新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大の影響により大学業務や研究活動が一部オンライン化されている状況を受けてアカデミストは2020年5月、大学・研究機関に所属する研究者を対象にWebアンケートを実施しました。

本記事では、本アンケート結果の一部を読者のみなさんと共有することで、新型コロナウイルスがアカデミアに与えている具体的な影響について、研究者の生の声をお届けできればと思います。

アンケートの目的と概要

コロナ禍の影響を受け、当社の運営するクラウドファンディングサービス「academist」では、予定していた研究プロジェクトに取り掛かることができず、公開準備を進めていたクラウドファンディングを中止せざるを得ない状況になってしまった研究者の方が複数名いらっしゃいました。

そこで当社は、研究者のみなさまの現状をより詳細に把握し、よりよいサービスの提供・改善につなげていくことを目的に、過去にacademist Journalへ寄稿していただいた研究者の方を中心にアンケート調査を実施することとしました。

アンケートの概要は下記のとおりです。

調査概要:コロナ禍に伴う研究活動の状況に関する調査
実施期間:2020年5月11日(月)〜20日(水)
調査方法:インターネット調査
調査対象:アカデミアの研究者(academist Journalの寄稿者、Twitterでご協力を表明していただいた研究者など。回答者の属性は下記の図を参照)
回答者数:103名

回答者の所属機関
回答者の職位

 

研究者の約3割は研究活動をほとんど行えていない

研究活動の現状については「リモートでも可能な範囲で研究を行っている」と回答した方が55.3%と過半数を占めました。「オンライン授業の準備などで研究以外の業務が増えた(47.6%)」、「論文執筆やデータ整理に充てる時間が増えた(46.6%)」など、リモートワークへの対応に伴い、通常時から研究スタイルが変化している様子も見て取れます。

また、動物や細胞を使った実験、海外渡航、フィールドワークを行う必要があるなど、分野やテーマによってはリモートでの研究が難しいことから、約3割の方は「研究活動をほとんど行えていない(29.1%)」と回答しています。

研究活動の現状について(複数回答可)

7割近くの研究者がオンラインでの教育活動を実施

教育活動の現状については、7割近くの研究者が「オンラインで講義/ゼミ/研究指導を行っている(66.0%)」と回答しました。今回の調査では教育活動を担当していない方が26.2%を占めていたため、教育活動を行う必要のある研究者のほとんどがオンラインへの移行を進めている状況であると捉えることができます。また、教育や研究活動に利用しているオンライン会議ツールの第1位となったのは「Zoom」(84.6%)でした。昨今、爆発的に利用者数を増やしているZoomですが、アカデミアの研究者たちからも圧倒的な支持を得ていました。

教育活動の現状について
研究・教育活動で利用しているオンライン会議ツール(複数回答可)

研究に費やす時間は増えた? 減った?

コロナ禍の影響を受けて、半分近くの研究者が研究に費やす時間について「減った(49.5%)」と回答しました。「変わらない」と答えた方は29.1%、「増えた」と答えた方は18.4%となりました。

研究に費やす時間が減ってしまっているのは、他の項目の結果から、オンライン講義への対応で時間が奪われてしまっていることや、実験・フィールドワークが実施不可能となったことなどが大きく影響しているものと考えられます。また、保育園の閉園などが理由で自宅で育児を行わなければならず、研究時間を確保しづらいという声も複数ありました。

一方で、理論系の研究者の方々からは、在宅勤務で通勤時間が無くなったことなどにより通常時よりも快適に研究活動が行えているという声もありました。実験系の研究者からも、実験はできないものの、論文執筆などのデスクワークは誰にも邪魔されず集中できるので効率が良くなったという意見が上がりました。また、新型コロナウイルス関連の研究を新たにスタートさせたという研究者の方も複数名いらっしゃいました。

コロナ禍による研究に費やす時間の変化

約半数の研究者が研究費の支出を抑えている

研究費の利用状況については「先の予定が見えないので支出を抑えている」が47.6%と約半数を占めました。一方で、学会等の中止や海外渡航の制限などから、20.4%の方が「予定外の支出が減り、研究費が使いきれない」と回答しました。

研究費の利用状況

不安を感じている一方、ポジティブな意見も

今後の期待と不安について聞いたところ、「研究が進まない・研究業績を積めない可能性があり不安(51.5%)」、「満足度の高いオンライン授業をできるか不安(26.2%)」、「次のポストにつけるか不安(23.3%)」と多くの研究者が今後に不安を感じている実態が明らかになりました。自由記述では、国からのサポートの乏しさを指摘する意見や研究費・ポストに対する不安の声、研究だけでなく生活面でも困窮しているという声も複数ありました。

一方で「これを機に研究室内にオンラインツールを導入するなど業務効率化を進めていきたい」という選択肢が58.3%と、最も多くの回答を集めました。この他にポジティブな意見としては、「新たな研究アイディアの着想が得られそう」が24.3%、「オンライン研究者コミュニティに参加したい/立ち上げたい」が21.4%という結果になりました。自由記述には「切り替えが困難だったものを一新するまたとないチャンス」「これを機会に煩雑なプロセスが改善される可能性がある」という声もあるなど、”ピンチをチャンス”と捉えている方も少なからずいるようです。

今後に対する不安や期待(複数回答可)

おわりに

アカデミストでは、こうした危機的な状況においても志を持って研究活動を行う研究者のみなさんを応援していくための仕組みとして、スポット型のクラウドファンディングサービスだけでなく、月額課金制のファンクラブ型クラウドファンディング(以下、ファンクラブ型CF)も運営しています(事例「電子のアト秒の世界にコンピュータシミュレーションで迫る!」)。

これまで、ファンクラブ型CFはチャレンジャーを大学院生限定として試験的に運用してきましたが、昨今の状況を受け、今後はチャレンジャーをの限定を解除し、研究者のみなさまに広く使っていただけるよう整備を進めてまいります。

ファンクラブ型CFは、チャレンジャー自身の魅力(専門知識や物事の考え方)に対して支援するという要素がより強くなります。ビジョンを持って長期間の研究プロジェクトに取り組む研究チームや、学会単位での挑戦など、継続的な支援が必要な活動に適した制度です。サポーターは、昨今のようにプロジェクト遂行できるかどうかわからない状況においても、研究者を支援し続けることができます。

アカデミストは、ファンクラブ型CFを基点として、アカデミアと一般の垣根を超えたコミュニティがつくられていくことを期待しています。そして、私たちのビジョンである「開かれた学術業界」の実現に向けて研究者のみなさんと一緒に挑戦していければと思っています。

※チャレンジャーのニーズに合わせて、スポット型/ファンクラブ型プロジェクトの制作をサポートいたします。クラウドファンディングに興味のある研究者の方は、こちらからお問い合わせください。