孤独な育児

今年9月、出産後1年未満のお母さんの死亡の原因で最も多いのが自殺であるという、とてもショッキングなデータが国立成育医療センターから発表されました。本来ならかわいい赤ちゃんが生まれ家族や友人から祝福されているお母さんが、死ぬほどまでに思い詰める状況は信じられないかもしれません。しかし、自殺に関係すると言われている産後うつは、出産したお母さんのおよそ10人に1人が罹るという報告もあります。

“ワンオペ育児”という言葉がありますが、これは、育児・家事をほぼ一人でこなす状況を指していて、飲食店やコンビニなどで一人勤務をしている状態のワンオペレーションの略であるワンオペに育児をつけたものです。核家族化が進んだことや、地域のお隣同士とのつきあいが薄れていること、また、パートナーの育児協力の低さなどで、育児中のお母さんが孤立していることは社会問題となっています。

こんな調査結果もあります。総務省の「社会生活基本調査2016年版」によると、6歳未満の子供がいる夫婦の1日の家事育児時間を調べたところ、母親が7時間34分(うち、育児に費やす時間が3時間45分)に対し、父親は1時間23分(うち、育児に費やす時間は49分)でした。

うつ状態を招く要因と思われる「孤独な育児」を実際に多くのお母さんたちが毎日行っているという現実があります。

孤独感とは

孤独を感じるとは、どういうことでしょうか。哲学者の三木清はこう言っています。「孤独というのは独居のことではない。独居は孤独の一つの条件に過ぎず、しかもその外的な条件である。(中略)孤独は山になく、街にある。一人の人間にあるのでなく、大勢の人間の「間」にあるのである。」

どうも孤独感は、物理的に一人でいることと同時に、周りの人と感情的に離れていると認識してしまうことも関係がありそうです。つまり、孤独感には、外的な条件(社会的要因)と、個人の受け止め方(個人的要因)の双方が影響を与えると考えられます。

ところで、私たちを取り巻く社会的要因は、近年インターネットの普及によって劇的に変化しました。多くの人がインターネット・SNSを利用している状況があります。人と人とのつながりを考えるときに、SNSの影響は無視できなくなっています。けれども、これまで、SNSでのつながりを含めた社会的要因や、個人的要因など、どのような要因が育児中のお母さんの孤独感に関連するのかを調べた研究は世界的に見てもありませんでした。
 
そこで、私たちはどのような要因が育児中のお母さんの孤独感に関連するのかを明らかにするために、乳幼児健診を受診した3歳未満のこどもを育児中のお母さんを対象に質問紙調査を行いました。個人的要因を測るものとして、他人からの援助を肯定的に受け取ることができるかどうかをみる内的作業モデル尺度を使いました。また、社会的要因を見るために、携帯電話やスマートフォンの使用状況、親や友人やSNS上の友人とのつながりの程度について質問しました。

SNSとワンオペ育児

どんなお母さんが孤独感を感じているの?

それでは、どんな特徴を持ったお母さんの孤独感が高かったでしょうか。まず、家族や友人の支援が低いお母さんと、SNSの友人からの支援の低いお母さんは孤独感が高いという結果になりました。この結果は個人的要因など他の影響を調整してもなお有意な結果がみられました。

一見当たり前のように思えます。けれども、これまでSNS上のつながりがお母さんの孤独感にどう影響があるのかはまったくわかっていなかったので、この結果から、SNSを使った双方向的な支援はお母さんの孤独感を軽減することに、少なくとも実際の友人関係と同じ程度に役に立ちそうだと期待できます。たとえば、自治体や企業でSNSでのつながりを作って育児相談できる仕組みを作れば、子育て支援として有効な取り組みになるでしょう。

次にスマートフォンの使用状況と孤独感との関係を調べたところ、とても興味深い結果になりました。スマートフォンを1日に少し(1時間未満)しか使用しない人や、長時間(3時間以上)使用する人の孤独感は高く、中くらい(1~2時間)使用する人の孤独感が最も低かったのです。もちろん、スマートフォンを長時間使ったから孤独感を感じたのか、孤独感が強かったから長時間使用したのか、原因と結果がどちらにあるのかは、この調査ではいえません。けれども、お母さんの孤独感を考えるうえで、スマートフォンの使用時間に適正な時間というものが存在しそうです。

育児中のお母さんの通信機器の使用状況と孤独感

最後に、年齢別に孤独感の強さをみたところ、未成年、ティーンエイジャーの若いお母さんの孤独感が最も高いという結果になりました。他の年代と比べても10ポイント近く高かったのです(孤独感尺度の得点範囲は20~80)。ティーンエイジャーのお母さんの背景には、経済的に苦しかったり、家族との関係がうまくいっていないために家族からの支援が低かったり、同級生がまだ学生などで育児について聞ける友人が少なかったりする方もおられるでしょう。孤独感のハイリスク集団です。そのようなお母さんに対しては、妊娠時からの、医療者や行政の連携による積極的で継続的な支援が望まれます。

育児中のお母さんの年齢と孤独感

お母さんの幸せがみんなの幸せと思える社会になってほしい

この研究に取り組んだきっかけは、インターネットで自由に外の世界とつながることが可能な今でさえ、私が20年前に子育てをしたときに感じた、社会から疎外されているような辛さを抱えて子育てをするお母さんがまだいることに対し、なぜだ、と思ったからです。

お母さんが孤独感を感じながら子育てをすることは、ご本人の健康を損なうことはもちろんですが、笑顔の少なくなったお母さんを見ることは、たとえ赤ちゃんであっても辛いものです。余裕がなくなれば、虐待につながる可能性もあります。

集計するときに、調査に協力いただいたお母さんたちが質問調査の回答用紙の余白に書き込まれた、声にならない思いを読みました。孤独感を感じていても、育児に追われ、自分から孤独だということは難しいのです。これからもっとお母さんたちの孤独感が世間に認知されて、支援が少しでも進むように願っています。

参考文献

  • Marie Mandai, Misato Kaso, Yoshimitsu Takahashi, Takeo Nakayama (2018). Loneliness among mothers raising children under the age of 3 years and predictors with special reference to the use of SNS: a community-based cross-sectional study. BMC Women’s Health, 18:131. DOI: 10.1186/s12905-018-0625-x
  • 三木清『人生論ノート』(新潮社、1954)
  • この記事を書いた人

    萬代真理恵
    萬代真理恵
    京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻専門職学位課程卒業(健康情報学)。 RN、MPH(Master of Public Health)。現在、京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターで疫学研究に携わりながら、育児中のお母さんが幸せになれるような情報発信をしていきたいと研究しています。最近は毎朝、NEWS(CNNとかではなく、ジャニーズの方)を聴きながら、柴犬の「銀ちゃん」と散歩するのが日課です。