【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!

[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由 

第4回では、表題のように我々が発表した研究結果についてお示しいたしました。今回は、実際に実臨床で使用されている「持効性注射剤:1か月に1回だけ投与すれば効き目が持続する薬」を使用する例を想定し、その理由について考えてみます。

病気の再発を抑えてQOLを高い状態に保つ

入院中にかかる医療費は、地域移行後にかかる医療費よりも高額です(第4回の記事をご覧ください)。そのため、地域移行を達成するだけでなく、継続することが医療費増加を防ぐうえで重要です。

次に、患者さんのQOL(生活の質)についても考えてみます。詳細は、下の図をご覧ください。


いうまでもなく、入院中は患者さんができることに制限があります。一方、地域移行を達成した後は、趣味や就労など活動の幅が広がる可能性がありますので、QOLは自ずと向上することが期待されます。言い換えれば、病気の再発を抑えてQOLを高い状態に保つ、ということが地域移行のメリットであると考えられます。

地域移行を達成し、継続することでさまざまなメリットが期待できます。少し細かな表現になってしまうのですが、上図の左下に示すように細かな医療費の面で良い影響が期待できます。

薬剤費以外の直接医療費(病気のケアにかかる費用)の増加が抑制できるのは、上述のとおりです。直接非医療費(通院にかかる費用など)については、薬の飲み忘れのリスクを最小化するために、通院間隔を短くする場合もありますので、この場合には交通費もかかってしまいます。一方で、持効性注射剤を1か月おきに投与し通院が月1回で済むのであれば、上述の患者さんの負担は軽減されます。

生産性費用(就労機会が失われることによる損失)については、患者さんが地域移行を継続して就労することで、費用が軽減されます。

このように、地域移行を達成するだけでなく継続することに薬物治療が寄与できれば、QOLの向上と医療費抑制(適正化)に貢献できるので、有用性が高いと評価できます。

その一方で、持効性注射剤剤を使用することで増える薬剤費についても考える必要があります。次回は、このことについて触れる予定です。

【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!

[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由 

この記事を書いた人

村田篤信
村田篤信
慧眞会協和病院薬剤科 精神科専門薬剤師
専門分野は、精神薬理学と薬剤経済学です。慧眞会協和病院薬剤科に勤務し、精神科専門薬剤師として業務を行っています。患者さんやご家族への、専門用語を避けたわかりやすい解説が得意です。出身は青森県八戸市で、01年東北薬科大学卒業後、03年大学大学院博士前期課程を修了、製薬会社研究員と大学教員などを経て現在に至ります。日本精神薬学会評議員、同学会学術委員、統合失調症薬物治療ガイド作成メンバー(日本神経精神薬理学会)。修士(薬学)。論文:日本病院薬剤師会雑誌 2018年7月号、Patient Prefer Adherence. 2012;6:863-9。著書:医薬ジャーナル 2017年12月号、BIO CLINICA 2018年8月号。