【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!

[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由 

薬による治療効果をより一層高める方法

みなさんは、お薬による治療効果をより一層高める方法といえば、どのようなものを想像されますか? いろいろな方法があるとは思いますが、私は大まかに3つに分類されると考えます。

1. 症状を軽減する
2. 副作用を避ける
3. 病気を予防する

次に、具体的な方法について考えてみます。1.に対しては、遺伝子検査によって効き目が期待できる薬を選択する、いわゆる個別化医療が思い浮かびます。2.に対しては、多剤大量併用使用を避けるなどの適正使用、そして個別化医療が想定されます。3.については、ワクチンなどの再発予防効果のある薬を使用する、そして我々医療職が患者さんや家族に対する介入頻度をより密にする、などの方法が考えられます。

3つの介入のうちどれが最も有用なのか?

今回の研究は、上記3つの介入のどれが最も有用なのか? という疑問に応えるこたができるという特徴があります。その理由は、費用対効果評価の一般的な手順にあります。今回、我々が予定している評価手順は以下のとおりです。

1) 協和病院で得られた、抗精神病薬単剤治療患者さんの地域移行達成・副作用発現などの頻度(確率)を集計します
2) 使用する期間や使用順序など、薬が使用されるパターンをいくつか想定し、シミュレーションを行います
3) 1)の結果を変動させたり、2)の想定を変動させたりします
4) いろいろなパターンを総合的に評価し、有用性の高い薬の使用方法をお示しします

我々は、2)について薬を使用する順番に着目した研究を、すでに行いました(本内容に関する記事は、こちらからご覧いただけます)。

再発予防効果を高めることが、非定型抗精神病薬の有用性を高める

さらに、このような想定で、いろいろなパラメーターを変化させるという評価を行いました。すなわち、得られた数値を変動させることで、結果がどう変わるのかを評価できるのです。これこそが、費用対効果評価研究の持つ醍醐味です。我々の研究では、再発予防効果を高めることが、非定型抗精神病薬の有用性を高める最もよい方法である、という可能性を日本で初めて実際の臨床データを用いて示すことができました。

精神科領域で、再発予防効果に優れる介入というのは実際に存在するのでしょうか? 実際の臨床では、1か月に1回だけ患者さんに注射することで、長期間にわたって薬の効果が持続するという、「持効性注射剤」という薬剤が存在します。また、我々薬剤師やケアに関わるさまざまな医療職、そしてご家族などのサポートが統合失調症の再発予防に寄与することが知られています。

一方で、精神科領域における個別化医療については、実際の臨床において広く普及しているとは言いがたい現状です。すなわち、費用対効果評価の結果に加えて、実際の臨床で実施できるかどうかという観点を加味しなければなりません。

統合失調症の薬物治療の有用性を高めるには、再発抑制効果を高める、ということが重要です。次回は、なぜ再発予防効果が抗精神病薬の有用性を高めるのか?、という理由について紹介する予定です。

精神科では、お薬に関する医療費が本当に適切に使用されているのか? そんな疑問が呈されても仕方がない精神科には、医療費削減のメスが入るのではないか——私は、こういう疑問に対して研究を通じて応えたいと考えています。

【クラウドファンディング】精神科領域の適正な薬物治療を実現したい!

[第1回]統合失調症の薬(抗精神病薬)の効果と副作用
[第2回]「地域移行の達成」は、医療費抑制・適正化に貢献できる可能性が高い
[第3回] 抗精神病薬の単剤使用がなぜ重要なのか?
[第4回] 抗精神病薬の有用性を最も高めるアプローチ:再発予防
[第5回]抗精神病薬の有用性が持効性注射剤の導入によって高まる理由 

この記事を書いた人

村田篤信
村田篤信
慧眞会協和病院薬剤科 精神科専門薬剤師
専門分野は、精神薬理学と薬剤経済学です。慧眞会協和病院薬剤科に勤務し、精神科専門薬剤師として業務を行っています。患者さんやご家族への、専門用語を避けたわかりやすい解説が得意です。出身は青森県八戸市で、01年東北薬科大学卒業後、03年大学大学院博士前期課程を修了、製薬会社研究員と大学教員などを経て現在に至ります。日本精神薬学会評議員、同学会学術委員、統合失調症薬物治療ガイド作成メンバー(日本神経精神薬理学会)。修士(薬学)。論文:日本病院薬剤師会雑誌 2018年7月号、Patient Prefer Adherence. 2012;6:863-9。著書:医薬ジャーナル 2017年12月号、BIO CLINICA 2018年8月号。