三畳紀は、恐竜や広義の哺乳類(哺乳形類)、魚竜や首長竜、カメ、トカゲなどが出現し、繁栄し始めた時代です。ただし、化石記録をみるとワニの系統(クルロタルシ類)が陸上生態系の主要な地位を占め、恐竜が多様化し、世界中に生息域を広げるまで数1000万年もかかったと見積もられています。恐竜は、三畳紀の下積み時代に、どのように繁栄の準備を進めていったのでしょうか?

三畳紀の生態系。ティラノサウルスに似たワニの系統が繁栄し、哺乳類の祖先(左上)はおろか、恐竜(左下)も小さな存在だったと考えられている。イラスト制作:恐竜くん (c) 2018 Masashi Tanaka

ニューヨークから発掘された恐竜の初期進化過程

恐竜が繁栄し始めた時代の地層は、現在の北米東海岸、ニューヨーク周辺ニューアーク盆地に分布しています。発掘現場と言えば、人里離れた荒野や砂漠のイメージですが、大都会マンハッタンの対岸にも化石は眠っているのです。しかも、同時代で世界一を誇る地質記録や化石記録が確立しています。

2億5000万年前には、すべての大陸が合体した超大陸パンゲアが分裂し始め、北米とアフリカのあいだに大西洋の元となる大きな割れ目が生じます。この割れ目が湖となり、魚や恐竜、ワニの系統の化石がたくさん発掘されています。この地層は厚さ4 km、3000万年間も連続して堆積していました。

三畳紀の超大陸パンゲアにおけるモンスーン地域の変化。夏の日射が強くなれば、モンスーン前線が極側に拡大する。ミランコビッチサイクルでモンスーン活動が変化したことが、ニューアークの湖や日本の深海チャートに記録されている。砂漠が湿潤化した時期に、恐竜は生息域を広げ、大型化した可能性がある。

この地層の特徴は、黒い層と赤い層のリズミカルな縞模様です。黒い層は湖底の堆積物で、有機物が多いため黒く、魚化石が多産します。赤い層は、湖が干上がって大気に触れることで、酸化鉄が多いために赤く、脊椎動物の足跡化石が多産します。黒と赤のあいだには灰色や紫色の層もあり、数100 kmに渡って広域に地層の対比ができることから、広大な湖の水位変化を反映したことが明らかになりました。

さらに、赤〜黒のリズムには、2万年、10万年、40万年、180万年と階層的な周期性が卓越し、これらは地球軌道要素のミランコビッチサイクル(「恐竜時代の地球軌道が、地球環境を変えた? – 新たな変動メカニズムの提唱」を参照)に対応すると考えられています。ミランコビッチサイクルは氷期サイクルだけでなく、陸と海の暖まりやすさの違いから生じる大気循環、モンスーンにも影響し、日本の梅雨の要因となる夏モンスーンの強さを変えることが知られています(ちなみに、現在は180万年周期ではなく、240万年周期が卓越します。これは太陽系天体運動の相互作用で、地球と火星の軌道永年共鳴に複数の安定解があるという天体力学な計算結果と調和的です)。これにより2億年前の地層に1万年ごとの時間目盛が構築されました。

さらに、赤い地層中の有機物や炭酸カルシウムの炭素同位体比は、大気と相互作用したため、当時の大気中のCO2濃度を反映します。そのため、3000万年間のCO2濃度変動が復元されました。その結果、2000±1000 ppmと4000±2000 ppmのあいだを1000万年スケールで変化したことが明らかになりました。しかし、この原因は未解明でした。

環境変動の痕跡を求めて、日本の”深海層”へ

過去の環境変化のメカニズムを研究するには、全球的な環境変動を反映しやすい深海の地層を掘削して、その痕跡を探し出します。しかし、2億年以上前の深海の地層は、現在の深海には存在しません。これは、プレートテクトニクスにより、海洋プレートが沈み込んでしまうためです。ただし、深海の地層の一部は、沈み込まずに大陸側にはぎ取られ、付加体として残っています。

