地球を特徴づける海の存在

「地球は青かった」とは、人類で最初に地球を飛び出したユーリイ・ガガーリンの言葉ですが、なぜ青いかというと地球には海があるからに他なりません。では、他の星はどうかというと、地球のように表層に海がある惑星は今のところ見つかっていません(エウロパなど、氷の下に液体の海が存在する衛星はいくつか報告がありますが)。月や火星に探査機が着陸してあたりを見渡してみても、そこには海のようなものは見当たらず、延々と砂と石からなる荒涼とした砂漠が広がっているだけです。

現在の地球(ひまわり9号による撮影、気象庁)

では、なぜ地球にのみ海が存在するかというと、それは地球が液体の水が存在する絶妙な条件を満たしているからです。地球では約40億年前に海ができて、それ以降ずっと存在してきましたが、それは地球表層で上記の条件をずっと満たしていたからです。そして、そこにはプレートテクトニクスが関わってきます。というのも、温室効果ガスのひとつである二酸化炭素は、プレートによる沈み込みと火山活動による脱ガスによって、大気中での濃度がほぼ一定に保たれるしくみがあるからです。ここで、海を持続的に存在させるのにもうひとつ重要になってくるのは、地球内部での水の循環です。

水の相平衡図。地球の表層では液体の水が存在する条件を満たすが、金星では温度が高すぎて蒸発してしまい、火星では冷たすぎて凍ってしまう。

水は地球内部でも循環している

プレートテクトニクスによって、地球表層の物質は沈み込むプレートと一緒に地球の内部へ運び込まれます。それらのなかには、先ほどの二酸化炭素も含まれますし水も例外ではありません。水は、岩石の隙間や含水鉱物という水を取り込む鉱物によって、地球内部へと運ばれます。ですが、地下での圧力や温度が増加すると、隙間にあった水は絞り出されたり、含水鉱物は不安定になったりして、プレートから水が放出されます。そのような水は、岩石の融点を下げてマグマをつくり、マグマと一緒に水は地表に戻ってきます。このように水は地球内部でも循環しているため、地球表層の水量は、水を含んだプレートの沈み込みによる減少量と、火山などの脱ガスによる排出量のバランスによって決まります。

地球で40億年ものあいだ海が存在してきたのは、表層環境に加えて、地球内部での水収支があってきたからですが、どうも最近はこのバランスが崩れてきたようです。プレートの水の取り込みは、プレート最上部の海洋地殻に限られるとこれまで考えられてきましたが、近年の海底地震探査によると、海溝付近での断層に沿って水の浸透がマントルまで達していることが指摘されています。そこで、私たちはプレートがどの程度海水を取り込んでいるかを実験的に検証することにしました。

海洋マントルの水の取り込み

プレートが海溝で沈み込みを開始すると、折れ曲がりの力により、海溝より海側で断層が発達します。この領域は少し地形が盛り上がっていることから、アウターライズと呼ばれ、ここで発達するアウターライズ断層はマントルの深さにまで達します。もちろんその上には海があるわけですから、海底に亀裂が入ると、海水が断層に沿ってプレートに浸み込みます。

断層沿いにマントルまで水が浸み込むと、岩石と反応して蛇紋岩という石を作ります。蛇紋岩は重量にして13%もの水を含むため、この岩石の分布や存在量が地球内部での水収支を見積もるうえで重要になってきます。マントルと水から蛇紋岩を作る反応は地質学的にあっという間ということがわかっていますので、蛇紋岩の広がりはその反応前線への水の供給が決めています。そこで私たちは、水の供給速度を調べるために、広島大学にある容器内透水試験機を用いて蛇紋岩の浸透率を測定しました。

その結果、岩石中の水の通りやすさをあらわす浸透率は、圧力の増加とともに低下することがわかりました。このことは、深さとともに水の供給速度が低下することで、蛇紋岩の分布は狭まることを意味しています。また、蛇紋岩の広がりは海水が供給される時間にもよるため、マントルでの蛇紋岩の分布は時間とともに拡大します。これらの実験結果に基づいて、プレートによって地球内部へ運び込まれる海水の量を再検討したところ、年間25億トンくらいになることがわかりました。これは、火山などの脱ガスによって水が地球内部から排出される量よりもかなり多く、海水の総量は減少傾向にあることを示唆しています。

海洋マントルの含水モデル。海溝付近のアウターライズ断層に沿ってマントルまで水が浸透すると、年間で約25億トンもの水量がプレートとともに地球内部へ運び込まれる。一方で、火山活動などによる水の排出量は年間2億トン程度と見積もられている。

これからの地球:長期的な視野にたって

このように、現在の地球内部での水収支はつりあいからほど遠く、海水は年々減少する傾向にあるといえます。これを海水準変動に換算すると、年間0.006mmの低下という極わずかな値になり、現在の上昇率である年間1〜3mmのなかに隠れてしまいます。しかし、現在の海から毎年この量の水が時々刻々と失われていくとすると、約6億年後には海水がすべてなくなってしまうことになります。

現在、温室効果ガスの増加により地球温暖化が進み海水準が上昇していると言われていますが、地質学的なサイクルでは氷河期に向かっているとの考えもあります。地球の歴史のうえでは、海が40億年ものあいだ存在しえたのは奇跡的で、その海がこれからもずっとあり続ける保証はありません。

私たちの実験成果は、海水が減少傾向にあることを示していますが、今回それが実証されたわけではありません。今後は、海洋底の掘削プロジェクトによって現在進行形のプレートの含水プロセスを検証するとともに、過去の地質学的試料を使って海水量の変動に迫っていきたいと思います。

参考文献
Hatakeyama, K., Katayama, I., Hirauchi, K. and Michibayashi, K. (2017) Mantle hydration along outer-rise faults inferred from serpentinite permeability. Scientific Reports, 7, doi:10.1038/s41598-017-14309.
片山郁夫(2016)沈み込み帯での水の循環様式、火山, 61, 69-77.

この記事を書いた人

片山郁夫, 畠山航平
片山郁夫, 畠山航平
片山郁夫(写真左)
広島大学大学院理学研究科 地球惑星システム学専攻 教授。東京都出身、東京工業大学大学院で博士(理学)を取得。米国イエール大学、東京大学大学院新領域創成科学研究科でのポスドクを経て、2014年より現職。研究テーマは岩石の力学的特性をもとにした地球内部での物質循環、地震発生プロセス、地熱発電の基礎研究など。

畠山航平(写真右)
広島大学大学院理学研究科 地球惑星システム学専攻 博士後期過程1年。長野県出身、明星大学卒業後、2015年より広島大学大学院に所属。今夏は地球深部探査船“ちきゅう”にてオマーン陸上掘削試料の物性測定に従事。将来的にはモホール計画への参加を目指す。