光は波なのか? 粒子なのか?

1805年頃、トーマス・ヤングは、2つのスリットに光を通してその先のスクリーンにできる干渉縞を見るという実験を行いました。当時、光が「粒子」なのか、それとも「波」なのかわかっておらず、盛んに議論されていました。そのようななか、ヤングの実験は、光が波であることを示す決定打となりました。以下の図に、ヤングの二重スリット実験の概念図を示しています。それぞれのスリットからの光の波がスクリーン上で強め合ったり弱め合ったりすることで、干渉縞が形成されます。ここで、このような干渉縞が形成されるには、2つのスリット両方からの(光の)波の成分が必要だということが重要です。

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ヤングの二重スリット実験

このように、ヤングの二重スリット実験によって、光は波だということで決着がついたかに見えました。ところが、1900年頃、アインシュタインやプランクらの活躍により、光が粒子だとすると、光電効果や黒体輻射といった現象が、すっきりと説明ができることがわかってきました。そしてその後、量子力学が確立し、光は波でもあり、粒子でもあるということが明らかになりました。つまり、波のようにふるまっている光も、弱めていくと、1個、2個と数えられる光の素粒子「光子」に到達することになります。

ヤングの二重スリット実験に見る光子の不思議

では、ヤングの二重スリット実験で、光を弱めていき、スリットを光子が1個ずつ通るようにしたらどうなるでしょうか? 光子が1個入ると、スクリーンには対応する1個の輝点が記録されます。光子をさらに2個、3個と続けて入射していくと、スクリーンにはその数の輝点が記録されます。光子が少ないうちはただランダムに輝点が現れているように見えますが、光子が多くなってくるとぼんやりと、そして最終的にははっきりとした干渉縞があらわれます。

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光子によるヤングの二重スリット実験

上記で述べたように、干渉縞は、2つのスリットからの波が強め合ったり、弱め合ったりしなければ発生しません。したがって、1個の光子が、2つのスリットを同時に通り干渉したと考えなければ、説明がつきません。このように1個の粒子が複数の場所に存在する状態を、量子力学では「重ね合わせ状態」と呼びます。ちなみに、あくまで光子は「1個」ですので、スリット部分で光子がどちらに来ているかを「見る(観測する)」と、どちらかでしか光子は見つかりません。そして、このように光子がどちらのスリットを通ったか知ってしまうと、干渉縞は消えてしまいます。この光子の二重スリット実験の不思議さは、光子を被告人に見立てた裁判を描いた、朝永振一郎博士の「光子の裁判」で、非常に生き生きとした描写でわかりやすく説明されています。もし、ご興味があれば読んでみてください。

たった1個のシャッターで2つのスリットを同時に閉じる?

本研究は、光子の二重スリット実験に、「シャッター」という新たな役者を加えた話になります。今、光子を跳ね返す「シャッター」が1個だけあるとします。

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通常の(古典的な)シャッターを置いたとき

シャッターは、ちょうどスリットひとつぶんの幅で、2つあるスリットの片側だけを閉じることは確実にできるものとします。では、このたった1個だけのシャッターを使って、両方のスリットを同時に閉じることができるでしょうか? 私たちの日常的な感覚では、シャッターは1個しかないので、2つのスリットを同時にふさぐことは、不可能なことのように思われます。

驚くべきことに、2003年米国とイスラエルの研究者らは、特定の重ね合わせ状態にある量子的なシャッター(量子シャッター)を用いることで、たった1個のシャッターで複数のスリットを完全に閉じることが可能なことを示しました。(ただし、量子シャッターが光子と相互作用したのち、別の重ね合わせ状態に変化した場合という条件が必要です。)

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重ね合わせ状態のシャッター1個で、2つのスリットを閉じるイメージ。半透明にすることで、重ね合わせ状態のシャッターを表現している

しかし、必要な性質を満たす量子シャッターの実現が難しかったため、実験的に実証されていませんでした。私たちは、光量子スイッチを用いた量子シャッターを提案、実現することで、上記の理論提案を初めて実験で実証しました。

量子的なシャッターをどう実現するか?

