【精神科領域の適正な薬物治療の実現に向けて #3】抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!
[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由
精神科では、お薬に関する医療費が本当に適切に使用されているのか? 効き目の正確な判断が難しい実態が続く精神科には、そんな疑問が呈されても仕方がない。いずれ医療費削減のメスが入るのではないか——私が心配しているのは、このようなことです。そして、私が研究したいことは、こういう疑問に対して真正面にこたえることです。6割以上の患者さんが、どの薬が効いているか区別できないまま治療を受けていらっしゃいます。このような現状を、少しでも打破したいと考えています。
我が国での使用実態
突然ですが、みなさまに質問です。目の前に、ジュースが2つあるとします。ひとつは、果汁100%のオレンジジュース。もうひとつは、オレンジジュースなどの色々な果物の果汁が含まれているミックスジュース。オレンジのおいしさが判別できるのはどちらですか? 答えは当然、果汁100%のオレンジジュースですよね。
もしも、これがお薬だったらどうでしょうか。抗精神病薬が1剤だけ使用されて(単剤治療)症状が良くなった患者さんと、2剤以上使用されて状態が良くなった患者さんがいたとします。当然、抗精神病薬の有効性を判定しやすいのは単剤治療の患者さんです。一方、併用治療の患者さんは、いったいどの薬が効いているかわかりません。
もしも、お2人の患者さんが、それぞれ抗精神病薬の副作用を呈した場合はどうでしょう? 一般的に、抗精神病薬の副作用は用量を減らすことで対応できる場合があります。単剤治療の患者さんの場合、その薬の用量を減らすことで対応できる可能性があります。一方、併用治療の患者さんでは、どちらを減らせばよいか区別がつきません。
このように、併用治療は仮に薬の効き目が出たとしても、万一副作用が起こった場合には安全性の面で患者さんに与える影響が大きいことが懸念されます。日本では、抗精神病薬が単剤で治療されている患者さんの割合はどのくらいでしょうか。わずか40%です。
統合失調症患者さんのなかには、全体の2割程度治療抵抗性と判断される方がいらっしゃいます。そのような方々にはやむを得ず併用する場合があります。しかしながら、このことを含みおいたとしても、医薬品の適正使用を願う多くの人たちにとって、我が国での抗精神病薬の使用実態は是正するべき事柄だと考えられます。
抗精神病薬の費用対効果を示すことが必要
6割の患者さんが、どの薬が効いているか正確に判別できないという状態で、薬を飲み続けていらっしゃるということはとても心配です。プロジェクトページに示した通り、現在主流として使用されている非定型抗精神病薬は、いずれも昔ながらの薬に比べて高額です。そのぶん、医療費も増加することになります。
どの薬が効いているかわからないまま医療費を割いていただいている、という現状は果たしてこのままにしてよいのでしょうか? せっかく医療費がかかるのであれば、しっかりと効果が判別できるように適正使用を心掛け、それに基づいて費用対効果を示すことが必要なのではないでしょうか。
【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!
[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由
この記事を書いた人
-
慧眞会協和病院薬剤科 精神科専門薬剤師
専門分野は、精神薬理学と薬剤経済学です。慧眞会協和病院薬剤科に勤務し、精神科専門薬剤師として業務を行っています。患者さんやご家族への、専門用語を避けたわかりやすい解説が得意です。出身は青森県八戸市で、01年東北薬科大学卒業後、03年大学大学院博士前期課程を修了、製薬会社研究員と大学教員などを経て現在に至ります。日本精神薬学会評議員、同学会学術委員、統合失調症薬物治療ガイド作成メンバー(日本神経精神薬理学会)。修士(薬学)。論文:日本病院薬剤師会雑誌 2018年7月号、Patient Prefer Adherence. 2012;6:863-9。著書:医薬ジャーナル 2017年12月号、BIO CLINICA 2018年8月号。