2016年10月に「組換えカイコで「リソソーム病」の治療薬を作りたい!」で目標金額を達成した、徳島大学・伊藤孝司教授の主催するサイエンスカフェが2017年4月1日(土)に東京で開催されました。

今回のサイエンスカフェには、伊藤先生と共同研究者の瀬筒秀樹先生(農研機構 カイコ機能改変技術開発ユニット ユニット長)が登壇し、二部構成で講演が行われました。約1時間30分という短い時間ではありましたが、サポーターの皆さまと先生方のあいだで活発に質疑応答が行われました。今回、その様子を一部お届けいたします。

組換えカイコの利用と蚕業革命(瀬筒先生)

瀬筒秀樹先生(右)

瀬筒先生の講演では、伊藤先生の研究を理解するのにも役立つ、
1. そもそもカイコとは何か
2. 今までのカイコの利用法
3. 今後の革新的カイコ利用法
というお話がメインで紹介されていました。

今まで絹糸を生産するために養蚕業で利用してきたカイコですが、近年遺伝子改変をすることにより、有用なタンパク質や新繊維を生産することができるようになりました。これは、今まで主に衣料分野に用いられてきたカイコを「医療」や「工業」にも利用できるようになることを意味します。瀬筒先生はこれを「蚕業革命」と呼び、新産業(新蚕業)を創り出すべく現在研究を行っています。

なぜ他の昆虫ではなく「カイコ」がこのような可能性を秘めているのでしょうか。その理由はカイコが紡ぐ絹糸の性質にあります。

絹糸は「セリシン」と「フィブロイン」という性質の異なる2つのタンパク質から構成される

水溶性であるセリシン部に有用タンパク質を含めるようカイコに遺伝子改変を行えば、繭を水に浸すだけで比較的夾雑物が少ない目的タンパク質を得ることができます。また、セリシンに包まれて存在しているフィブロイン部に改変を行うと、繊維としての特性を変化させることができます。たとえば、2008年頃から話題になっている「光る絹糸」は、フィブロイン部に蛍光タンパク質GFPを含むようカイコに遺伝子改変を行って得られたものです。セリシンとフィブロイン、このそれぞれの性質により、繭(絹糸)を利用した医療や工業への応用が可能になっているのです。

また、カイコ一頭を育てて0.5 gの繭を得るのに必要なエサ(桑の葉)は約20gとされており、お金でいうと約2円に相当します。他の製薬技術で用いられる哺乳類細胞の培養よりもはるかに安いコストで運用ができるという点で、遺伝子組換えカイコによる有用タンパク質生産が注目されています。

カイコにリソソーム病の治療薬を作らせる研究の途中経過(伊藤先生)

伊藤先生

酵素の変異が原因となり、リソソーム内で分解されるべき生体物質が蓄積され異常をきたすのがリソソーム病です。今回伊藤先生は、このなかでも「ガラクトシアリドーシス」と 「ムコ多糖症1型」という2種類の病気の治療薬に関する研究成果を紹介しました。

まずこれらの病気の治療には、以下のような欠損している酵素の補充が有効と考えられています。

ガラクトシアリドーシス:「カテプシンA」が有効。蓄積した糖の分解に関わるβ-ガラクトシダーゼの安定化とノイラミニダーゼの活性化をする役割
ムコ多糖症1型:「α-L-イズロニダーゼ」が有効。ムコ多糖を分解する役割

しかし治療には、ただこれらの酵素を投与すればよいだけではなく、酵素表面の糖鎖に気を配る必要があります。酵素をリソソーム内に輸送するには、酵素表面に結合している糖鎖とリソソームの膜に存在するレセプターを結合させなければいけないからです。

今回伊藤先生は、
・これらの病気で欠損している酵素を遺伝子組換えカイコの絹糸腺で発現させ、精製
・得られた酵素の糖鎖を分析
・得られた酵素がリソソーム上のレセプターに結合するよう糖鎖修飾
・リソソーム内への酵素輸送の有無と酵素活性の有無の分析
を行い、各酵素がリソソーム内に輸送され酵素活性を示したことを確認しました。

今後は繭由来ヒトリソソーム酵素の分子特性や品質の評価、付加されている糖鎖の詳細解析などの研究を進めていく予定だそうです。

今回の遺伝子組換えカイコ由来のヒトリソソーム酵素研究のポスター

質疑応答では「何頭ぐらいのカイコがいれば着物が作れるのか?」「どのような環境でカイコを飼うのか?」などのカイコ自体に対する質問から、「昆虫ウイルスが遺伝子組換えカイコに感染する可能性は?」「カイコで生産できないタンパク質はあるのか?」「マウスによる生体実験ではどのように結果の評価を行うのか」などのカイコ応用に関する質問まで幅広く話題にあがり、大変盛り上がっていました。

欧米ではあまり養蚕が行われないため、現在日本でのカイコ研究は世界的に見ても比較的進んでいる状態と言えます。もし、カイコによる薬生産技術が確立したら……。もし、その薬生産技術を日本全国の養蚕農家さんが実行できるようになったら……。日本がカイコ創薬の分野で最先端を走る日は、案外近いかもしれません。

伊藤先生はサイエンスカフェの終わりに「ご支援と応援ありがとうございます。皆さまからのご支援は確実に研究成果に繋がってきています」と、今後とも研究に励む旨を語っていました。カイコ創薬の未来を背負う伊藤先生の今後の研究に、引き続きご注目ください!

この記事を書いた人

佐々木優希
佐々木優希

北海道大学農学院修士2年在学。農学、生化学が専攻で、研究テーマは糖質関連酵素の機能解析。世の中の面白い研究を多くの人に広め、科学を身近な楽しいものにしたいという思いを胸に現在academistで修行中。