地球以外に知的生命体は存在するのだろうか——。誰もが一度は抱いたことがあるであろうこの疑問の答えは、未だ明らかにされていない。しかし研究者たちは、観測と理論の両面から研究を積み重ねてきており、すこしずつその答えに迫りつつある。特に、1995年に世界初の「系外惑星」が観測されてからは、人材と資金が集まるようになり、惑星科学分野はこの20年間で急成長を遂げてきたという。今回、地球誕生の起源を理論的に研究する京都大学の佐々木貴教助教に、最先端の惑星科学研究についてお話を伺った。

ーー最近よく話題になる「系外惑星」とは、どのような惑星を指しているのでしょうか。

系外惑星とは、太陽以外の星をまわる惑星を指します。昔から、太陽の周りに惑星があるのなら他の星にあってもいいだろうと考えられてきたのですが、そのような星はなかなか見つかりませんでした。1995年10月に、ペガスス座51番星という星をまわる系外惑星「ホットジュピター」がはじめて発見されてからは、系外惑星がどんどん発見されるようになり、現在では3,600個を越える数が発見されています。

ーーものすごい勢いですね。ホットジュピターが発見されたタイミングで、観測技術の革新のようなものがあったのでしょうか。

実は、技術革新が直接的なきっかけになったわけではありません。1980年代から90年代のあいだに系外惑星を観測する技術自体は成熟しており、当時からいろいろな国が系外惑星を探していたのですが、なかなか見つかりませんでした。そんななか1995年にスイス人の2人組が、「常識に縛られない視点」から世界初となる系外惑星を発見したんです。

ーー常識に縛られない視点とは……?

彼らが発見したホットジュピターは、わずか4日くらいで星をまわるガス惑星でした。これは、木星のようなガス惑星が、星から近い位置に発見されたということを意味しているのですが、太陽系の常識からすると、ガス惑星は星から遠い位置にいなくてはなりません。当時の惑星科学の専門家たちは、まさかそんなところにガス惑星があるとは想定していなかったので、スイスの2人組のような視点で観測データを見ることができなかったんですね。彼らは惑星の専門家ではなかったこともあり、常識に縛られずに観測できたのかもしれません。

ーー専門家ほど「太陽系の常識」に縛られていたということですね。

その後、系外惑星研究の分野はグングン伸びました。望遠鏡の性能が向上したことはもちろんあるのですが、この分野に人材と資金が集まったことが大きな理由です。系外惑星がどこにあるかわからなかった時期は、研究者は系外惑星があるかないかを見極めるチャレンジングな課題に挑まなければならないので、短期間で成果を出して論文にまとめなければならない大学院生などはやりたがらないわけですよ。ただ、系外惑星の存在が明らかになり、さらに数もある程度ありそうだなということになれば、人材と資金が一気に注ぎ込まれることになります。そのおかげで、わずか20年で急成長したというわけです。

ーー系外惑星のなかに、地球のような星はどれくらいあるのでしょうか。

地球のように生命が誕生するのに適した惑星は、だいたい20個くらいです。3,600個中の20個と聞くと少ない気もしますが、決してそういうことでもありません。というのも、観測精度の高い望遠鏡を利用しても、ガス惑星のように大きい惑星のほうが見つけやすいんですよね。実際には、さらにたくさんの地球型惑星があると期待されています。

ーー佐々木先生は、惑星科学の理論的な研究をされているとのことですが、理論分野ではどのような研究が行われているのでしょうか。

たとえば、系外惑星のうちの何割が地球と似た大きさでかつ生命を宿せるのかということや、惑星形成過程で大気や水をどのように獲得するのかというテーマがあります。系外惑星を研究するには、そもそも惑星がどのようにできるかということまで立ち戻って考える必要があるので、私たちに一番身近な太陽系形成過程についての理解も深めていかなくてはなりません。

ーー太陽系形成過程は、理論的にどこまで説明することができるのでしょうか。

太陽系の形成理論は、1970年代から80年代にかけていくつかの研究グループにより構築されており、その理論モデルを使うことで、大まかな太陽系形成のシナリオは説明できていました。ただしこの理論モデルでは、太陽系はできても太陽系以外の系が形成されなかったり、太陽系形成に伴う細かい物理過程を説明できなかったりなど、改善の余地も残されています。

ーー実験ができるわけではないので、理論の正しさを検証するのが難しいように思えます。

既存の理論が正しいだろうということは、主に2つの観点から説明することができます。

まず、理論モデルそのものが、ほぼ基礎物理に則っているんですね。最初に星ができて、角運動量保存することを考慮すると、まわりに円盤ができる。そこで微惑星が誕生して、お互いが重力でくっついていく。つまり、重力の影響のみを考慮した方程式を解くだけで勝手に惑星が誕生するんです。このプロセスにおいては余計な仮説を取り入れていないため、そこから出てきた結果にも納得できているということです。

