物理学や生物学・工学など、既存の分野にまたがる分野横断型の研究が行なわれるようになりつつあります。本特集では、数理科学を軸に生命現象を明らかにしようと分野横断型の研究を進める研究者のみなさんからの寄稿記事をご紹介します。また、インタビュー記事では、分野横断型の研究を進める秘訣についてお話を伺いました。

理研・初田哲男博士、分野横断型組織iTHEMSについて語る

原子核物理学の分野で優れた業績をあげてきた理化学研究所の初田哲男博士。現在は、2016年11月に始動した同研究所の数理創造プログラム「iTHEMS」のグループディレクターとして、数理科学を軸とした分野横断型研究を進めています。分野融合のカギは”環境”に尽きると語る初田博士にお話を伺いました。

 

体内時計は冷やすとブランコになる

体内時計のおかげでおこる約24時間周期のリズミックな生命現象は、概日リズムとよばれています。20世紀の中ごろから、実験室で低温環境条件にすると変温動物や植物の概日リズムが観察できなくなることが報告されてきました。環境の温度を下げるだけでリズムがなくなってしまうので、なにかただならぬ変化が起きているはずです。しかし「なぜリズムがなくなるか?」という問いに注目した研究はこれまで行われてきませんでした。単純だけれども答えにくいこの問いに、数学・物理の知識を使って取り組みます。

ミクロの世界での泳ぎ方 – 数理の目で見る精子の旅

ミクロな世界に住む微生物は、私たち人間が暮らしている世界のスケールと異なる物理効果がはたらくため、ヒトなどの哺乳類とは姿やカタチが異なっているのも不思議ではありません。残念ながらドラ○もんのス○ールライトはまだないので、本記事では、物理の式を解くことで、彼らの世界を体験してみたいと思います。

 

細胞小器官の動きを理解する方法 – ゴルジ体の形成過程を再現

細胞小器官は、古くから電子顕微鏡画像などで形に基づいて分類されてきましたが、細胞小器官がどのような仕組みで形作られているかは、あまり解明されてきていません。しかし細胞小器官はその部分々々を取り出してみると、分子の膜とタンパク質分子でできています。これら分子の動きは物理学で記述できるはずです。では、この部分々々の物理法則を積み上げ、電子顕微鏡画像などの断片的な情報と合わせて、細胞小器官全体の動きを理解することはできないのでしょうか?

染色体の太さはなぜ一定なのか

ヒトの染色体は46本あり、染色体に含まれるDNAを足し合わせた全長は、2メートルにもなります。DNAは直径わずか数マイクロメートルの細胞核に納められているため、細胞核の中は非常に混み合った状態にあるのですが、それにもかかわらず染色体は正確に複製され、娘細胞に正確に分配されていることには驚きです。しかし、そのプロセスは未だ十分に理解できているわけではありません。数値シミュレーションの立場から、間期から分裂期において生じる「染色体凝縮」のメカニズムの解明に挑みます。

分野横断型の研究を進めるための◯◯力とは? – お茶大・郡准教授

数理科学的手法を用いて、既存の分野にまたがる研究が盛んに行われています。分野横断型の研究に必要な能力とは一体何なのでしょか。魚の集団運動や体内時計など、身のまわりの複雑な現象を数値シミュレーションで記述し、自然界の普遍的な構造を探ろうとするお茶の水女子大学・郡宏准教授にお話を伺いました。