赤外線で観測すると、真っ暗な部分に星が見えることもあるそうです。

BISTROチームでは、「サブミリ波」と呼ばれる遠赤外線の波長域を利用して、可視光線では観測できない星の中心部を観測することにより、星形成における「磁場」の役割を調べます。現在理論家と観測家19名でチームを組み、ハワイのマウナケア山頂に設置されたJCMT望遠鏡を用いて研究を進めているところです。

JCMTの写真

「宇宙の誕生から現在までにいつどれくらいの星が誕生したのだろうか?」という問いに対する厳密な答えは未だ存在しておらず、また全てを確実に理解することは極めて難しい問題です。サブミリ波を用いた観測で、宇宙の成り立ちに対する私たちの理解はどこまで進むのでしょうか。今後本格的に始動するBISTROチームの研究に期待です!

この記事を書いた人

柴藤 亮介
柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。