日本は沈み込み帯のそばにあるため、大地の多くが付加体です。深海の地層のひとつ、チャートの中の1 mmにも満たない小さな化石(放散虫やコノドントなどの微化石)を研究した結果、日本には2億年以上前の深海層がたくさん存在することが明らかになりました。これは、放散虫革命と呼ばれ、日本の造山運動論のパラダイムシフトとなりました。

このチャートにも、ニューヨークの湖堆積層と同じミランコビッチサイクルのリズムが刻まれています。チャートは主に放散虫の殻SiO2からなり、数cmごとに主に風で運ばれた黄砂(風成塵)からなる泥層を挟みます。微化石による年代見積もりから、チャート1枚は約2万年で歳差運動の周期と調和的でした。さらに、チャートの厚さは周期的に変わり、離心率変動の10万年、40万年、180万年、そして、1000万年の周期が確認されました。つまり、放散虫の堆積速度がミランコビッチサイクルで変わったと考えられます。

我々は世界各地のチャートの堆積速度を見積もり、物質循環モデルの結果と比較したところ、放散虫SiO2の堆積速度は、大陸の風化による海洋へのSiO2の流出速度を反映したことを明らかにしました。大陸が風化して流れたカルシウムイオンは炭酸イオンと結びついて、炭酸カルシウムとして埋没するため、大陸の風化は長期的なCO2消費プロセスとして重要です。ニューヨークの湖の水深変化を反映する色や大気CO2濃度の記録を再解析し比較したところ、1000万年周期で湖が深く湿潤化した時期に大気CO2濃度が低下し、チャートが多く堆積したことがわかりました。

ただし、天文学的には1000万年周期の日射変化は僅かで、何らかの増幅システムが働いた可能性があります。筆者らはモンスーンによる降雨地域の面積が増減することで、化学的な風化がほとんど起こらない砂漠が湿潤化することが大きな役割を持った可能性があると考えています。砂漠が湿潤化することで、植物が生え、風成塵が減少すると、植物の蒸散や雲の形成を促すため、さらに湿潤化するフィードバックが知られています。この効果により、サハラ砂漠の大半が1万年前には草原だったことが化石と気候モデルから明らかになっています。

さらに、現在の化学風化の約7割が、陸域の1割程度の面積で、風化しやすい火山岩が分布するモンスーン地域で起きていると見積もられています。三畳紀の中緯度域にも火山岩が分布していたため、砂漠の湿潤化により一気に湿潤域が拡大すれば、風化が促進されて大気CO2濃度が大きく変わった可能性があると考えています。実際にカナダでは砂漠堆積物の南下に約1000万年周期が卓越したことが地質記録から確認できます。

ミランコビッチ・サイクルが地球環境と生態系に与える影響のモデル図。中低緯度地域の夏の日射変化に伴うモンスーンによって降水分布が変化した結果、砂漠分布や大陸風化が変動し、大気CO2濃度や放散虫起源のシリカの堆積速度が変動したことが、世界各地の砂漠や湖、深海チャートのリズミカルな縞模様に記録されている。

この砂漠を境に生物相も大きく変わります。肉食恐竜である獣脚類は低緯度にも高緯度にも分布しますが、植物食恐竜である竜脚形類や鳥脚類は高緯度にしか分布しません。しかも、南半球と北半球の両方から類似した恐竜が見つかっていることから、長距離移動した可能性が指摘されています。

そこで、モンスーンが恐竜に与えた影響を検討するため、世界各地の恐竜化石の最古記録の年代を調べてみると、1000万年周期の湿潤期に対応していました。つまり、モンスーンが活発になり、砂漠が湿潤化したところを通って、恐竜が生息域を拡大した可能性があります。

さらに湿潤期には、肉食恐竜の足跡化石のサイズが大型化していました。湿潤期には飲み水やエサが豊富になると共に、大気CO2濃度が低下して寒冷化した結果、大型化が促された可能性があります。体が大きくなると表面積は2乗、体積は3乗で大きくなるため、熱を逃がしにくくなるためです。今から5000万年前の温暖期にはウマが小型化したことが知られています。三畳紀は平均気温が現在より数度も温暖だったため、体を冷やすことが生存上有利だったと考えられます。

