隕石から太陽系創世期の手がかりを探る

46億年前に太陽系が誕生してからこれまで、どのように物質は進化してきたのでしょうか? 太陽系のなかでも小惑星に含まれる物質は、大規模な溶融を経験しておらず、太陽系初期の情報を保存していると考えられています。小惑星を起源とする隕石の成り立ちを知ることで、太陽系がどのように進化したのかを推測することができます。

一方で、近年の観測精度の向上により、太陽系外の恒星での惑星形成領域の観測が実現し、恒星系の観測と隕石に残された太陽系の情報との比較が可能となりました。これまでの報告では、太陽以外の恒星の観測により確認された物質の多くは、太陽系にも広く含まれていることがわかっています。

石英、もしくは水晶と呼ばれる鉱物である「シリカ」は、地球表層の主要な造岩鉱物です。シリカは、Tタウリ型星と呼ばれる若い恒星や、AGB星という進化末期の恒星に存在していることが示唆されています。しかしながら我々の住む太陽系では、星雲から直接形成されたシリカは、これまで見つかっていませんでした。

原始太陽系星雲のイメージ図。左図はシリカ結晶(SiO2)構造の図。赤色粒子はシリコン原子、青色粒子は酸素原子を示す。右上は今回発見したアメーバ状かんらん石集合体の電子顕微鏡写真 [(c)NASA/JPL-Caltech]

“古く”て“フレッシュ”な隕石を分析

太陽系初期の情報を詳細に調べるには、どのような隕石を選べば良いでしょうか? そのためには、“古い”時代に形成された物質であること、そして、形成後に2次的な影響を受けていない“フレッシュ”な隕石を手に入れることが重要です。

我々のグループは、国立極地研究所が所有する南極隕石のYamato-793261を分析対象に用いました。この隕石は、始原的隕石のなかでも小惑星上での2次的な反応をほとんど受けていないCRコンドライトという種類のものです。分光学的研究により、Yamato-793261に含まれる有機物の結晶化度を調べたところ、他のCR隕石と同様に、天体での熱変成作用を受けていないことが確認されました。つまり、CR隕石の起源天体では温度は上昇せず(約200℃以下)、太陽系円盤での形成時の状況が小惑星に集積された後でもそのまま保持されていると考えられます。

Yamato-793261隕石の全体写真(国立極地研究所提供)

太陽系星雲での物質循環

我々の研究では、隕石中に含まれる難揮発性包有物(CAI)と呼ばれる集合体を詳しく分析しました。これらの集合体は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)に富み、高温の星雲ガスから最初に結晶化した物質であると考えられています。これまでの研究により、原始太陽から発せられるガス流で、これらの集合体は円盤内外のさまざまな場所に飛ばされ、一部はコンドルールと呼ばれる球状物質や低温で形成されたダストと共に、小惑星帯付近で小惑星(始原的隕石の起源天体)を形成したと推測されています。つまり、太陽系内では大規模な物質循環があったと考えられているのです。

原始太陽系円盤の模式図。今回発見した集合体(AOA#4)は、原始太陽近くで形成された後、小惑星帯付近まで飛ばされ、コンドルールや低温のダストと共に小惑星として集積したと考えられる。(Krot and Scott, 2005; Nakashima et al., 2012を改訂)

太陽系最古の鉱物集合体を詳しく分析

難揮発性包有物(CAI)の一種である、アメーバ状かんらん石集合体(Amoeboid olivine aggregates; AOA)は、かんらん石とCaとAlに富む鉱物から成り立ち、溶融などの2次的作用の程度が低く、形成直後の状態を保存する物質として知られています。本研究で分析を行ったYamato-793261中のAOA(AOA#4)には、AOAを構成する通常の鉱物であるMgかんらん石、Ca輝石、Mg輝石に加えて、超難揮発性鉱物(Zr-Sc酸化物、Sc-Ca輝石)、シリカが含まれることがわかりました。

結晶構造を調べたところ、このシリカは、シリカのなかでもより低温で結晶化する「石英」であることがわかりました。つまり、星雲ガスが高温の状態から徐々に冷却し、高温で生じる超難揮発性鉱物からシリカのような比較的低温で生じる鉱物まで、約1500℃から900℃という非常に広い温度範囲で連続的に粒子が成長したことがわかりました。しかも、これらの鉱物の酸素同位体組成は、太陽組成に近い値を持つことが明らかになり、集合体の鉱物のすべてが、太陽に近い場所で形成されたことがわかりました。しかしながらシリカは、太陽系星雲ガス組成の平衡凝縮計算では理論的には形成されません。この発見は、太陽系円盤の中心部に、他の鉱物が凝縮することによって化学組成が分別したガスが存在し、そこでシリカが形成された証拠であると考えられます。

AOA#4の(a)元素マップ、(b)反射電子顕微鏡像と(c)酸素同位体組成
(a) AOA#4は、マグネシウム(Mg)に富む鉱物(赤色の鉱物)と、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)に富む鉱物(緑色と青色の鉱物)から成り立つ。黄色い鉱物がシリコン(Si)に富むシリカ。
(b) 四角で囲った部分を拡大した反射電子顕微鏡写真では、明るい色の難揮発性鉱物であるZr-Sc輝石(ZrSc-px)、Sc-Ca輝石(Sc-px)、Ca輝石(cpx)と暗い色の鉱物であるMgかんらん石(fo)、Mg輝石(px)、シリカ(qz)が共存していることがわかる。
(c) 地球外物質の酸素同位体組成は、CCAM(炭素質コンドライト無水鉱物)線上にプロットされることが知られている。AOA#4に含まれる酸化物は、CCAM線上でも特に、太陽に近い酸素同位体組成を持つことが明らかになった。

はやぶさ2サンプルリターン成功への期待

本研究で用いた始原隕石の起源天体であるC型小惑星は、「はやぶさ2」が探査を行っている小惑星リュウグウと同じ種類の天体です。有機物と含水鉱物を含むC型小惑星は、地球の海の水や生命の原材料物質に密接に関係していると考えられる重要な天体です。今後は、始原的小惑星の探査から得られる結果と、始原的隕石の系統的研究を組み合わせることで、原始太陽系円盤での鉱物の凝縮過程から小惑星形成までの始原天体の進化について、さらなる研究を進める予定です。太陽系の進化の過程で、どのように物質が移動・共存してきたかを知ることで、地球の原材料や生命の謎を解く鍵が得られることが期待されます。

参考文献
Komatsu M, Fagan T., Krot A.N., Nagashima K., Petaev M.I., Kimura M., Yamaguchi A., “First evidence for silica condensation within the solar protoplanetary disk. (原始太陽系円盤から凝縮したシリカの発見)”, Proceeding of the National Academy of Sciences of the United States of America (2018) DOI : 10.1073/pnas.1722265115

この記事を書いた人

小松睦美
小松睦美
総合研究大学院大学にて全学教育と研究に従事。国際隕石命名委員会委員。東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。博士(理学)。NASAジョンソン宇宙センター夏期研修生、ハワイ大学地球物理惑星科学研究所客員研究員、日本学術振興会特別研究員、早稲田大学高等研究所を経て現職。