もうひとつは、太陽系には内側に小さな地球型惑星があり、太陽から離れていくと巨大なガス惑星が出てきて、さらに遠くには氷の惑星がいるなど、系としては結構複雑なんですね。それがシンプルな理論モデルできれいに説明できたので、この理論モデルでよいのではないかと考えられるようになりました。

ーーなるほど。系外惑星を考慮した理論を作るときには、どのようなアプローチが考えられてきたのでしょうか。

まずは、これまでの太陽系形成理論における暗黙の仮定を取り払うということがされてきました。たとえば、太陽系形成理論では、地球は現在地球がある位置の周りの材料を、木星は現在木星がある位置の周りの材料を集めてできたというようなことを前提にしていたんですね。ただ、惑星形成の段階では、惑星は原始惑星系円盤という円盤のなかを自由に動きまわっていることが知られていました。つまり、地球が今の場所でできる必要はまったくなく、他の場所でできた地球が現在の位置にたどり着いたと考えても良いということになります。このような物理過程をすべて組み込んだ理論には、系外惑星を含めた多様な惑星系ができるというメリットがある一方で、今の場所に地球がいる必然性もなくなるデメリットもあるため、現在でも議論が続いている状況です。

ーー既存の太陽系形成理論に基づくのではなく、まったく別の理論モデルを考え直すということもありえますか。

ありますね。惑星形成の基本的な考えかたは、直径10kmくらいの小さな岩や氷を集めてレゴブロックのように惑星が形成されるというものなのですが、原始惑星系円盤から惑星の材料である塊がちぎれてそのまま惑星になるというアイデアも提唱されています。このアイデアではそもそも太陽系を作ることはできないのでしばらく忘れられていたのですが、系外惑星が発見されてきてからは、このような考えかたでないとできない惑星もあるということが明らかになりつつあります。いずれにしても、既存の理論モデルでは不十分な点も残されています。太陽系と系外惑星を共に再現する理論モデルの構築は、重要な研究課題のひとつです。

ーー佐々木先生は、何を研究のゴールとされているのでしょうか。

私の研究のゴールは、地球が地球になったのは偶然だったのか、それとも必然だったのかということについて明らかにすることです。太陽系形成の初期条件が満たされていれば、今の地球が必ずできるかというとそうではなく、ある確率の範囲内で地球とそっくりになるというように考えることができるんですね。まずは太陽系で「地球っぽい」惑星が統計的にできやすかったということを示していきたいです。

ーーもし地球が統計的にできにくいという結論が出たとすると、地球が偶然の産物であるということになり、系外惑星に地球型惑星があるという予測ができなくなるように思います。理論的に地球を作る難しさというものはあるのでしょうか。

地球が水を獲得するプロセスです。地球ってよく、水の惑星と言われるじゃないですか。たしかに宇宙から地球を撮影した写真を見ると水にあふれているような感じもしますが、実際の重さでいうと地球全体の0.02%程度しかないんですね。つまり、地球表面に薄い水の膜があるだけで、中身はほぼ岩石ということです。この「ほんのわずかな水の獲得」を理論的に説明するのは難しいんですよ。もっと水がジャブジャブあったり、カラカラだったりする状況は簡単に説明できるのですが……。

ーーわずかな水を含むためには、どのようなシナリオが考えられるのでしょうか。

ひとつの可能性として、カラカラの地球にわずかな水を含んだ彗星が偶然降ってきたということが考えられます。ただ、それでは生命を宿す地球型惑星が偶然実現されたことになるため、たとえ宇宙に別の地球型惑星があったとしても、そこに生命がいるかはわかりません。

また、惑星形成の過程で、氷を含んだ材料が多く取り込まれている可能性も考えられています。これまでは、太陽に近い位置にある地球のまわりには氷はなく、木星くらいまで太陽から遠ざかると惑星形成の材料として氷を使えるのではないかと考えられていました。しかし最近では、地球のまわりにも氷があったのではないかと、複数の研究者から報告されています。この場合には地球は水を獲得することはできるのですが、あまりたくさんあるとすぐにたくさんの水を獲得してしまい、「ほんのわずかな水の獲得」は実現できません。

ーー系外惑星に地球型惑星があるかどうかを予測するには、水の獲得プロセスの理解が欠かせないということですね。

そうですね。生命を宿す地球型惑星が、どのように、どれくらいの数できるのかということを検証するために、まずは地球の形成過程を徹底的に理解したいと考えています。また、太陽系と同じような初期条件からスタートしたときに、地球のように生命を宿す惑星が高い確率で形成されるということを示せたら嬉しいですね。やはり究極的には、地球外の知的生命体が普遍的に出現できるものなのかということを知りたいですから。

佐々木貴教(ささき・たかのり)助教プロフィール
1979年佐賀県唐津市生まれ。2008年3月東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。博士(理学)。東京工業大学GCOE特任助教および特任准教授などを経て、2014年より京都大学大学院理学研究科宇宙物理学教室助教。専門は、惑星と生命の起源と進化についての理論研究。ホームページ:http://sasakitakanori.com

この記事を書いた人

柴藤 亮介
柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。