私たちのよく知る魚は、お腹のなかで卵を作り、卵を産んで、体外で受精をすることで子孫を残すのが普通です。しかし魚のなかには、体内で受精をした後、母親が子どもに栄養を与え、ある程度成長してから生まれる「胎生魚(たいせいぎょ)」が存在します。京都大学再生医療研究所の飯田敦夫さんは、胎生魚の一種である「ハイランドカープ」の研究を通じて、魚の進化のメカニズムに迫っています。

ハイランドカープの魅力について語る飯田さん

ヒトは、胎盤とへその緒を利用して、胎児に栄養を与えます。そのおかげで、胎児は母親のお腹の中で成長して、時が来たときに生まれます。しかし、飯田さんの研究するハイランドカープには、胎盤もへその緒もありません。それでは、彼らはどのようにして母親の体内で育っているのでしょうか。

ひとつのヒントは、「サメ」にあります。サメには、卵胎生と呼ばれる種類が存在し、その一種である「シロワニ」は、胎盤とへその緒を持ちません。シロワニの胎仔は母体から栄養を受け取れない代わりに、共食いをすることで栄養を得ています。

とはいえ、ハイランドカープが共食いをするかというと、そうではありません。ハイランドカープの胎仔は、へその緒からでも他の胎仔からでもなく、彼らの持つ「リボン」から栄養を吸収することで成長すると考えられています。

リボンの構造が目立つハイランドカープ胎仔。

飯田さんは、およそ70年前の論文に書かれた「ハイランドカープの胎仔は、お尻にリボンを持ち、それを伸ばして栄養を吸収しているのであろう」という記述に興味を持ち、ハイランドカープの研究をはじめました。現在、ハイランドカープの妊娠から出産までの血中ホルモン量を計測し、ヒトのデータと比較することで、どのように胎生という特徴を獲得したのかを調べてようとしています。

そのためには、まずはハイランドカープを育てなければなりません。飯田さんは、日々ハイランドカープを水槽内で育てて、繁殖の様子を確かめています。

ハイランドカープが住む水槽。

今回は出産のようすを見ることはできませんでしたが、一回の出産で、だいたい30匹程度を、丸一日かけて産むそうです。つまり、出産直前には、お腹のなかに全長1センチ強のハイランドカープの胎仔が30匹ほどうごめいていて、各々のリボンから栄養分を吸収しているということになります。

今後、繁殖のようすが把握できたタイミングで、各々の発達段階のハイランドカープから血液を抜き、そのなかに含まれる微量なタンパク質を検出することで、ホルモンの量を調べるそうです。もし、結果がヒトのデータに近ければ、へその緒や胎盤を持たないハイランドカープと、それらを持つヒトの母体において、妊娠を制御する共通の機構が適応されている可能性が出てくるというわけです。

飯田さんの研究のゴールは、魚の胎生獲得メカニズムを調べることで、魚の進化を解明することです。たとえば、ハイランドカープの属するカデアシ目には、卵生の種もいれば、胎生の種もいます。同じように、スズキ目のなかにも、卵生と胎生の種がそれぞれいるのです。つまり、胎生魚はさまざまな分類群に、独立して出現していると言えます。その数は約500種で、硬骨魚類全体の約2%に相当します。もしそうだとすると、胎生とは予想以上に獲得されやすい形質なのではないかと、飯田さんは考えています。

この研究が進んでいけば、進化の過程で「変化しやすい遺伝子」が見つかるかもしれません。それが見つければ、ハイランドカープの知見を他の魚の理解に適応させることができます。もし見つからないとしても、進化学の観点からでも大変面白いテーマであり、魚の理解を一歩進めたことになると飯田さんは語ります。

ハイランドカープぬいぐるみ、残りわずかです!

飯田敦夫さんのクラウドファンディング・プロジェクト、現在達成率54%、残り期間20日です。ぜひ、応援をよろしくお願いいたします!

 

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academistのプロジェクトはこちらです。

【academistプロジェクト】お腹の中で子育てする魚「ハイランドカープ」の謎に迫る!

 

この記事を書いた人

柴藤 亮介
柴藤 亮介
アカデミスト株式会社代表取締役。2013年3月に首都大学東京博士後期課程を単位取得退学。研究アイデアや魅力を共有することで、資金や人材、情報を集め、研究が発展する世界観を実現するために、2014年4月に日本初の学術系クラウドファンディングサイト「academist」をリリースした。大学院時代は、原子核理論研究室に在籍して、極低温原子気体を用いた量子多体問題の研究に取り組んだ。