【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!

[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由 

お薬によって医療費が削減できる例としてはワクチンが有名ですが、実は今回の研究対象である精神科領域も、その可能性を大いに秘めていると考えています。実は、統合失調症の入院患者さんが退院し地域移行するだけで、ケアに関わる医療費を削減できる可能性が高まるのです。

なぜ、「地域移行達成」で医療費が削減できる可能性があるのか?

その理由は、統合失調症を含めた精神科領域において「入院医療費は、外来医療費よりも高額である」からです。この傾向は、日本だけでなく海外でも共通しています。なお、以下の文章は医療費のなかでも直接医療費と呼ばれる項目について、医療費支払者の立場から記載したものです。

我が国の調査では、統合失調症の疾病費用(病気のケアにかかる費用、保険医療費)の推計は、年間で1人当たり入院費用が約400万円前後なのに対し、外来費用は250万円前後と考えられます(※平成22年度厚生労働省障害者福祉総合推進事業補助金 B1 「精神疾患の社会的コストの推計」 事業実績報告書 統合失調症の保険医療費と、2008年度厚生労働省統計調査より試算)。なお、この費用にはお薬代は含まれていません。

このことは、いかにして患者さんの状態を改善し、地域移行に持っていくかどうかが重要であることを物語っていると思います。

お薬代の影響をどう考えればよいか?

次に、お薬の治療にかかる費用について考えてみます。安いけれども副作用が起こりやすい昔ながらのお薬を使い続ければ、お薬代は安く済みますが地域移行の達成は容易ではなく、入院費用がかさみ続けるので医療費総額は高くなります。

これに対し、お薬代は高くても副作用が起こりづらい新しいお薬を使って地域移行を達成できれば、お薬代は増えますが医療費の総額は少なくなる可能性が高まります。

具体的な例を考えてみます。わかりやすくするために、シンプルな計算をしているのでご了承ください。

たとえば、お薬代が高い新しいお薬を使用すれば地域移行を達成できる可能性があるけれど、今は昔ながらの薬を使い続けている入院患者さんがいるとします。

昔ながらのお薬を続けて1年過ごした場合

1年間入院した場合にかかる医療費 =(4,000,000円)+(昔ながらのお薬の費用)

です。

これに対し、

新しいお薬を使って地域移行し1年過ごした場合

新しいお薬を使って地域移行し1年間地域でのケアに切り替わった場合の医療費 =(2,500,000円)+(新しいお薬代)

です。

この場合の年間の差額は、お薬代以外の医療費に関しては1,500,000円(A)です。

(新しいお薬代 − 昔ながらのお薬代) < A

であれば、医療費が削減できる可能性があります。

新しいお薬のなかで最も高額のブロナンセリンを最大用量で使用したとしても、お薬代は年間約300,000円に過ぎません。したがって、

新しいお薬を使用することで増える費用 < A

という結果になりますので、医療費削減達成が期待されます。

入院治療から地域移行の達成が必要だ、ということは多くの人にわかってもらえると思います。一方で、その達成にはどれくらいの意義があるのか? という疑問に答えることは簡単ではありません。

今回お示ししたように、医療費の抑制・適正化という視点を加えることで、多くの人たちにその意義がわかってもらえるのではないかと、我々は考えています。これこそが、新しい薬すなわち、今回評価対象である非定型抗精神病薬の医療経済面での強みであると考えられます。

【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!

[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由 

この記事を書いた人

村田篤信
村田篤信
慧眞会協和病院薬剤科 精神科専門薬剤師
専門分野は、精神薬理学と薬剤経済学です。慧眞会協和病院薬剤科に勤務し、精神科専門薬剤師として業務を行っています。患者さんやご家族への、専門用語を避けたわかりやすい解説が得意です。出身は青森県八戸市で、01年東北薬科大学卒業後、03年大学大学院博士前期課程を修了、製薬会社研究員と大学教員などを経て現在に至ります。日本精神薬学会評議員、同学会学術委員、統合失調症薬物治療ガイド作成メンバー(日本神経精神薬理学会)。修士(薬学)。論文:日本病院薬剤師会雑誌 2018年7月号、Patient Prefer Adherence. 2012;6:863-9。著書:医薬ジャーナル 2017年12月号、BIO CLINICA 2018年8月号。