2018年2月、”タッキー”の愛称でお馴染みの滝沢秀明さんがオンライン科学雑誌「Scientific Reports」の共著者として名前を連ねたことをご存知だろうか。この研究成果は、神戸大学海洋底探査センター・巽好幸センター長が主導するプロジェクトの一貫であり、私たちの生活を脅かす「巨大カルデラ噴火」のメカニズムに迫るものであるという。巨大カルデラ噴火とは何なのか。研究者たちはその謎にどう立ち向かうのか。自身の専門分野を「マグマ学」と語る巽センター長に、詳しくお話を伺った。

——はじめに、「巨大カルデラ噴火」について教えてください。

私たちの住む日本は、列島に111もの活火山が密集する火山大国であるということは、皆さんもよくご存知のことではないでしょうか。ここ数年で、御嶽山や阿蘇山などの噴火が相次ぎ、最近は富士山大噴火の可能性についても関心が持たれるようになりました。しかし、富士山大噴火の数十〜数百倍のマグマを噴き上げる現象があることは、まだ知られているとは言えません。日本列島ではかつて、この「巨大カルデラ噴火」が頻繁に起きてきたのです。

——富士山大噴火の数十倍とは……。直近の巨大カルデラ噴火は、いつごろ起きたのでしょうか。

7300年程前に鹿児島県南部の海域で起きています。この噴火は、今回滝沢さんが調査をした「鬼界カルデラ」で発生したもので、噴火後は東北地方まで灰が飛散しました。日本列島では過去12万年間で10回もの巨大カルデラ噴火が起きていて、今後100年で約1%の確率で発生します。次の噴火は着々と迫ってきているんです。

——今回この鬼界カルデラで、どのような調査をされたのでしょうか。

巨大カルデラが噴火する前は、カルデラの下に巨大な「マグマ溜」ができています。7300年前の噴火時にもこの巨大マグマ溜が一気に吹き上がったのですが、その一部はマグマ溜に残り、その「残りもの」たちが少しずつ噴き出すことで、次の噴火のもとになる溶岩ドームが形成されると考えられていました。もしそうだとすると、この溶岩ドームは巨大カルデラ噴火の名残のようなものであり、現在は「静穏期」と考えることができます。

巨大溶岩ドームの形成に関する2つの仮説(画像提供:巽センター長)

ところが今回の調査で、7300年前の巨大カルデラ噴火以降に32km3を超える溶岩ドームが形成されたこと、そしてこの溶岩ドームは巨大カルデラ噴火を起こしたマグマではなく、異なる性質を持ったマグマからできていることがわかりました。つまり、新たなマグマの供給源が存在している可能性があるということです。

——この結果は、どのような根拠から言えることなのでしょうか。

実は滝沢さんが採取した岩石が、その根拠になっています。今回私たちは、採取した岩石に含まれる二酸化ケイ素と酸化カリウムの比率を測定しました。図の黒いラインは7300年前のマグマの化学組成を、青いラインは薩摩硫黄岳などのマグマの化学組成を示しています。今回滝沢さんは、赤い点に対応する岩石を採取しました。つまり、7300年前のマグマ溜の「残りもの」とは違う化学組成であることがわかりました。

二酸化ケイ素と酸化カリウムの比率を測定した図(画像提供:神戸大学探査センター)

——なるほど。マグマ溜の「残りもの」だとしたら、黒いラインに乗るはずですからね。薩摩硫黄岳のマグマはどのような特徴を持っているのでしょうか。

薩摩硫黄岳は鬼界カルデラにある活火山で、現在も継続的にマグマが供給されています。つまり、鬼界カルデラの溶岩ドームでも同じようにマグマが供給されている可能性が高いと言えるのです。このような違いが発生した理由は今後追求していくことになりますが、少なくとも巨大カルデラは「静穏期」にあるのではなく「準備期」に入ったと考えることができそうです。

——ところで今回、どのような経緯で滝沢さんは研究に参加されたのでしょうか。

私たちはもともと火山学、地震学、電磁気学などの専門家チームで研究してきました。最初は、海中ロボットを使ったり、船からドレッジと呼ばれるバケツのようなものを下ろしたりすることで、鬼界カルデラのサンプルを集めていました。ただ、ドレッジではどこで取られたサンプルなのか、正確にはわかりません。溶岩ドームが作られている場所からサンプルを持ってこないと、たしかなことは言えないわけですね。どうしようかと悩んでいたときに、NHKの記者さんから滝沢さんが火山探検に興味を持っているという話を聞き、すぐにお願いすることにしました。

——そうはいっても火山探検って、簡単にできることではないですよね……?

