生き物の多様化をめぐる冒険

地球上には、人類の想像の及ばないほどに多種多様な生き物が生息しています。生き物の多様な色や姿、またその生き様に、私たちは興味を掻き立てられ、驚きと感動に満ちた世界に飽きることがありません。熱帯の海に潜れば色とりどりの魚が、サンゴ礁に戯れる姿を見ることができます。山岳域の渓流の底には、驚くほどたくさんの水生昆虫が人知れず生きていることに気づくでしょう。早春の森を歩けば、小さな昆虫たちが可憐な花々を忙しく飛び回っている様子を観察することができるはずです。

しかし、どうして地球上にはこれほど多種多様な生き物がいるのでしょうか。この問題は、ダーウィン以来150年以上も問われ続けている進化生態学上の重要課題ですが、未だに解明されていない謎が多く存在するのが現状です。たとえば、「食う食われるの関係(捕食者・被食者間相互作用)」が、食われる側(被食者)の進化にどのような影響を与えるのか、という問題もそのひとつです。果たして食う側(捕食者)は、被食者の種や表現型の多様化を促進させるのでしょうか、あるいは抑制させるのでしょうか。またもし促進させるとするなら、それはなぜでしょうか。これらの疑問は依然として解決していません。

おかしなカタツムリを冒険の相棒に

研究対象には、北海道に固有のカタツムリであるヒメマイマイとエゾマイマイを選びました。なぜなら、別属として記載されるほどに姿かたちの異なるこれら2種が実は遺伝的に近縁な種間関係にあるのではないかという示唆が、DNAを用いた近年の研究によって得られていたからです。とはいえ、当時わかっていたことと言えば、ヒメマイマイに非常に大きな地域変異があることと、それとは似ても似つかないエゾマイマイのDNAを試しにちょっとだけ調べてみたら、どうもヒメマイマイと近縁であるらしい、ということだけでした。そこでヒメマイマイとエゾマイマイ、さらに北海道に生息する同じナンバンマイマイ科の3種を北海道中からかき集め、それらの種間・個体群間の関係性を精査しました。

すると、特にヒメマイマイとエゾマイマイの2種が中立なDNAマーカーでは区別できないほどに近縁であるということが判明し、さらに近過去に種間交雑を起こした痕跡も発見されました。つまり、見た目の全く異なるヒメマイマイとエゾマイマイは、ごく最近になって急速な表現型分化と種分化によって誕生したということが明らかになったのです。2種の表現型の間には明らかなギャップがあり、中間型は野外で確認されません。このあまりに大きな表現型の違いは、急速な表現型分化や種分化の典型例として知られている他の生き物と比べても、常軌を逸していました。

冒険の始まりは偶然の発見から

生き物の表現型分化や種分化を促す生物間相互作用として、「資源をめぐる競争」が重要であると一般に考えられてきました。つまり、異なる資源への適応が、表現型の分化を引き起こし、ひいては生殖隔離に伴う種の分化を促すのだろうという考えが、進化生態学の中で近年主流になりつつあります(生態的種分化)。すなわち、生物間相互作用によってごく最近に種分化が生じた種間では、生息場所や餌資源の利用(生態的ニッチ)に差異が見られるはずで、それこそが分化の引き金になった可能性が高いと考えられているわけです。

しかし、不思議なことに、ヒメマイマイとエゾマイマイは北海道の広い地域で同所的に生息することがわかっていました。さらに細かいスケールでの資源利用を調べてみても、2種の間には生息場所や餌資源に有意な差異が見出されませんでした。それどころか同じ植物の一枚の葉の上に、2種の成貝が寄り添っている姿さえ観察されました。北海道の固有種で、DNAでは区別できないほどに近縁であり、なおかつ利用している資源まで同じというような2種が、あまりにかけ離れた姿かたちを獲得し、別種として共存しているという事実に、私は愕然としました。既存の事例にも理論にも、類似したものがまるで見当たりません。

ヒメマイマイとエゾマイマイの刺激に対する行動の違いを発見したのは、あまりに矛盾の多い複数の事実に頭を抱えていたころでした。飼育していたエゾマイマイのDNAを解析するために、足の先をわずかばかりカミソリを使って切り落としたところ、なんとそのエゾマイマイは殻を大きく振り回してカミソリを弾き飛ばしたのです。これには肝を冷やしました。殻を武器として使用するカタツムリなど、見たことも聞いたこともありません。一方、エゾマイマイに近縁なヒメマイマイでは、刺激を与えると殻の中に引っ込むというカタツムリ全般に見られる行動を示しました。この発見を得てようやく、ヒメマイマイとエゾマイマイは外敵からの防御に異なる戦略を採用したのではないかという考えに至りました。そして、カタツムリを専門に捕食するオサムシに対峙したとき、非常に敏感にそれぞれに特有の防御行動を示すということを発見したのです。種間で行動が違うということに気づいたこの発見が、研究の転機になりました。

