一般市民が科学研究に参加・協力する「市民科学(シチズンサイエンス)」の取り組みが日本でも活発になってきています。本特集では、一般市民の情報提供により研究が発展した市民科学の事例を紹介します。スマートフォンに眠っている何気なく撮影した生き物の画像が、もしかすると研究の進展に貢献するかもしれません。

「ナメクジ捜査網」プロジェクト

「マダラコウラナメクジ」という外来種の全国的な分布調査に対して一般の方々から協力を募る市民科学プロジェクト「ナメクジ捜査網」が2015年に立ち上がりました。昆虫ファンや深海生物ファンなど、ファンの数が多いということは、その生物の研究にとってもプラスになりますが、ナメクジはやはりあの見た目のせいもあってか非常に不利。生物学研究の基礎となる分類すら、あまり進んでいない状況です。どうすれば一般の人々はナメクジを探したいと思うのでしょうか?

巨大なナメクジWANTED! – 京大・宇高寛子助教が取り組む「ナメクジ捜査網」プロジェクト

市民科学と最新統計の融合でナメクジの出現を予測

マダラコウラナメクジの分布について、北海道大学の森井悠太さんは、専門家のあいだでも知られていなかった北海道へのマダラコウラナメクジの侵入に、研究者ではない非専門家がいち早く気づいていたことを、一般の方のブログを通して知りました。そしてこれをきっかけに、マダラコウラナメクジに関するさまざまな研究成果が生まれました。

ナメクジの出現を予測する!- 市民科学と最新統計の融合

「花まるマルハナバチ国勢調査」

「飛ぶぬいぐるみ」と呼ばれるマルハナバチ。実は全世界的に減少傾向にあり、日本でも早急な分布調査と保全対策が必要です。そこで東北大学大野ゆかり研究員らは、インターネットを駆使し、市民の方々が撮影した写真を利用した市民参加型調査「花まるマルハナバチ国勢調査」によって、マルハナバチの分布調査を行うことにしました。

あなたの写真がマルハナバチを救う! – 市民参加型調査「花まるマルハナバチ国勢調査」

釣り人のWeb写真を研究利用!

生きものがどの場所でいつごろ繁殖するのか、モテるためにどのような工夫をしているのか、そして、それらが地域によってどう違うのかーーこれらを明らかにすることは、生きものの進化を探るうえでとても大事です。しかし、繁殖は短い期間で終わってしまうので、多くの地域で調査するには複数年にわたる調査や人手が必要となります。そのため、研究のハードルは高いといえます。北海道大学の渥美圭佑さんは、そのような実際の野外データの代わりにWeb上の写真を使って、川魚ウグイが、いつ繁殖するのか、どのような婚姻色をもっているのか、それらは地域ごとに違うのか、調べました。今後、このようなWeb写真の研究利用は重要になってくるかもしれません。

釣り人の写真は貴重な資料! – Web上の写真をもとに川魚ウグイの繁殖生態を明らかにする

雷発生のきっかけを探る「雷雲プロジェクト」

雷はなにをきっかけに発生するのだろうか——このような疑問に挑戦する「雷雲プロジェクト」は、2015年10月からacademistで研究資金の募集を開始し、目標金額を大きく上回る160万円を獲得しました。2016年には科研費を獲得し、研究を軌道に乗せることに成功。そして2017年11月、プロジェクトの成果がNature誌で発表されました。このプロジェクトは、市民参加型研究の性質も持ち合わせたものでした。

星の死後にできた中性子星の謎とは? – 雷雲プロジェクトの立役者、京大・榎戸輝揚特定准教授に聞く

市民参加型の研究を目指した「雷雲プロジェクト」の野望