2015年3月に「“水の通り道”のしくみを再生医療に応用したい!」で目標金額を達成した北京大学医学部(当時:慶應義塾大学医学部薬理学教室)の加藤靖浩研究員に、クラウドファンディング終了後の研究進捗状況についてご寄稿いただきました。

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こんにちは。「“水の通り道”のしくみを再生医療に応用したい!」でご支援いただいた加藤靖浩です。

早いもので、クラウドファンディングのプロジェクトが終了してから、1年半が経ちました。皆さまからのご支援によって、耐凍性を示す水の通り道「アクアポリン(AQP)」が、iPS細胞から使える神経幹細胞に分化した時のみに発現していることを発見し、さらに急速凍結により癌化の原因となる未分化なiPS細胞を除去できることを実証しました。現在、これらの知見をまとめた論文を執筆しているところです。今回の研究成果のポイントは、「普通の細胞が生きることのできない極寒の液体窒素環境において、アクアポリンが発現している細胞がなぜ生存できるのか?」ということです。私は新しい手法を取り入れて、その謎の一端を解明しました。

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急速凍結融解後アストロサイトに分化誘導された細胞

果物を購入するとき、糖度センサーとか光センサーという表示を見たことはありませんか? この手法は、近赤外分光器(高性能なTVリモコンの光)と多変量解析(統計学)を組み合わせた方法です。この手法を用いると、非破壊で果物の糖分(甘さ)や水分量などを測定することができます。

今回の研究では、この方法を活用して、アクアポリンが発現している細胞溶液と発現していない細胞溶液を比較しました。その結果、アクアポリンが発現している溶液のほうが、氷をつくりにくい水の状態であることを発見しました。つまり、氷をつくりにくい細胞溶液に囲まれた細胞は、液体窒素環境下でも生存できることが出来たのではないのかと予想されます。詳細については、論文が発表されるまでもう少しお待ちください。皆さんにも読んでいただけるように、オープンジャーナルへの掲載を予定しています。

今回のご支援を通じて、研究に対する熱意に共感していただけたことは、研究を進めて行くうえで大変心強いものでした。特に、リターンのひとつであった「サイエンスカフェ&ラボツアー」で、応援してくださった方々と直接語り合えたことは、大変有意義な機会となったように思います。何よりも、未来を担う子供たちが、ラボツアーで体験したことを家でも何度も語り、さらに絵に表現してくれたことは、地道な基礎研究に花を持たせてくれました。

fig2
ラボツアー後の物語

一方、せっかく皆さまと巡り会った機会が得られたのにも関わらず、一緒にデータの取得や解析を行う「共創」が実現出来なかった事への思いも募っていました。そこで、今回の研究で使用した高性能なリモコンの光を用いて、皆さんと一緒に実験データの取得・解析に参加していただけるような、オープンサイエンス型の研究プロジェクトを企画中です。

私は昨年から、北京大学医学部に移動して、摂取される水が生体に与える影響について研究しています。特に糖尿病患者さんは、多飲多尿の特徴がみられ、摂取される水の影響が懸念されるからです。そして、我々生命にとって水の摂取は無くてはならない行為にも関わらず、この摂取を司るメカニズムについては、まだ不明な点も多いのです。このような「水」に関わる様々な疑問を一歩一歩解明しながら、身近な社会問題の解決の糸口に応用させる研究活動を進めていきたいと思います。引き続き、よろしくお願いいたします。

この記事を書いた人

加藤靖浩
加藤靖浩
生命になくてはならない「水と食糧」の危機をバイオで解決したく、日本初の生命科学部一期生として東京薬科大学を卒業。名古屋大学大学院生命農学研究科で博士号取得。2004年日本学術振興会研究員としてジョンズホプキンス大学に出向。水の通り道「アクアポリン」に出会う。帰国後、東京歯科大学、慶應義塾大学を経て、2015年より北京大学医学部水研究所室長。一般社団法人アクアラボ代表理事として、主に「水」問題を解決する社会貢献型研究者としても活動中。防災グッズ「せおう水袋Life water bag」を監修