なぜ日本人は健康寿命が長いのか?

日本人の平均寿命は伸び続け、世界有数の長寿国として知られています。また、日本人は寿命が長いだけでなく、自立して生活できる期間を示す健康寿命も長いことが認められています。日本人が健康長寿である理由は、欧米人と異なる特徴的な食生活に起因すると考えられています。日本人の食事「日本食」は、米を主食とし、魚、野菜、大豆などの食素材、味噌や醤油といった調味料が伝統的に使われ、近年では、肉、牛乳、油脂、果実も加わり、多様な食素材を使用し、健康維持に有効な成分を数多く含んでいると考えられています。本コラムでは、日本食の健康有益性について、私たちの知見を中心に紹介します。

日本食と米国食との比較

これまでにも、日本食の特徴的な食品に含まれる個々の成分が生体に与える影響を検討した試験は数多くありましたが、食事のメニューまるごとを総合して検討した研究はありませんでした。日本食の健康有益性は、健康維持に有効な食素材を数多く摂取していることによると考えられています。そこで我々は、現在の日本食と米国食を再現し、ラットに一定期間これらの食事を与えた後、食事内容の違いによる生体への影響の差異を調べ、日本食はストレス性が低く、エネルギー消費を促進し、健康維持に有益であることを示しました [1]。

年代ごとの日本食の比較

現在の日本食は欧米の影響を受け「食の欧米化」が進行し、また、生活習慣病の罹患率が増加しています。よって、どの時代の日本食が健康維持に有益かを詳細に検討しました。さまざまな年代の食事献立を作成し、それらをマウスに4週間摂食させたところ、1975年の日本食摂取により、内臓脂肪が減少し、エネルギー消費が亢進することを明らかにしました [2]。長期摂食させた試験でも、1975年日本食は、肥満抑制効果を有し、さらには老化による脂質・糖質代謝調節機能の低下を防いで脂肪肝や糖尿病の発症リスクを低減し、認知症のリスクを軽減し、寿命も延伸することが認められ、1975年頃の日本食は、高い健康有益性を持つことが明らかとなりました [3, 4, 5]。

健康的日本食の特徴

1975年の日本食の健康有益性の要因を探るべくさまざまな検討を行ったところ、何かひとつの成分の効果で良い効果を得るのは難しく、複数成分の相互作用が重要であることが示唆されました。1975年の日本食は他の年代の日本食と比較して豆類、野菜類、果実類、藻類、魚介類、卵類、発酵調味料の使用量が多く、使用している食材の種類が豊富でした。そこで、1975年の日本食の特徴を、過去の研究結果をもとに明確にしました。その特徴は、下図のように5つの要素に分類されました。

第1として、「多様性」で、いろいろな食材を少しずつ摂取していました(主菜と副菜を合わせて3品以上)。第2として、「調理法」で、「煮る」、「蒸す」、「生」を優先し、次いで、「茹でる」、「焼く」を、「揚げる」、「炒める」は控えめでした。第3として、「食材」で、大豆製品や魚介類、野菜(漬物を含む)、果物、海藻、きのこ、緑茶を積極的に摂取し、卵、乳製品、肉も適度に(食べ過ぎにならないように)摂取していました。第4として、「調味料」で、出汁や発酵系調味料(醤油、味噌、酢、みりん、お酒)を上手く使用し、砂糖や塩の摂取量を抑えていました。第5として、「形式」で、一汁三菜 [主食(米)、汁物、主菜、副菜×2] を基本として、いろいろなものを摂取していました [6, 7]。

%e5%9b%b3%ef%bc%93

健康的日本食のヒトでの証明

上記の特徴を有した食事を1975年型日本食とし、ヒトにおいても有益な効果を発揮するかを証明するために、健常人や軽度肥満者に与える影響を現代食と比較・検討しました。実験1として軽度肥満者に、実験2として健常人に与える影響を現代食(日本人の食事摂取基準に準じた食事)と比較しました。

実験1として、被験者(BMIが24以上30以下の軽度肥満者:年齢20~70歳)を現代食群(30名)と1975年型日本食群(30名)に割り当て、それぞれの食事を1日3食、28日間摂取してもらいました。試験期間前後に、各種パラメーターの測定を行った結果、現代食群と比べて、1975年型日本食群において、BMI(体格指数)や体重が有意に減少し、血清LDLコレステロールや血清ヘモグロビンA1c、腹囲周囲長が減少傾向、血清HDLコレステロールが増加傾向を示しました。

実験2として、被験者(BMIが18.5以上25未満の健常者:年齢20~30歳)を現代食群(16名)と1975年型日本食群(16名)に割り当て、それぞれの食事を1日3食、28日間摂取してもらいました。試験期間中に週3回、1日1時間以上の中程度の運動を負荷し、試験期間前後に、各種パラメーターの測定を行った結果、現代食群と比べて、1975年型日本食群において、ストレスの有意な軽減、運動能力の有意な増加が見られました。

以上より、1975年型日本食はヒトの健康維持に有効であることが示されました。1975年の日本食の特徴を取り入れて食習慣を見直せば、健康長寿に役立つことが示唆されました。また、この時代の日本食の特徴を社会に発信することにより、現在の食生活を見直す食育の一助となることが期待できます。さらに高齢社会にあって、患者数が増加している老化性疾患の予防に役立つ「日本食」として、世界へアピールすることが期待できます。

参考文献

[1] 都築毅ら、日本栄養・食糧学会誌, 2008; 61: 255-264.
[2] Y. Kitano, T. Tsuduki, et al., J. Jpn. Soc. Nutr. Sci., 2014; 2: 73-85.
[3] 本間太郎,都築 毅ら,日本食品科学工学会誌. 2013; 60: 541-553.
[4] K. Yamamoto, T. Tsuduki, et al. Nutrition. 2016; 32: 122-128.
[5] 都築毅、昭和50年の食事でその腹は引っ込む、+α新書、講談社(2015)
[6] 都築毅、渡邊智子、和食と健康、思文閣出版(2016)
[7] 都築毅、スーパー和食 昭和50年の献立60、宝島社(2016)

この記事を書いた人

都築毅
都築毅
健康長寿に有効な方法の確立をめざし、日本食(和食)に着目して研究しています。また、妊娠・授乳期の母親の栄養状態が子供に与える影響や老化や老化性疾患を制御する食品開発、パフォーマンス向上のための食品開発に関しての研究も行っています。