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「化石」と聞いて、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。アンモナイト? 三葉虫? アンモナイトの化石は、日本でも北海道などで見つけることができるんだそうです。そしてその化石は、アンモナイトが謎のボール状の塊に包まれた状態で発見されることが多いんだとか。

だから化石の専門家は、まずこのボールを探し、これを割ってアンモナイトをゲットするわけなのですが、このボールが一体どうやってできているのかは、今までずっと謎のままでした。

今年の9月、「ツノガイ」という生き物の化石を調べることでこの謎を解き明かした論文が発表され、大きな話題となりました。

研究を行ったのは、名古屋大学の吉田英一 教授をリーダーとした個性豊かなチーム(吉田教授のほか、名古屋大学の山本鋼志 教授、氏原温 准教授、城野信一 准教授、丸山一平 准教授、南雅代 准教授、淺原良浩 助教、岐阜大学の勝田長貴 准教授、名古屋市科学館の西本昌司 博士、Quintessa社のRichard Metcalfe博士)です。

……ん? 名古屋市科学館? そうなんです。研究メンバーのお一人である西本さんは名古屋市科学館の主任学芸員。なんと研究成功の鍵になった化石の実物も同科学館に展示されているとのこと。これは見に行くしかない!

と、いうわけで、著者の白瀧が実際に名古屋市科学館にお邪魔して、西本さんにお話を聞いてきました。

 

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名古屋市科学館の化石の展示室。賑わってます!
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うんこの化石とかあるんですけど!
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研究メンバーの西本さん、今回の成果について教えてください!「いいよ〜」

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白瀧:こんにちは! 西本さん、ぜひ例の化石研究についていろいろ教えてください。

 

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西本さん(以下、敬称略):はい、いいですよ。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:ありがとうございます! ええと、化石のでき方の謎が解けた、ということだったのですが。

 

nishi西本:アンモナイトとかの化石って、ボール状の塊の中に入って見つかることが多いんですけど、この塊のでき方が、これまでちゃんとわかっていなかったんです。今回の成果は、この塊がどうやってできるかを突き止めた、というものです。

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白瀧:ボール状の塊、ですか……? ちょっとうまく想像できないなあ。

 

nishi西本:実際に見てもらったほうがいいかな。ここに展示してあります。アンモナイトはこんな感じ。

 

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nishi西本:こんなふうに、アンモナイトが丸い石に入っていて、この丸い石ごと地面に埋まってることが多いんです。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:へえ〜。アンモナイトがそのまま埋まっているわけではないんですね。

 

nishi西本:絶対そうっていうわけではないんだけど、でも生き物の形が綺麗に残っている化石はこういう丸い石に入ってるやつが多いです。この丸い塊はコンクリーションと呼ばれています。ノジュールという呼び方をすることもあります。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:コンクリーションは、何でできているんですか。

 

nishi西本:土と炭酸カルシウムでできています。でも、何でできているかはわかっていても、今までこれがどうやってできているのかはよくわかっていなかった。今回の研究で、ツノガイの化石を調べたことでコンクリーションのでき方を明らかにすることができました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:あっ、これがその、ツノガイの化石ですか!?

 

 

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nishi西本:そう。これがコンクリーションに入ったツノガイの化石です。これは割って断面が見えるようにしてあるやつですね。

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:このヒョロッとしたやつが、ツノガイですか……。なんというか、シュールですね。

 

 

西本:実際に地面にこれが埋まってる様子とかね、凄いシュールですよ。現場の様子をnishi体感して欲しくて、埋まってる様子をできるだけ再現できるように、一番左側のやつはまわりの岩もたくさんついたままで展示してみたんだけど、伝わるかなあ……。

 

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OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:えっ……これ、その辺の岩を割ったらこんなカニの爪のフライみたいなのが出てきたわけですか。

nishi西本:そうなんですよ。シュールでしょ。富山県の2000万年くらい前の地層から掘り出したんだけど、ハンマーで岩を割ると中からこれが出てくるの。

 

nishi西本:コンクリーションの部分は、まわりの岩に比べてすごく硬いんですよ。まわりの岩はサクサク掘れるんだけどね、コンクリーションに当たるとハンマーが跳ね返るんです。もう硬くて硬くて。でもこのコンクリーションが、化石を守る“タイムカプセル”になっていたんです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:タイムカプセルかぁ。ロマンチックですね。

 

nishi西本:今回の研究でわかったことはね、コンクリーションのでき方なんですけど、結局ね、ツノガイが死んで、ツノガイの柔らかい“身”の部分が溶けて土にじわじわ染み込んでいって、その染み込んだ部分が固まってコンクリーションになっていたんですよ。ツノガイの成分が土の中で拡散することで、球の形のコンクリーションができていたんです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:あっ、だからツノガイの殻の口の部分が、コンクリーションの中心になっているんですか!

 

nishi西本:そういうことだと思います。これだけ綺麗な球形の塊ができていて、球の中心部にだけツノガイの“身”が滲み出る部分があって、とてもシンプルに考えることができたことが、メカニズム解明の鍵になりました。サンプルのサイズも、ツノガイのコンクリーションは大きすぎず小さすぎず、解析するのにちょうど良かったんですよね。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:なるほど。確かに、手のひらサイズで扱いやすそうですね(大きさも実にカニ爪フライのようであるなあ……じゅるり)。

 

nishi西本:実は、今回のもうひとつの大きな発見は、コンクリーションが数週間〜数ヶ月というとても短い期間のうちにできていたということなんです。世界中の誰も、こんなに素早くコンクリーションができているなんて思っていなかった。

nishi西本:で、この発見の根拠になった実験が、コンクリーションの“表皮”部分の厚みの測定だったんです。小さすぎるサンプルではこの実験がうまくできない。かといって大きすぎるサンプルは、解析が大変。ツノガイの化石は、本当にジャストサイズだったんです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA白瀧:研究成功のポイントは、ツノガイの化石という良いサンプルを発見できたことだったんですね。

 

nishi西本:さまざまなバックグラウンドを持つメンバーが集まって、それぞれの得意分野を生かしながらコラボレーションできたことも大きなポイントでした。化石の専門家だけではなくて、地球化学の専門家や、コンクリートの専門家まで、本当にいろいろな人が集まって協力して、研究を進めてきたんですよ。これまでになかった異分野コミュニケーションが、新しい発見につながりました。

 

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なんでもコンクリートの専門家の方は、今回の研究でフィールド調査に目覚めちゃったんだとか。異分野コラボから始まった新しい研究。これからも研究チームの方々から目が離せませんね!

なお、今回の研究成果を発表した論文は、誰でも読むことができる「オープンアクセス」形式になっています。英語でちょっと難しいけれど、「化石の研究論文ってどんなんだろう?」と思ったら、ぜひクリックしてみてくださいね!

【論文】
H. Yoshida et al. “Early post-mortem formation of carbonate concretions around tusk-shells over week-month timescales”Scientific Reports (2015) DOI: 10.1038/srep14123

【チームリーダー・吉田教授の研究室のWebサイト】
http://www.num.nagoya-u.ac.jp/dora_yoshida/

この記事を書いた人

白瀧千夏子
白瀧千夏子
生体分子に魅せられて、信州大学理学部生物科学科で生物学を学んだ後、名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻にてタンパク質化学の研究で博士(理学)の学位を取得。趣味は科学系の博物館巡りと美味しいケーキ屋さん探し。