研究者と一緒に最先端研究について考える新企画「academist Live」。初回は、教育学を専門とする一橋大学大学院・奴久妻駿介(ぬくづま・しゅんすけ)氏に、教育学の概要や実際の仕事内容について詳しくお話を伺った。教育学では、「教育の多様性と画一性のバランスをどのように取るべきか?」ということを個々の事例をもとに考え、国に提案していくことがひとつの重要なテーマであるという。奴久妻さんは現在、自身が小学生時代を過ごした場所でもあるアメリカの外国人児童生徒がどのような教育を受けているのかということに注目し、研究を進めている。今回は、その国際比較を行うために、ニュージーランドにおける外国人児童生徒の研究に勤しむ成城大学大学院・柿原豪(かきはら・ごう)氏をお招きし、対談を実施した。本インタビュー記事では、対談の概要をまとめてお届けしたい。

外国人児童生徒を対象とした研究を進めている奴久妻駿介 氏(左)と柿原豪 氏(右)。アメリカとニュージーランドではどのような違いがあるのだろうか

奴久妻駿介 氏(以下、奴久妻):本日はよろしくお願いします。私は小学生のころアメリカにいたので、当時は私自身がまさに「外国人児童生徒」でした。今、日本に住む外国人児童生徒の状況を見ていると、当時の自分と重なるところもあり、そこが研究への動機付けになっているのですが、柿原さんはいかがでしょうか。

柿原豪 氏(以下、柿原):私は学校の教員としても働いているのですが、グローバル化が進み日本にも外国人児童生徒が増えていくなかで、今の学校現場はこのままで大丈夫なのだろうかという疑問を感じ、研究をはじめました。主に、外国人出身者が約4割いるというニュージランド最大の都市・オークランドに注目して、研究を進めています。

奴久妻:約4割というのは多いですね。実際には、どういう国籍の人がいるのでしょうか。

柿原:先住民はマオリ族で、そこにイギリスなどをはじめとするヨーロッパ系が移住してきて、ニュージーランドができました。第二次世界大戦後には労働力が必要になったため、南太平洋諸国からの外国人の受け入れを開始するわけですが、1990年代以降はアジア系の移民も増えてきています。

奴久妻:実際に、外国からニュージーランドに来た人たちの教育はどのように行われているのでしょうか。子どもたちの進学状況について教えていただきたいです。たとえば日本では、最近の高校進学率のデータをみると、朝鮮・韓国・中国系は9割程度が高校に進学しています。その一方で、フィリピンやブラジル系の子どもたちの高校進学率は5割前後と低く、さらにその子どもたちのキャリア形成は極めて不透明です。

柿原:一般的に、中国や韓国から来た豊かな層は良い学校に通い、高い進学実績を残しています。また出身国に限らず、たとえば経済的に高い水準にないオークランド南部などでは、進学率は高くありません。

奴久妻:国籍だけではなく、居住地域が豊かであるかどうかによっても、変わるということですね。たしかにアメリカでも、豊かな地域は固定資産税で学校の運営費が賄われることになるので、地価が高いと良い学校に通えるということは、ある程度言えるのかもしれません。

また、言語間格差も重要なトピックだと思います。たとえば日本では、日本語の習得が一番早いと思われているのは、漢字に対するハードルの低い中国系ですが、ニュージーランドでもこのような言語間格差を感じることはあるのでしょうか。

柿原:ニュージーランドの学校の先生に聞いてみると、アジア系の生徒は理数系の出来はいい。けれども、英語の障壁はあるといいます。

奴久妻:なるほど。理数系科目は比較的言語が関係ありませんからね。そういえば私も小学生のころは、算数の点数は高かったほうでした。ところでアメリカでは、言語間格差がある場合には、みんなが同じ授業を受けているなかで外国人だけ違う教室に移動して、ABCから学ぶ「取り出し授業」が行われているのですが、ニュージーランドはどうなってるのでしょうか。

柿原:日本もアメリカと同様に、取り出し授業が行われているのですが、実はニュージーランドではそれがないんですよね。あまりにも取り出し授業が多いと、子どもたちの学習権を侵害していると見なされてしまうんです。

奴久妻:ああ、そういう解釈なんですか。

柿原:ですので、基本的には取り出しは行いません。その代わりに、外国人児童生徒が多い学校では、その子どもたちを集めて、英語を母語としない生徒のための英語の特別授業を行うということをしています。母国の子どもたちが通うクラスよりもやさしい英語で勉強していくのですが、そのクラスのなかには、先生の話をさらに噛み砕いて生徒に伝えたり、生徒が困っている時にはアドバイスをするスタッフも入り込んでいるんです。

