飲み放題では飲みすぎてしまう?

みなさんは、飲み放題のサービスを利用したことがありますか? 日本で有名なレストランガイド「食べログ」で検索すると約34%の居酒屋が飲み放題サービスを提供していることがわかります。そして、我が国の大学生は、飲酒の際に居酒屋を最も多く利用していることも明らかにされています。つまり、多くの大学生が飲み放題サービスを利用していることは想像に難くありません。

そこで、私たちの研究では、大学生の飲み放題サービスの利用状況や、飲み放題を利用した場合とそうでない場合における飲酒量について調査し、飲み放題が大学生の飲酒に与える影響を明らかにすることを試みました。飲み放題が大学生の飲酒に与える影響が明らかになれば、大学生自身への警鐘や飲み放題サービスの提供の在り方に関する議論の礎になると考えました。

飲み放題では飲酒量が約2倍に

調査では、関東の31大学の35学部の学生1,030名に調査票を配布し、594名から回答が得られました。ここから、データ欠損や飲み放題を利用したことがない学生を除いた511名を分析対象としました。

調査の内容は、「飲み放題を利用したことがありますか?」という質問に対し、「ある」と回答した学生には、飲み放題利用時の飲酒量と非利用時の飲酒量について具体的な数字を記入してもらうというものです。また、飲み放題を利用する理由についても複数回答可で答えてもらいました。そして、飲み放題と飲み放題でない場合の飲酒量の差異を明らかにするため統計解析を行いました。

その結果、飲み放題ではない場合の飲酒量にくらべて、飲み放題では、男子学生が1.8倍(85.9±49.7g vs 48.2±29.5g)、女子学生では1.7倍(63.7±39.3g vs 36.5±26.7g)に増加していることがわかりました。また、男子学生の39.8%、女子学生の30.3%は飲み放題の場合のみHED(一時的多量飲酒)という危険な飲酒をしていることがわかりました。

男女別にみた飲み放題利用時と非利用時の飲酒量の平均比較

「なぜ飲み放題を利用するか」という問いに対して最も多かった答えは「お金を気にせずに飲める」、次いで「安い」「たくさん飲みたい」「お得感がある」などでした。

短時間での多量飲酒の危険性と我が国の現状

海外の研究でも、”all-you-can-drink”(飲み放題)は、短時間での多量飲酒のリスクを2.44倍高めることや、アルコール血中濃度と強く関連していることが明らかにされています。特に、日本人の4~5割はアルコールが飲めない、あるいはとても弱い体質であることが明らかにされています。初めてお酒を飲んだときに顔が赤くなった人はこれに当てはまる体質です。このような学生が飲み放題の利用時に通常より2倍近いアルコールを摂取している可能性があることは極めて危険であると考えます。

短時間で多量のアルコールを摂取すると、アルコールの血中濃度が急激に上昇するため、急性アルコール中毒や転倒などによる外傷、暴力、性被害など身体的・社会的な問題を引き起こす可能性があります。このような短期的な影響だけでなく、若いときに短時間での多量飲酒をしている人はその後も同じような飲酒行動をとりやすいこと、アルコール依存症のリスクが高まることなど長期的な影響も明らかにされています。

アルコール過剰摂取は世界的な問題であり、2009年世界保健機構(WHO)は「flat rate for unlimited drinking(一定料金での無制限飲酒)」のサービスが過剰摂取を招くとして、サービス提供の禁止・制限を提言しました。実際に英国や北アイルランドでは、飲み放題サービスの提供に罰則が設けられました。日本でも2013年に「アルコール健康障害対策基本法」が策定され、国の方針である「アルコール健康障害対策推進基本計画」が2016年に策定されていますが、コンビニエンスストアでは24時間アルコール飲料の購入が可能であったり、多くの飲食店において飲み放題サービスが提供されるなど、未だにアルコールに対して寛容な環境があることも事実です。

さいごに

今回の調査で、ほとんどの大学生が飲み放題の利用経験があり、飲み放題では飲酒量が約2倍に増えることがわかりました。これにより、飲み放題が飲みすぎを助長するということを学問的に証明することができました。

飲み放題では、ついつい「元を取ろう」と考え、ラストオーダーといわれるとここぞとばかりに注文し、最後は残すといけないからがんばって飲む、といった行動をとってしまいますが、翌朝後悔することになりかねません。また、飲み放題は個人で利用することができないため、必然的に複数人で飲酒することになります。もしかしたら、ピアプレッシャー(同調圧力)によって、勧められるがまま飲んでしまい、結果的にいつもより飲酒量が増えてしまったのかもしれません。同席する人数が増えると飲酒量も増えることを報告した先行研究もあります。

今回の調査では、飲み放題だとなぜ飲酒量が増えるのかということは明らかにすることができませんでした。今後、飲み放題だとなぜ飲みすぎてしまうのかということを明らかにするための調査研究や、飲み放題サービスの提供の在り方に関して議論していく必要があるのではないかと考えます。日本の将来を担う大学生が、飲酒によるトラブルに巻き込まれないように、上手にアルコールと付き合っていけるような環境作りが必要だと考えます。

この記事を書いた人

吉本尚, 川井田恭子
吉本尚
筑波大学医学医療系 地域総合診療医学 准教授。博士(医学)
専門は総合診療。東日本大震災を契機にアルコール問題に本格的に取り組み始める。アルコール健康障害対策基本法推進ネットワークの幹事として、プライマリケアを担当する立場から基本法策定・推進に関わっているが、大学生の飲酒にも関心を持ち、調査研究を行っている。日本プライマリ・ケア連合学会理事、家庭医療専門医・指導医。

川井田恭子
筑波大学大学院人間総合科学研究科ヒューマンケア科学博士課程後期2年・同大学社会精神保健学研究員。アルコールに関連したテーマを中心に研究活動を行っている。現在、特に大学生のビンジドリンキング(むちゃ飲み)に関連した研究を行い、今回の飲み放題だけでなく、ビンジドリンキングに関連する飲酒理由や、ビンジドリンキングによってどのようなことを経験しているかという調査結果についても今後発信する予定。