カラスは食べられるのか!? – 私がカラス食を研究する理由
カラスは私たちにとって最も身近な野鳥のひとつです。彼らは人間の社会にうまく入り込んで生きているのですが、近すぎるがゆえに、人間とカラスの間にはたびたび摩擦が起きています。カラスにとっては、生きるための餌がそこにあるから食べているだけなのですが……。
そんなカラスを減らそうと、日本各地では箱罠による捕獲が行われています。しかし、箱罠に捕まるカラスは、放っておいても自然淘汰されてしまうものがほとんどです。実際、捕獲されたカラスは、自分で十分な餌を確保できない1歳未満の個体ばかりで、彼らは餌の少ない冬に死んでしまうことでしょう。したがって、捕獲によりカラスの数が減るとは一概には言えません。
とはいえ、カラスに悩まされている人たちからすると、自分の生活が脅かされていることもあるため、とにかくカラスの数を減らしたいのです。ある畜産農家さんは、子供のように可愛がっているウシの目玉をカラスにとられるというような被害にもあわれたそうです。それらの人たちの感情を考えると、カラスを捕獲するなとは言えないですよね。
しかしながら、箱罠による捕獲には多額のコストがかかり、捕獲後のカラスたちは殺処分されてしまいます。そこで私は、カラスを食資源として利用できれば有益なのではと考え、カラスを食用化するための研究をはじめました。
まず、有害駆除で処分されたカラスから胸肉を切り出し、調理してみました。まずはカラスそのものの味を確かめるために、塩コショウを振りかけて、フライパンでソテー。もぐも……硬っ! そして臭っ! なんじゃこりゃー。噛めば噛むほど吐き気が……ビールで流し込んでみましたが、なんとも厳しいお味です。
次は、胸肉を数日牛乳に漬け込むことに。何回か煮こぼした後、ブーケガルニなどを入れ、ビーフシチューならぬ、クロウシチューを作りました。まずはスープを。旨っ! 最高に旨いシチュー部分、ん、ちょっと普通のビーフシチューとは違った独特の風味が後からきますね。まあ十分いけます。肉もほろほろ。クロウシチューはいけました。周りの同級生や後輩にも食べさせましたが、旨い旨いと大好評。きっと彼らは美味しいビーフシチューと思って食べていたのでしょう。これはカラス肉だよと明かすと、とたんにスプーンは止まり……やはりカラスを食資源化する上では、カラスのイメージの問題は大きいようです。
これまでの研究では、まずはじめにカラスの肉の安全性を調べました。その結果、ほんの一部の個体から有害物質が検出されたのですが、食べても問題ない程度の量でした。一方、栄養面では、鉄分やタウリンが多いうえに、高タンパク低脂肪、低コレステロールという素晴らしい食材です。
カラスは過去に、長野でろうそく焼きと呼ばれているつくねのような料理として食べられていました。また、韓国では滋養強壮の漢方、古典フレンチでは最高級食材だったそうです。また、30代から50代の主婦142人にアンケート調査を行ったところ、15%の主婦が「カラスを食べたい!」と回答したことから、現時点でもある程度の市場性があることもわかりました。これらのデータをもとに、試食会を兼ねた市民セミナーを行ったところ、安全面、栄養面、食べられていた例を話すことで、カラス食に対する考え方が良い方向に変化することがわかりました。カラスに限らずに、試験や調査の情報に基づく普及活動を行うことで、食資源としては想定されていない有害野生動物を有効利用することができるのです。そのなかでも、食材としてのポテンシャルが高いカラスは、良いモデルとなるはずです。
しかし、カラスの肉の市場化を行うためには、味が重要です。そこでカラスレシピの開発兼試食会を行いました。今回のメニューは真空低温調理、カレー、餃子、赤ワイン煮、燻製です。果たしてどれが受け入れられるのでしょうか?
まずは、真空低温調理です。塩味をつけ、真空パックした後、75度の低温にて60分ボイルしました。しっとりローストビーフのようです。ただちょっと臭みを感じます。あと、ちょっとボソボソしてますねえ。味付けがシンプルだとなかなか難しいかもしれません。改良の余地あり。
カレーにしちゃえばなんでも食える!ニンジン、ジャガイモ、タマネギ、市販のカレールーで作った、いたって普通のカレー。特別なのは肉がカラスということだけ。さすがカレーですね。なんでも美味しくなります。いつものカレー。ただ、肉がちょっと硬いところが気になります。
肉が硬いなら挽いてしまえ!にんにくたっぷりで臭みも消せる餃子はどうだ!ただ、カラスの肉は脂がほとんどない肉ですので、豚の脂身も一緒に挽きました。ニラやキャベツなど、みじん切りした野菜と共にまぜまぜ。皮で包んでホットプレートで焼きました。全く臭みを感じない。挽いてあるから硬さもクリアー。大変美味しくいただけましたが、これは反則ですよね……。
タマネギ、セロリなどの野菜と共に、ローリエなどのハーブも入れた本格派赤ワイン煮。半日グツグツと煮込みました。これは高評価。肉が多少ボソボソする感はありますが、ソースのうまさでカバー。でも手間がかかりますね。
カラスの胸肉を一口サイズに薄切りにし、塩コショウで味を付けます。その後、脱水シートで包み、冷蔵庫で半日保存。桜のチップで1時間程度燻せば、燻製の出来上がり。これはかなり高評価。そして調理も簡単。保存もきく。これでいきましょう!
どうやら、燻製がカラスに適した調理法のひとつのようです。高タンパク、低脂肪、低コレステロール、おまけにタウリンや鉄分が豊富なカラス肉。ぜひみなさんも試してみませんか? クラウドファンディングプロジェクト「カラスと対話するドローンを作りたい!」のページもぜひご覧ください!
この記事を書いた人
- 総合研究大学院大学で、カラスの音声コミュニケーションに関する研究、カラスの鳴き声を使ったカラス撃退装置の開発、有害鳥獣として駆除されているカラスを食資源として利用可能かどうかといった研究を行っております。
この投稿者の最近の記事
- 研究成果2015.11.24カラスは食べられるのか!? – 私がカラス食を研究する理由