【academist挑戦中】「病は気から」は本当か? アレルギー界の大きな謎に挑む!】

「病は気から」ということわざは、誰もが知っており、また誰もが経験的に正しいと思っているのではないだろうか。この真偽を、科学的に証明する研究がある。前向きな気持ちを持つことによって、アレルギーの症状が緩和されるかどうか、こころの変化とアレルギー症状の治癒・悪化に関連があるかどうかを探っているのが、山梨大学の中嶋正太郎助教だ。現在、academistでクラウドファンディング『「病は気から」は本当か? アレルギー界の大きな謎に挑む!』の挑戦を行っている。クラウドファンディング挑戦後に中嶋助教が行う予定の研究はどのようなものなのか、また研究にかける思いについて詳しくお話を伺った。

——まず、現在クラウドファンディングにチャレンジされている「病は気から」の研究テーマを行おうと思ったきっかけを教えてください。

私が所属する山梨大学免疫学講座(中尾篤人教授研究室)では、生活習慣の乱れなどが体内時計を崩すことにより、アレルギーの症状を悪化させるということを明らかにしてきました。一方で、ストレスがアレルギー症状悪化の原因になっているということが経験的に知られており、疫学的な研究でも報告がなされています。逆に、気持ちがハイになっているときは症状が良くなるということも感覚的にはわかっていましたが、その科学的根拠は明らかになっていません。そこで、気持ちの変化もアレルギーの症状に影響を与えているのではないかと考え、それを科学的に証明しようとこの研究を始めました。

——今の時点での研究のゴールはどこにあるのでしょうか。

快感が生じる仕組みである脳内報酬系の活性化により、花粉症などのI型アレルギーの症状が緩和することを証明するのが研究のゴールです。アレルギー疾患に対する新規薬剤の臨床試験では、患者の前向きな感情が薬効と無関係に治療効果を高める「プラセボ効果」が強く出てしまい、薬効の評価が困難なことが多くあるといわれています。実際に過去の研究では、患者の前向きな期待感が、脳の報酬系を活性化することでプラセボ効果が発揮されることが示唆されています。

プラセボ効果は、ドーパミン作動性ニューロン(神経)が活性化し、脳内報酬系が活性化することにより得られる効果なのではないかといわれています。したがって、花粉症のマウスの脳内報酬系を直接人為的に活性化することで、花粉症の症状が抑えられるかどうかをまず確かめようと考えています。

——クラウドファンディングで得た資金を利用して蛍光顕微鏡を購入する予定だそうですが、これはどのような用途で使うのでしょうか。

マウスの脳内報酬系を活性化させ、アレルギー症状の変化を観察した後、実際にドーパミン受容体が活性化していたかどうか、脳の切片を蛍光顕微鏡で観察して調べます。実験に用いたすべてのマウスでこのチェックを行います。下図の緑色に光っている部分が、ドーパミンを産生する神経に発現しているタンパク質です。赤く光っている部分は、神経を活性化するために必要な受容体タンパク質です。実験では試薬を打ち込むことで、この受容体タンパクを活性化させます。実験後に脳の切片を観察し、この緑色と赤色の蛍光発色を確認することで、脳内報酬系が活性化されていたことを確かめます。

——マウスの脳内報酬系は、実験でどのように活性化させるのですか。

マウスの頭蓋骨に小さく穴を開けて、そこから針を刺し込んで試薬を注入します。報酬系の一部である腹側被蓋野は脳の奥の方にありますので、かなり奥深くまで針を入れます。マウスにとっては相当つらいでしょうね……。実験では、脳内報酬系を活性化/抑制化させたグループとコントロールのグループの3群を用意します。1グループは、それぞれ6匹から8匹のマウスで組みます。1日に扱えるマウスは6匹から8匹程度が限界なので、3日に分けて手術するという形で進めていきます。

——その手術後、マウスのアレルギー症状が緩和されたことはどうやって確かめるのでしょうか。

花粉症であれば、鼻掻き行動の回数やくしゃみの回数の変化を調べます。また、I型アレルギーに関しては、個体レベルでアレルギー反応をチェックできる受身皮膚アナフィラキシー(PCA)反応という評価も用いることができます。

——どういう仕組みでアレルギーが緩和されると考えられていますか。

正直言って、現段階ではまったくわからないですね。アレルギーを引き起こすマスト細胞に対して末梢神経が直接作用してマスト細胞の活性化に影響を与えているかどうかを調べることができたらおもしろいとは思っていますが。

——それを調べるにはどういった実験をすればいいのでしょうか。

すごく難しいですね。たとえば、その相互作用に関与しているタンパク質の受容体の阻害剤をマウスに投与したり、in vitroでマスト細胞と神経細胞を共培養したりということもできなくはないと思いますが、こういった中枢神経系・脳のはたらきと免疫系の機能との関係性というのはまだあまり着目されていない分野なので、これからだんだん研究されていくようになるのではないでしょうか。

——将来的に、この研究を医療に活かすということはできるのでしょうか。

たとえば「病は気から」という言葉が科学的に証明されれば、生活の仕方(生活習慣)や気の持ち方を少し前向きに変えていくだけで、アレルギーの症状を緩和できるようになるかもしれません。それにより患者さんに対して抗ヒスタミン薬などの投与量を減らすなどの提案をすることができるかもしれません。薬には副作用や医療費の問題もありますしね。また、学術的な意味でも、これらのことが明らかになれば、かなり大きな発見になると思っています。

——最後に、クラウドファンディングのセカンドゴール達成へ向けた意気込みをお願いします!

クラウドファンディング挑戦当初は、一般の方からはあまりご支援をいただけないのではないかという不安を感じていました。ですが、そういった方々からもご支援をいただけていることを知り、自分たちの研究に興味を持っていただいている、応援してくださる人がいるということが実感できとても嬉しかったです。みなさんの期待に応えられるように、力を入れて研究を進めていきます。

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中嶋先生のクラウドファンディングでは、8月5日までにセカンドゴールの100万円を目指します。ご支援のほど、どうぞよろしくお願いいたします!

研究者プロフィール
山梨大学免疫学講座 中嶋正太郎助教
1985年山梨県富士吉田市生まれ。2013年3月山梨大学大学院医学工学総合教育部人間環境医工学専攻修了(医科学博士)。2013年4月同大学大学院医学工学総合研究部リエゾンアカデミー特任助教。2014年4月シンガポール国立大学がん科学研究所博士研究員。2017年1月山梨大学医学工学総合研究部免疫学講座助教(現職)。

 

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この記事を書いた人

佐々木優希
佐々木優希

北海道大学農学院修士2年在学。農学、生化学が専攻で、研究テーマは糖質関連酵素の機能解析。世の中の面白い研究を多くの人に広め、科学を身近な楽しいものにしたいという思いを胸に現在academistで修行中。