上記の理論提案の実現には、重ね合わせ状態をとることができる、量子的なシャッターをどう実現するかが問題でした。スリットをふさぐ「シャッター」というと、光を遮断する板のようなものを想像されるかもしれません。しかし、そのようなマクロな物体の位置の重ね合わせ状態を自在に制御する技術は、私の知る限り、まだ確立されていません。たとえば、サッカーボールのように炭素原子が組み合わされたC60と呼ばれる比較的大きな分子の重ね合わせ状態は、観測されています。しかし、光子を完全に遮断するには、まだ小さすぎますし、重ね合わせ状態を自在に制御することもできていません。

そこで、重ね合わせ状態をとることができる量子的なシャッターをどのようにしたら実現できるか考えました。光子の重ね合わせ状態は、高い精度で生成と制御が可能です。そこで、シャッターも光子で実現することを考えました。しかし、光子と光子をぶつけても、ほとんど相互作用がないため、何も起きません。したがって、そのままでは、光子を弾き返すというシャッターの機能を実現することができません。シャッターとしての機能を実現するためには、一方の光子でもう一方の光子の量子状態を(破壊せずに)制御する量子デバイスが必要です。そこで私は、一方の光子の有無で、もう一方の光子の光路を制御する光量子スイッチを考案、用いることにしました。この光量子スイッチは、量子コンピュータに用いる基本ゲートを応用したものです。

2つのスリットが同時に閉じていることを確認!

本実験では、2つの方法で、両方のスリットが閉じていることを確認しました。ひとつ目は、スリットを透過した光子と、シャッターではじき返された光子の数を比較する方法です。シャッターが古典的な(重ね合わせ状態をとることができない)場合、光子を跳ね返すことができる確率は、最大で50%です(光子が、2つのスリットに等分な重ね合わせ状態になっていることを仮定しています)。したがって、シャッターで弾き返された光子の割合が、50%を超えている場合、シャッターが量子的なものであったことを意味します。実験の結果、61±3%という古典的な限界を有意に超える割合で光子が弾き返されていることが確認できました。

2つ目は、干渉縞を見るという方法です。シャッターが本当に同時に2つのスリットを閉じている場合、シャッターで跳ね返ってきた光子で干渉縞を見ることができるはずです。そこで、それぞれのスリットでシャッターから跳ね返ってきた光子を干渉させたところ、下図のようにはっきりとした干渉縞を得ることができました。以上の2つの実験結果から、シャッターが2つのスリットを同時に閉じていることが確認できました。

シャッターで弾き返された光子による干渉縞の測定結果
シャッターで弾き返された光子による干渉縞の測定結果

今後の展開

本研究では、たった1個のシャッターで複数のスリットを閉じるという、2003年の理論提案を初めて実験的に実証しました。これは、量子力学の重ね合わせ状態の新たな側面を浮き彫りにするもので、その本質のより深い理解につながるものです。また、重ね合わせ状態を、重ね合わせ状態で制御する新たな方法が可能なことを示唆しており、将来、量子シミュレーションや量子コンピュータの実現に役立つものと期待しています。

最後に、共同研究者である、京都大学、竹内繁樹 教授をはじめとする、本研究を行う上でお世話になった全ての方々に深く御礼申し上げます。ありがとうございました。また、この記事の原稿を読んで有益なコメントを下さった研究室の野原紗季氏に感謝致します。

参考文献

  • 「鏡の中の物理学」(講談社学術文庫)や、「量子力学と私」(岩波文庫)内に収録されています。
  • Y. Aharonov, and L. Vaidman, “How one shutter can close N slits.”, Physical Review A, 67, 042107 (2003).
  • R. Okamoto, and S. Takeuchi, “Experimental demonstration of a quantum shutter closing two slits simultaneously.”, Scientific Reports, 6, 35161 (2016).
  • M. Arndt, O. Nairz, J. Vos-Andreae, C. Keller, G. van der Zouw, and A. Zeilinger, “Wave-particle duality of C(60) molecules.”, Nature, 401, 680 (1999).

この記事を書いた人

岡本亮
岡本亮

2006年北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程修了。博士(工学)。科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業博士研究員、北海道大学電子科学研究所助教、京都大学大学院工学研究科助教を経て、2016年6月より京都大学大学院工学研究科准教授。2015年12月より科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究員を兼任。量子光学、光子を用いた量子計算、量子計測、量子測定の研究などに従事しています。