ロシアへ、文字通り冒険の旅へ

幸運なことに、偶然の発見はもうひとつ重なりました。最初に扱った北海道のカタツムリの近縁種群が生息するロシア極東域へ調査に赴いたときのことです。案内された森の中にはなんと、ヒメマイマイとエゾマイマイにそっくりなカタツムリの姿がありました。しかしそれらは別種、Karaftohelix middendorffiKaraftohelix selskiiと呼ばれる2種でした。私はそれを見た瞬間に、エゾマイマイ型の種である K. selskii も、殻を振るに違いないと直感しました。そして実際に、外部の刺激に対して殻を振り回す姿を動画に収めることに成功しました。

おかしなカタツムリの驚くべき進化と、本当の冒険の始まり

ロシア科学アカデミーの共同研究者の協力を得て、日本に標本を持ち帰った私は、いよいよ北海道だけでなくロシア極東域の種群をも含んだカタツムリ種群の種間・個体群間の関係性の解明に取り組みました。合計9種165個体のカタツムリの殻の写真を撮影し、殻幅や殻高、殻口の面積、巻き数などの形質を測り、総合的に評価したところ、殻を振り回す「攻撃型」防御戦略をとる2種と、殻に引きこもる「籠城型」防御戦略をとる他7種との間には、殻の形態的特徴に大きな違いがあることが示されました。

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それらの違いは主に、相対的な殻口のサイズによって決まっており、「攻撃型」の方が相対的な殻口が大きい一方で、「籠城型」の方が巻き数が明らかに多いことが示されました。また、体のサイズも「攻撃型」の方が大きい傾向にありました。それらの殻の特徴は、それぞれの防御行動と非常によく合致していました。「攻撃型」の殻を振り回す行動を取るためには、相応の筋力が必要であり、それを確保するためにも殻口が大きく内容積の大きな殻形態が必然的に必要であると考えられます。一方、「籠城型」についても、相対的な殻口が小さく巻き数が多いという殻の特徴は、殻口から頭部を突っ込んで捕食するオサムシに対し、できるだけ奥まで身体を引っ込めて身を守るために、非常に効果的に作用するはずです。すなわち、行動と形態の双方が互いに関連して、相容れない2つの防御戦略として機能していると考えられました。

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驚くべきは、それら2つの防御戦略が、北海道とロシア極東域において独立に分化したことが、核とミトコンドリアの合計4領域を用いた系統推定によって明らかにされたことです。すなわち、北海道とロシア極東域の種群はそれぞれ、地域ごとに近縁な種群であり、各地域で多様化を遂げたことが示されたのです。このような収斂進化の背景には、地域間に同様の選択圧の存在が示唆されます。すなわち、捕食者に対する二者択一的な戦略のいずれを選択するかによって、被食者であるカタツムリの表現型と種が分化したことが強く示唆されました。

この研究は、地球上の生き物はどのようにして多様な種や表現型をもつに至ったのかという問題に対し、「食う食われるの関係」の重要性を示すものです。「資源をめぐる競争」の重要性が強調されている現在の通説に再考を迫るものであると言えます。生物の種や表現型の多様化メカニズムの総合的な理解に、極めて重要な実例となると期待されます。しかし、実際にオサムシがカタツムリの多様化を促したメカニズムは未だ謎に包まれており、私は現在も今回の成果に続く研究を進めているところです。本当の冒険はまだこれから、旅は始まったばかりです。

参考文献

  • Morii, Y., Prozorova, L. & Chiba, S. (2016). Parallel evolution of passive and active defence in land snails. Scientific Reports, 6: 35600. doi: 10.1038.
  • Morii, Y., Yokoyama, J., Kawata, M., Davison A. and & Chiba, S. (2015). Evidence of introgressive hybridization between the morphologically divergent land snails Ainohelix and Ezohelix. Biological Journal of the Linnean Society, 115: 77–95.

この記事を書いた人

森井悠太
森井悠太
北海道大学大学院農学研究院で、表現型進化や種分化の研究に取り組む、学術研究員です。趣味は旅と登山。生物間の相互作用が表現型の多様化や種分化にどのような影響を与えるのかという課題に対し、特にカタツムリとそれを食べるオサムシの間の「食う食われるの関係」に着目することで、それぞれの進化の過程と要因を追っています。