実は滝沢さんは、世界中のマグマが湧き出ている溶岩湖を見に行った経験をお持ちの火山探検家でもあるんです。しかし、やはり危険は伴います。今回は、NHKのベテラン潜水チームと一緒に鬼界カルデラに行き、碇を下ろして船を固定し、船から降ろしたロープを伝ってサンプルを採取されていました。相当な仕事をやってのけていましたよ。

——今回のプロジェクトは、滝沢さんが採集したサンプルや、さまざまな専門家の知見をもとに進められていると思うのですが、巽先生ご自身の専門分野を「○○学」と表現するならば、何と言えるのでしょうか。

「マグマ学」です。私たちは研究材料に、マグマが冷えて固まったものを使います。なぜかというと、マグマは地下深くで融けた物質が上昇してきたもので、それぞれの化学的な特徴を調べることで、融けたときの圧力や温度、それに融けた地球内部の物質の特徴を予測することができるからです。マグマは地球ができたころからあるので、地球内部の進化を知る手がかりになるんですね。ただし、分析結果で議論できることは限られてしまいます。そこで私たちは、地震学や電磁気学などから得られるデータも取り入れて総合的に研究を進めていくという意味を込めて、マグマ学という名前を作りました。

——マグマ学の究極の目的は何ですか。

最終目標は、地球が46億年かけてどのように進化してきたかを理解することです。しかし、現在は巨大噴火が起きるメカニズムの解明を目指しています。噴火について詳しく知るには、噴火のもととなるマグマ溜のことをきちんと知らなくてはなりません。先ほどからマグマ溜の話を何度かしていますが、実はその姿をきちんとイメージングできたことはこれまでにないんです。私たちが「マグマの活動が活発である」と言うときは、マグマ溜の大きさの変化を観測しているのではなく、マグマが移動したときに起きるような地震や、特徴的な地上の盛り上がりから間接的に予測しているのです。

——たしかにマグマ溜まりの様子を撮影せよと言われても、どうやるのか想像できません。何か良い方法があるのでしょうか。

地震波を用いた観測が行われています。たとえば、カルデラ火山のひとつであるイエローストーンでは、自然地震の際に発生する地震波を18年間観測することで、直径30kmほどのマグマ溜があることを予測しました。ただ、測定精度は決して高くありません。おそらく10年後にもう一度観測しても、ほとんど違いはわからないでしょう。マグマ溜の縁(へり)がきちんと捉えられていないんです。

——18年間も観測しても、なかなか精度が上がらないと。

なぜかというと、そもそも自然地震の発生数が少ないからなんですね。人工的に地震を発生させることで、原理的にはイメージングの精度を高めることができるのですが、それでは隣に人口60万人の鹿児島県がある桜島の下で試してみようというわけにもいきませんよね。

——実際に実験ができないとなると、難しそうですね。

でも難しいからやらないと諦めるのではなく、何かしらの形でやらなくてはなりません。そこで私たちが注目しているのが、海底火山です。人工地震を起こせる装置を船に乗せて、観測したい領域を動きまわることで、マグマ溜をイメージングできるのではないかと考えています。

——なるほど。実験の予定はあるのでしょうか。

2年後に海洋研究開発機構の「かいめい」で探査するために、現在準備中です。うまく準備が整った場合、鬼界カルデラで実験できることになっています。地下30kmくらいの深さまではイメージングできるのではないかと予想しています。これまで想像で描いてきた絵が、ようやく測定で見えてくるかもしれないと思うと、とても楽しみです。もちろんそれだけではなく、巨大カルデラ噴火の危険性の周知も引き続き行っていかなければなりません。やはり「マグマ溜の可視化」は何としてでも実現したいですね。

——巽先生が研究の面白さを感じる瞬間を教えてください。

地球科学では、「この観察事実からこの結果が得られました」というように、因果関係が1対1対応できるほどの論理的な背景がないため、ひとつの観察事実に対していろいろな解釈が成り立ちます。そのときに、観察事実を掘り下げるのもひとつのアプローチなのですが、関連する別の現象を一緒に説明できないかと考えるわけです。自然を多様な自然として認めるという視点は、地球科学のアプローチとして重要です。

私の仕事を改めて振りかえると、いろいろな定説がありどれが正しいかわからないときに、関連する現象を網羅的に見てあげて、それらを同時に説明できる説は何かということを考えてきた気がします。現象Aと現象Bがどう関係しているのかよくわからないというときに、ある定説をちょっと見直すことで解決できるのではないかと思いつくときは、面白い瞬間です。意図的にやっているわけではありませんが、結果的にそうなっていることが多いんですよ。きっと、そういうことが好きなのかもしれません。

研究者プロフィール:巽好幸センター長
1954年大阪生まれ。京都大学総合人間学部教授、同大学院理学研究科教授、東京大学海洋研究所教授、海洋研究開発機構プログラムディレクター、神戸大学大学院理学研究科教授などを経て2016年から現職。水惑星地球の進化や超巨大噴火のメカニズムを「マグマ学」の視点で考えている。日本地質学会賞、日本火山学会賞、米国地球物理学連合ボーエン賞、井植文化賞などを受賞。主な一般向け著書に、『地球の中心で何が起きているのか』『富士山大噴火と阿蘇山大爆発』(幻冬舎新書)、『地震と噴火は必ず起こる』(新潮選書)、『なぜ地球だけに陸と海があるのか』『和食はなぜ美味しい –日本列島の贈り物』(岩波書店)がある。

この記事を書いた人

柴藤 亮介
柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。