一方、1000万年周期の乾燥温暖期には、肉食恐竜の足跡のサイズが小さくなるだけでなく、植物やワニの系統、日本の放散虫の群集変化が起こりました。乾燥化や温暖化は、生物にストレスであり、陸だけでなく海の生物の絶滅の引き金になったと考えられます。

三畳紀の砂漠分布(a)、熱帯湖水位(b)、ケイ酸塩風化速度(c)、大気CO2濃度(d)、海面水温偏差(e)、獣脚類足跡化石サイズと最古の恐竜化石年代(f)。中低緯度地域の夏の日射変化に伴うモンスーンによって降水分布が変化した結果、砂漠分布や湖水位、ケイ酸塩風化速度が変動し、大気CO2濃度や海面水温が変わって、湿潤な寒冷期に獣脚類の足跡化石のサイズが大型化し、生息域を拡大した可能性がある。

そして、本格的な恐竜時代 ジュラシックワールドへ

恐竜がさらに大型化し、生態系の多くのニッチを占めるようになるのは、三畳紀末の大量絶滅で、ワニの系統の多くが絶滅した直後からジュラ紀にかけてだと考えられています。このような生態系のシフトは、白亜紀末の恐竜絶滅後、新生代の哺乳類が多様化したこととよく似ています。ただし、絶滅後にどの生物が生き残り、繁栄するかは不確定要素が多く、統一的な見解は得られていません。

近年の研究から、恐竜は三畳紀末絶滅以前にも生息域を拡大し、大型化して、ジュラ紀以後の繁栄への準備を進めていたことがわかってきました。本研究成果からは、その原動力として、地球軌道要素のわずかな変化が、モンスーンを始めとした水循環や炭素循環を介して、1000万年周期で湿潤化や寒冷化を引き起こしたことが指摘できました。これは「風が吹けば桶屋が儲かる」のような、意外なところが恐竜の進化の引き金となったという話のようにも見えます。しかし、一見すると関係がないと思われる現象が、地球というひとつのシステムのなかで複雑に相互作用して関係することは、地球環境や生態系の変動メカニズムを考えるうえでは欠かせない重要な考え方です。そのため、物事の一側面だけでなく、生態系から宇宙も含めた地球表層環境のダイナミクスを俯瞰して、システム科学的に定量的に読み解く必要があります。

地球の軌道要素の変化は地球史を通じて起こってきたため、この1000万年周期の地球環境変化もいつでも起こりうると考えられます。今回の研究が示した1000万年周期の環境変化が生態系に与えた影響がジュラ紀や白亜紀、新生代でも同様に見られるかもしれませんし、違う形でも見られるかもしれません。「雨が降れば、恐竜が大きくなる」仮説がどこまで一般化できるか、恐竜に限らずにいろいろな角度から地球環境と生態系に関するシステム科学的な研究を進める予定です。

参考文献

  • Ikeda, M., Ozaki, K., & Legrand, J. (2020) Impact of 10-Myr scale monsoon dynamics on Mesozoic climate and ecosystems. Scientific Reports, 10.1038/s41598-020-68542-w.
  • Ikeda, M., & Tada, R., (2020) Geologic evidence of Solar System chaos. Earth and Planetary Science Letters, 399, 30-43.
  • Ikeda, M., Tada, R., & Ozaki, K. (2017) Astronomical pacing of the global silica cycle recorded in Mesozoic bedded cherts. Nature Communications 8, 11532.

この記事を書いた人

池田昌之
池田昌之
東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻、准教授。京都大学理学部地質学鉱物学教室、東京大学理学研究科地球惑星科学専攻修士・博士課程修了。愛媛大学日本学術振興会特別研究員(PD)、アメリカ・コロンビア大学客員研究員、スイス・ローザンヌ大学客員研究員、静岡大学助教を経て、2020年より現職。主に地質学的手法を用いて、地球内外の要因が地球環境と生態系に与える影響ついて、研究を行っています。写真はセルビアのミランコビッチの自宅(現在はミュージアム)を訪れた際に撮影。