なにゆえ君は群れるのか?

恐竜は現在の爬虫類や鳥類と同じように卵を産みました。恐竜類の卵や巣化石はもちろんのこと、複数の巣化石が同じ場所から発見される「集団営巣跡」は、以前より世界各地(アジアや北米・南米、ヨーロッパ等)から報告されています。どうやら恐竜は、群れで巣づくりしていたようなのです。

集団営巣は、ペンギンやカモメなど、現在の海鳥などでよく見られる行動です。群れることで、卵を狙う外敵をいち早く見つけたり、エサのある場所を知らせたりと、情報共有できるメリットがあります。当然ながら、親が巣にいる場合にしかこのメリットは成り立ちません。親が巣を守っていなければ、巣の密集地帯は捕食者にとってビュッフェ状態。卵は襲われ放題です。ほとんどの鳥類は親が巣で抱卵するため、卵は親によって守られます。

しかし、恐竜類はごく一部のグループを除き、抱卵しなかったことがわかっています。抱卵しない恐竜たちが集団営巣する場合、親は何をしていたのでしょうか。卵を放ったらかしにしたのか、それとも、巣を守っていたのか。実は、これまで集団営巣時における親恐竜の行動は不明だったのです。

ゴビ砂漠でテリジノサウルス類の集団営巣跡を発見!

2011年夏、私たち日本・モンゴル・韓国・カナダからなる国際研究チームは、モンゴル、ゴビ砂漠東部を調査し、狭い範囲から恐竜類の巣化石を複数発見しました。この一帯はジャブラント層と呼ばれる白亜紀後期の地層(約8600?~7200万年前)が広がり、荒涼とした大地が続いています。私たちは2018年まで計5回の発掘調査を続け、約300m2の範囲のなかから少なくとも15個の巣化石を確認しました。

モンゴル、ゴビ砂漠東部のテリジノサウルス類の集団営巣跡。人がいる地点で巣化石が確認されています。

ジャブラント層における恐竜の集団営巣跡は、確認された巣の数から、アジア最大規模になります。巣には直径約13㎝の球状の卵化石が3~30個ほど集まっていました。親や赤ちゃんの骨化石は見つからなかったのですが、卵殻化石の微細な構造を顕微鏡で調べることで、獣脚類恐竜のテリジノサウルス類が産んだものと推定しました(恐竜の卵殻化石は、微細構造によってある程度の分類ができるのです)。テリジノサウルス類は馬のような頭に長い首、大きな胴、そして前あしに鎌のような爪を持つ二足歩行の恐竜です。

巣化石の例。丸い卵化石が並んでいることがわかります。

少しずつよみがえるテリジノサウルス類の巣づくり法

テリジノサウルス類の卵殻はガス交換のための気孔がたくさんあって、多孔質でした。多孔質の卵殻は、酸素の乏しい巣や湿度の高い巣に産み落とされる卵の特徴です。テリジノサウルス類の卵は、巣材の中に埋められ、現在のワニ類のように地面の熱で温められていたと推測されます。巣化石はすべて同じ層準から見つかり、卵化石の内容物に共通した堆積物が含まれていることなどから、単一の繁殖シーズンに産卵され、その後、洪水によって堆積したことがわかりました。また、15個の巣のうち9個の巣で、卵が孵化した形跡(ヒナが殻を割って出た穴など)が見つかりました。このことから、この集団の営巣成功率は9÷15で60%だったと推測できます。

それでは、営巣成功率60%というのは、高い値なのでしょうか、低い値なのでしょうか。下図をご覧ください。現在のワニ類や鳥類を見てみると、営巣成功率は巣を保護するワニ類や鳥類で高く、巣を保護しない集団で低くなることがわかります。

ワニ類、鳥類、そしてテリジノサウルス類の営巣成功率の比較(箱ひげ図)。テリジノサウルス類の営巣成功率(推定60%)は、巣を保護しないグループよりも高く、巣を保護するグループと同程度であることがわかります。このことから、親が巣を保護していた可能性が考えられます。

つまり、テリジノサウルス類も、親が巣のそばにいたり、巣を守ったりしていたりしたと考えられるのです。現在の鳥類に見られる集団での保護行動は、抱卵行動が進化する以前の恐竜類にまでさかのぼることができます。

研究の意義と今後の展望

鳥類が獣脚類恐竜の一派から進化したことがほぼ確定的となった現在、鳥類独特の行動がどのように獲得されていったのかを探る研究に注目が集まっています。この研究では、現在の鳥類に見られる集団営巣時の親の行動が、抱卵しない恐竜類にまでさかのぼれることを明らかにしました。最初に保護行動が獲得され、次に抱卵行動が獲得される、という段階的な進化プロセスが予想できます。このような研究を積み重ねることで、恐竜類から鳥類にかけて、生態や行動がどのように進化していったのかを明らかできると期待されます。

参考文献
Kohei Tanaka et al., Exceptional preservation of a Late Cretaceous dinosaur nesting site from Mongolia reveals colonial nesting behavior in a non-avian theropod, Geology (2019) 47 (9): 843-847. doi: 10.1130/G46328.1

この記事を書いた人

田中康平
筑波大学 生命環境系 助教
北海道大学理学部を卒業後、カナダ、カルガリー大学地球科学科を修了。Ph.D. 恐竜類を中心に、脊椎動物の繁殖戦略の進化史を研究しています。