奴久妻:充実していますね。スタッフは、ボランティアになるのでしょうか。

柿原:日本ではボランティアがほとんどですが、ニュージーランドでは「ティーチャーエイド」と呼ばれる職業があり、彼らは学校に独自の予算で雇われています。非常勤職員ではあるものの給与体系はきちんと示されていて、経験を積めばランクが上がる仕組みです。ニュージーランド政府は、移民であろうとも国内格差を拡げたくないと考えているので、教育を受ける人たちは将来的にはニュージーランド人になるというスタンスで、教育制度を設計しています。

奴久妻:そうなると、外国人児童生徒の不就学問題もあまり発生しなさそうですね。

柿原:発生しない仕組みにはなっています。日本では、外国人児童生徒にとって義務教育は義務ではないのですが、ニュージーランドではそういうことにはなりません。義務教育段階にある全ての児童生徒は学校に通うことになっています。移民の場合には、内務省が移民の住んでいる地域を把握しているので、その情報が各自治体に流れ、家庭に連絡がいく仕組みになっています。

奴久妻:連絡がくるんですね。日本とは大違いです(笑)。

柿原:その辺りは、きちんとしていますね。日本では、各自治体が誰がどこに住んでいるかということを、把握できていないですから。

奴久妻:多言語化もできていませんからね……。ニュージーランドはその辺りきちんとしていると思います。外国人児童生徒と教育と結びつけて考えるときに、もう少し広い視点でみると、教育現場の画一性と多様性の話ができるのかなと思っています。教育現場には、外国籍だけではなく、同性愛や不登校、身体的なハンデなど、さまざまな子どもたちがいるわけですが、日本とニュージーランドの学校は、多様性と画一性の観点からみるとどのような違いがあるのでしょうか。

柿原:よく感じることは、校則の違いです。たとえば、髪の色に関する校則に関してですが、多民族化に伴い多様化が進むと、いろんな髪の色の子どもたちが出てくるわけです。それにも関わらず、髪の色は黒でなければいけないという話が未だにあったりするんですね。

奴久妻:なるほど。私の知る話では、ピアスをしているベトナム人の女の子が、日本の学校の先生からピアスは外しなさいと言われた事例があります。ベトナムでは女の子が生まれた場合、お母さんが愛を込めるという意味で、赤ちゃんにピアスを与える文化があるのですが、その文化が守られないことになります。校則が、文化を一元化してしまっている事例です。

柿原:日本人しかいないということを前提に、校則が考えられているわけですよね。

奴久妻:そう考えると、これから日本の学校に多様性を持たせていこうとなった場合、現在の公教育システムの枠組みだけで実現可能なのかというところは、考えるべきことだと思います。たとえば、インターナショナル・バカロレアでは、プログラム修了後に特定の試験をクリアすれば、各国の大学に入学することが可能です。個人的には、このような第三セクターが国境を超えた教育システムを作ることは、難民や特定の国でしか生きられない人たちのための新しい選択肢、すなわち多様性の担保に重要ではないかと考えているのですが、このあたりに関しては、どのように捉えていますでしょうか。

柿原:現場で働く先生方は、目の前のタスクをこなすことで精一杯ということもあり、多様性がどのようなものかということをあまり考えられていないと思います。まずは私たち教員が感じていることを、教育委員会や文部科学省にあげていくべきではないかと考えていて、私個人としては、研究を通じて先生方と上の方々をつないでいける仕事ができればと考えています。

奴久妻:また多様性を受け入れる方法として、ICT教育は重要だと思います。ケアの難しい生徒に対しては、現場で行われているFace to Faceだけではなく、公的機関以外の組織との連携も必要になるのではないでしょうか。

柿原:あまりそういう発想はなかったのですが、実現できればおもしろいと思います。現時点では、学校や生徒・家庭、企業、政府といった教育に関わるアクターの中に、画一性を大いに問題だとする意見は多くないのではないかと思います。画一性を大事にする教育による成功体験が大きいことは、良くも悪くもあるのかなと思います。変革の流れが生まれてきたときに、変わっていくのではないかなと思っています。

奴久妻:変革の流れを、私たちで作っていきましょう。もちろん、画一性の教育で得られた知見がたくさんあるのは理解しています。まずは違いの意見を混ぜ合うことが、重要な一歩です。柿原さんのような現場で働く先生をはじめ、さまざまな方々とブレインストーミングをしながら、気づきを増やしていきたいです。



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奴久妻駿介さんのプロジェクト「外国人児童生徒の不就学問題を解決したい!」、チャレンジ期間は残り3週間弱となりました。ぜひ応援をお願いします!

この記事を書いた人

柴藤 亮介

アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。