2014年10月、京都大学・柴田一成教授が挑んだプロジェクト「太陽フレアの気候と宇宙天気予報の研究」が、academist史上最高金額となる373万円を達成しました。あれから1年半、柴田教授の進める研究ではどのような成果が得られたのでしょうか。今回、柴田教授からのプロジェクト進捗報告をいただきましたので、以下に掲載いたします。

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京都大学飛騨天文台では、太陽彩層全面のHα線撮像観測や速度場観測においては世界最高性能の太陽磁場活動望遠鏡(SMART)が活躍しています。SMARTは建設後10年が経過したため、国(大学)からの維持費のサポートが2013年に終了しました。しかし、地球に影響を及ぼす比較的大きなフレアを観測するためには、今後も常時太陽を観測していく必要があります。そのためには、SMARTに常駐する人件費や維持費、そして観測結果を世界に配信するための設備費が必要です。そこで、2014年8月22日~10月20日までの60日間で、クラウドファンディングに挑戦しました。その結果、327人の方から、総額3,737,120円のご支援をいただき、当初の目標(350万円~3か月分の運用費)を達成しました。

京大飛騨天文台SMART望遠鏡
京大飛騨天文台SMART望遠鏡

このご支援のおかげで、SMART望遠鏡による太陽観測を継続することができ、貴重なデータを取得することができました。特に上記クラウドファンディングの期間の最後の週に、太陽で20年ぶりの巨大黒点が出現しました。この巨大黒点は望遠鏡を使わなくても目で見える、いわゆる「肉眼黒点」でしたので、大きなニュースになりました。ご記憶の方もおられると思います。私も日食メガネを使って望遠鏡なしで黒点が見えたときには感動しました。

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2014年10月24日に出現した巨大黒点の連続光画像。飛騨天文台SMART望遠鏡による。

巨大黒点が現れると巨大フレアが起きることが知られているのですが、このときは、2週間の間に6回も大フレア(いわゆるXクラスフレア)が発生しました。フレアからの強いX線によりデリンジャー現象と呼ばれる電波通信障害が何度も発生しました。Xクラスフレアは一回起きただけでもニュースになるくらいですから、このときは世界全体で何度も大ニュースとなりました。飛騨天文台SMART望遠鏡では日本が昼の時間帯に発生した10月19日と24日の2回の大フレアを観測するのに成功しました。

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さて、デリンジャー現象などの被害は起きたのですが、幸いこの巨大黒点からは、なぜかコロナ質量放出と呼ばれるプラズマの噴出現象が発生せず、その結果、地球で磁気嵐やそれによる被害が起きることもありませんでした。これは人類社会にとっては不幸中の幸いだったのですが、大磁気嵐や大災害が起きるかも、と緊張して待っていた宇宙天気予報研究者には不思議なことでした。巨大黒点が現れると多かれ少なかれプラズマの噴出が発生し、特に南向きの磁場を含むプラズマ雲が地球に正面衝突すると地球では磁気嵐が起きて様々な被害が発生するからです。そこで、「20年ぶりの巨大黒点が出現したのに、なぜコロナ質量放出が発生しなかったのか?」という新たな謎が生まれました。

私たち京大飛騨天文台のグループは、このクラウドファンディングのおかげで、貴重なデータを継続取得でき、また幸運にも20年ぶりの巨大黒点のデータが観測できた上に、新たな謎を目のあたりにすることができました。しかも、その謎に対する答えも短時間で得ることができたのです。その答えは、一言で言うならば、「巨大黒点は大きすぎたために、磁場が強大となり、プラズマの噴出をすべて閉じ込めてしまった」というものです。黒点は大きければ必ず(太陽外に飛び出す)プラズマ噴出が起きるわけではない、ということです。これはふつうの黒点で小さなフレアが起きても(地球に影響するような)プラズマ噴出は起こらない、ということと同じであることがわかりました。

以上の研究成果は2015年3月の天文学会と5月の地球惑星連合大会(国際セッション)で発表し、読売新聞と中日新聞でも報道されました。現在、その後の解析も加えて、レフェリー誌論文にまとめようとしているところです。つい先日(2016年4月)、フィンランドで開催された国際会議でフランスの研究者から、「昨年の上記国際会議であなたの発表を聞いたが、大変おもしろかった。論文ができたらぜひ送ってほしい」と催促されたばかりです。

最後になりましたが、クラウドファンディングを通じて、私たち京大飛騨天文台グループの研究をご支援くださった多くの方々とアカデミストのみなさんに、あらためて深くお礼申し上げたいと思います。(2016年5月16日記)

この記事を書いた人

柴田一成
柴田一成
京都大学大学院附属天文台教授・同天文台長の柴田一成です。物心ついたころから「自分はなぜ存在するのか?」という疑問の答えを知りたいと思い、宇宙物理学の研究者を目指すようになりました。現在は太陽フレアの機構の宇宙天気予報の研究を進めています。