ブタはヒトに似ている?

ブタと聞くと、どのようなイメージを持ちますか? 豚丼、とんかつ、豚汁など、美味しい食材というイメージでしょうか。家畜のイメージがどうしても先行してしまうブタですが、実は医療分野においても、注目を集めている動物です。ブタは生理学的、解剖学的にヒトに近いとされています。さらに、臓器の大きさがヒトに近いことから、医師の手術手技トレーニングのためにも活用されています。遺伝子操作によって、ヒトの病態モデルとなるようなブタを作製できれば、治療方法の研究や創薬研究、手術トレーニングにも活用することができ、医学研究の大幅な発展が期待されることになります。

遺伝子改変ブタの作りかた

ブタのES細胞は未だ樹立されていないため、遺伝子改変ブタは「体細胞クローン法」で作製されてきました。体細胞クローン法ではまず、ブタの体細胞(皮膚の細胞など)で目的の遺伝子を組換えます(STEP.1)。しかし、ブタから体細胞を取り出して長期培養するのは大変で、体細胞では遺伝子組換えの効率が悪いため、うまく目的遺伝子を操作した細胞を得ることが困難です。目的の遺伝子組換えができた後は、遺伝子組換えをした体細胞と、核をあらかじめ除いた卵細胞を融合させる(STEP.2)のですが、この操作は、わずか0.1mmの卵細胞のなかにある核を取り出すという技術が必要な上に、融合させたあとの発生率が非常に低いという問題点がありました。

2013年に報告された「CRISPR/Cas9システム」は、画期的なゲノム編集技術です。遺伝情報であるゲノムDNAを切断する酵素Cas9と、どの遺伝情報を切断するかを決定するガイドRNAを細胞内に供給することで、目的遺伝子の破壊や、遺伝子配列の任意な置換、外来の遺伝情報を挿入した細胞を作り出すことができます。この技術を利用して、遺伝子操作をしたさまざまな培養細胞や動物がつくられてきました。

遺伝子改変ブタの作製においても、ゲノム編集技術は積極的に利用されてきました。しかしその利用は、ブタ体細胞での遺伝子操作の局面に限定されていました。もちろんゲノム編集の利用により、STEP.1 の体細胞での遺伝子操作の効率は格段に向上したのですが、基本的には体細胞クローン技術と同じプロセスを経て、遺伝子改変ブタが作製されてきたのです。

fig1
受精卵エレクトロポレーション法(上図)と体細胞クローン法(下図)との比較

マウスでの遺伝子改変操作

マウスでは、受精卵に直接CRISPR/Cas9システムを導入することで、遺伝子改変マウスが作製されていました。具体的には、受精卵にガラスキャピラリーを挿し、Cas9とガイドRNAの溶液を導入する方法が使われています。これは極めて直接的な方法ですが、顕微鏡下で大きさ約0.1mmの受精卵にガラスキャピラリーを挿すという技術が必要になるため、決して簡単ではありません。たとえ熟練した技術を習得したとしても、受精卵ひとつひとつにガラスキャピラリーを挿さなければならないので、長時間の操作が必要となります。

もっと簡単にできないものかと考えた私たちは、エレクトロポレーションに着目しました。エレクトロポレーションは、電気パルスにより細胞表面に穴を開け、その穴を通して核酸やタンパク質などの分子を細胞内に導入する方法です。培養細胞などでは古くから遺伝子導入法として活用されていましたが、受精卵への導入にはほとんど活用されていませんでした。 実験を行った結果、受精卵にもエレクトロポレーションで核酸やタンパクが導入できることを見いだし、エレクトロポレーションによる遺伝子改変マウスの作製に成功しました(受精卵エレクトロポレーション法)。

簡単なゲノム編集ブタのつくりかた

マウスで成功した私たちは、この方法は他のほ乳類でも成功するに違いないと確信しました。そこで、遺伝子改変を行うには大変な作業が必要とされてきたブタのゲノム編集に取りかかりました。ブタの受精卵は、マウス受精卵と大きさはほとんど変わらないにも関わらず、マウスの条件でエレクトロポレーションを行うと、ブタ受精卵は全て死んでしまいました。そこで、上図のように、ブタ受精卵のために条件の最適化を行いました。

私たちが標的としたのはマイオスタチンという遺伝子です。マイオスタチンは、筋肉の増殖を抑える役割を担っています。この抑制をなくすと、筋肉の過増殖がおこることが報告されています。私たちはブタ受精卵に、Cas9とマイオスタチン遺伝子を働かなくするようなガイドRNAを、エレクトロポレーション法で導入しました。得られた10匹のブタのうち、9匹でマイオスタチン遺伝子が改変されていることが分かりました。このうち数匹では、通常のブタより筋肉が過剰に作られていました。

fig2
受精卵エレクトロポレーション法によるマイオスタチン遺伝子改変ブタ:上段が一般的なブタ、下段がマイオスタチン遺伝子改変ブタを示す

受精卵エレクトロポレーション法により、マイオスタチン遺伝子改変ブタが効率的に作製できたことで、今後、医学研究に有用なさまざまな遺伝子改変ブタが、簡便かつ短期間で作製されることが期待されます。また、本技術は医学研究への応用だけでなく、畜産・農学分野での研究にも寄与できると考えています。ブタは家畜の中でも特に病気(伝染病)に弱いといわれており、一昨年には仔豚にかかる伝染病の流行により多くの仔豚が死に、莫大な経済的損失が生まれました。本技術により様々な病気に強いブタを簡単かつ高効率で作製できるようになれば、畜産・農学分野の発展に大きく貢献することができると考えています。

参考文献

  1. Tanihara F, Takemoto T, Kitagawa E, Rao S, Do L, Onishi A, Yamashita Y, Kosugi C, Suzuki H, Sembon S, Suzuki S, Nakai M, Hashimoto M, Yasue A, Matsuhisa M, Noji N, Fujimura T, Fuchimoto Di, Otoi T.  Somatic cell reprogramming-free generation of genetically modified pigs Science Advances 2 (9) e1600803 (2016)
  2. Hashimoto M, Yamashita Y, Takemoto T. Electroporation of Cas9 protein/sgRNA into early pronuclear zygotes generates non-mosaic mutants in the mouse. Developmental Biology 418 (1): 1-9 (2016)
  3. Hashimoto M, Takemoto T. Electroporation enables the efficient mRNA delivery into the mouse zygotes and facilitates CRISPR/Cas9-based genome editing. Scientific Reports 5: 11315 (2015)

この記事を書いた人

竹本龍也
竹本龍也
徳島大学先端酵素学研究所 助教。脊椎動物の初期発生の研究を行っています。たった一つの細胞である受精卵からどういった仕組みで多様な細胞系列が産み出されるかを明らかにしたいと考えている。受精卵エレクトロポレーション法を活用することで、私自身の研究がより発展することを期待している。また、本研究が活用されることで、生物学・医学・農学研究の発展に寄与できればと考えている。