「ナノサイズのカプセルで、がん幹細胞をピンポイントで退治する!」- 第1回「academist BAR」 開催レポート
アカデミストは2019年4月18日(木)、当社が入居するインキュベーション施設 Inspired.Labにて第1回「academist BAR」を開催しました。academist BARとは、さまざまな分野の研究者から最先端の研究内容についてお酒を飲みながら話を聞くことができる少人数限定のイベントです。毎週木曜日19時より開催していく予定です。
第1回となる今回は、過去にacademistのクラウドファンディングに挑戦して研究費を集めた経験を持つ、神奈川県立産業技術総合研究所の宮崎拓也研究員を講師としてお呼びし、『すい臓がんの「がん幹細胞」をピンポイントで退治する!』というテーマでお話いただきました。今回は、当日のacademist BARの様子をお伝えします。
まずは講師の自己紹介からスタート!
今回、宮崎さん自身を表す5つのハッシュタグとして「オープンマインド」、「ポジティブシンキング」、「ベンチャーを作りたい」、「ワイン大好き」、「マラソンランナー」を挙げていただきました。大学院時代にアルゼンチン出身の先生のラボに所属していた宮崎さんは、メンバーの大半が留学生だったということもあり、海外の情勢にいつでも触れられる状況だったそうです。特にアメリカでは、博士号取得後に起業することは珍しくないそうですが、日本ではあまり一般的ではありません。現在宮崎さんは、研究活動の傍ら、研究成果をもとに起業することを目指して、経営の勉強や会社のメンバー集めにも取り組んでいるとのことでした。
宮崎さんの自己紹介の後は、参加者同士もお互いに自己紹介をして、みんなで乾杯! お酒を飲みながら、宮崎さんの具体的な研究内容についてお話を伺いました。
がん細胞をピンポイントで退治する!
宮崎さんは、研究をはじめた当初、電子顕微鏡を使ったテーマに取り組んでいましたが、より直接的に人の役に立つ研究を進めたいという思いから、現在は抗がん剤を安全・効率的にがん細胞へ送達できるような技術を開発しています。
がんの治療にはさまざまな困難がありますが、特にすい臓がんの治療は難しいといわれています。原因のひとつに、すい臓がんでは、がん細胞のまわりに繊維質のバリアがはられてしまうため、血管から薬をがん細胞まで届けるのが難しいことが挙げられます。多くの抗がん剤を使用して治療することもできますが、正常な組織にも薬が届いてしまうために、副作用が伴います。この治療が困難なすい臓がんのより良い治療法を見つけることができれば、他のがん治療にも役立つ可能性があります。
宮崎さんが所属している研究チームでは、「ナノマシン」と呼ばれるナノサイズのカプセルである高分子ミセルに注目しています。このカプセルに抗がん剤などを閉じ込めてがん細胞に選択的に運ぶことができれば、副作用を抑えつつ、ターゲットとなるがん組織に効率的に薬を届けることができます。
この研究自体はすでに臨床研究へと進んでいますが、宮崎さんが注目したのは、がん細胞の母親であり、転移を起こす原因などにもなる「がん幹細胞」を破壊するための新たな技術開発です。具体的には、がん幹細胞と接着するリガンド分子を、カプセルの表面にコーティングすれば、がん幹細胞に選択的に薬を届けることができるのではないかというアイディアです。このアイディアを実現するために、宮崎さんはacademistのクラウドファンディングに挑戦。目標金額を達成し、集めた研究費で研究を進め、がん幹細胞に薬を送達できるカプセルの開発に成功しました。そして、最終的なゴールである「患者さんに薬を届ける」ことを目指して、引き続き研究や起業の準備を進めています。
参加者全員での自由議論
研究紹介の後には、参加者からさまざまな質問がありました。下記ではその一部をご紹介いたします。
——研究を進めていて、おもしろいと感じることはどんなことですか?
宮崎さん:薬剤の投与や開発した技術によってがんが本当に小さくなっていくことを実際に顕微鏡などで確かめられるのは、興味深いです。また、教科書で書かれているようなことが目の前の実験でも見えたときにはおもしろいと感じますね。
——がんの治療は、完治を目指しているのですか? それともがんとの共存も考慮にいれているのでしょうか?
宮崎さん:開発した技術を用いることで、がん細胞を破壊し完治することを目指していますが、がんを患ってからの生存率をあげるという視点も大切だと考えています。ナノミセルを使った薬の送達技術を使えば、完治だけではなく、がんとの共存にも貢献していくことができるのではないかと思っています。
——クラウドファンディングで集めた研究費は研究のどの部分に使われたのでしょうか?
宮崎さん:抗がん剤や細胞を観察するための試薬、顕微鏡の運用費用など、実験を進める費用に使いました。クラウドファンディングでは、ちょっと試してみたいという挑戦的なテーマに対しても研究費を手軽に集められるところが良いと思っています。
——研究成果が治療法として実現した場合、自由診療扱いになるのでしょうか?
宮崎さん:標準で使用されている治療法との競争で勝つことができれば、保険適用になる可能性もあります。サブの位置付けで使用する場合では、自由診療になりますね。研究成果を出口につなげていくためには、薬価のことなども考慮する必要があります。起業の準備のため現在勉強しているところですが、このような実用化に向けたさまざまな要素を考慮しながら、研究を進めている研究者はあまり多くないかもしれません。
参加者の皆さんからの感想
ここで参加者のみなさんからの感想をご紹介いたします。
博士号を取得されたばかりなのにも関わらず、これだけアクティブな研究を進めていていることに驚きました。また、アイディアを自由に試してみたいという思いから、研究に必要な40万円という研究費をクラウドファンディングで集めて研究を進め、実際に成果が得られているのはすごいなと感じています。
医療が変わっていくという状況を目の当たりにできたことは、興味深かったです。保険会社に勤めているのですが、医療技術の進歩や医療を取り巻く環境によって、保険のあり方もどんどん変わっていくと考えています。
第1回「academies BAR」では、以上のようにアットホームな雰囲気で、お酒を飲みつつ研究者と参加者が楽しく交流していました。
academist BARは今後も、幅広い分野の研究者を講師としてお招きする予定です。毎週木曜日19時にはぜひ、大手町ビル6階にあるInspired.Labへふらっとお立ち寄りください。
この記事を書いた人
- academist journal編集部です。クラウドファンディングに関することやイベント情報などをお届けします。