大質量星の進化

現在の太陽は、中心部の水素をヘリウムに変える核反応で得られるエネルギーによって、自身を支え続けています。中心部分の水素がなくなってしまうと、核反応によるエネルギーが失われ、中心部が潰れていきます。しかし、ある程度潰れたところでヘリウムを炭素や酸素に変える核反応が起こるのに十分な密度と温度になり、引き続き核反応から得られるエネルギーで星が支え続けられます。

しばらくすると中心部のヘリウムもなくなります。再び核反応で自身を支えるエネルギーが得られなくなり、星の中心は潰れはじめます。太陽程度の質量(2×1030 kg)を持つ星の場合、このときに中心部で量子力学的な圧力である電子の縮退圧が自重を支えるのに十分大きくなり、それ以上潰れることはなくなります。この状態の星では中心部でこれ以上核反応は起こることなく、やがて炭素と酸素でできた白色矮星となります。

太陽の約10倍以上の質量を持つ大質量星も、中心部のヘリウムが尽きた後に潰れ始めます。しかし、縮退圧が中心を支えるのに十分な強さになる前に、炭素の核反応が起こるのに十分な密度と温度に達するため、再び核反応によるエネルギーで星が支えられます。大質量星は、以降縮退圧が卓越することなく、中心部が鉄で満ちるまで次々により重い元素を合成する核反応を起こし、そのエネルギーで星を支え続けます。

大質量星の質量放出

大質量星の中心部は核反応の進行とともに収縮していくのに対して、星の外層は膨らんでいきます。太陽の10倍以上の質量を持つ星は、生まれた直後は太陽の5~10倍程度の半径を持っていますが、中心部を鉄が占めるときには、多くの場合太陽の500~1000倍程度の半径を持った赤色超巨星と呼ばれる星となっています。

赤色超巨星は非常に明るいため、表面での放射圧が強く、放射圧により星の表面が少しずつ剥がされていきます。赤色超巨星は、年間おおよそ太陽質量の1万分の1から10万分の1の質量を表面から失っています。また、赤色超巨星の質量放出は大質量星の表面で起こることであり、鉄に至る中心部での進化とは直接関係しないと考えられてきました。

大質量星の最期 – 中心の崩壊と超新星爆発

大質量星は、鉄が合成されるまで核反応によってより重い元素を合成することで、星を支えるエネルギーが得られてきました。しかし、鉄は最も安定した元素であるため、核反応によってエネルギーを取り出すことができません。このため、鉄からなる中心部はどんどん潰れて高温となっていきます。やがてあまりに高温になると、鉄が壊されてバラバラになり、ヘリウムになってしまいます。鉄がヘリウムに壊れる際に熱が奪われるため、中心を支える圧力が一気に低下します。

この結果、星の中心部が一気に潰れ始めます。やがて中心部の密度が核密度に達すると、核力の効果が現れ始め、中心部が突然硬くなって反跳を起こし、外向きに伝搬する衝撃波が発生します。この衝撃波はそのままだと外から落下してくる物質によって押し返され、崩壊している星を突き抜けることはできないと考えられています。しかし、核密度に達した中心部分から大量に放出されるニュートリノの一部が衝撃波を加熱することで崩壊する星を突き抜けるのに十分なエネルギーが得られ、超新星爆発が起こると考えられています。

ショックブレイクアウト – 超新星爆発のはじめの光

星の表面からの光を見ている観測者は、中心が潰れた直後には潰れたことはわかりません。中心の崩壊の結果発生した衝撃波が星の表面に達したときになって初めて、外からの光を見ている観測者が超新星爆発が起こっていることを認識できます。密度の高い星の中を伝わってきた衝撃波が、突然密度の低い星の表面に現れるため、衝撃波が表面にたどり着いた瞬間にこれまで衝撃波に溜め込まれていた光が一気に解放され、短時間非常に明るくなると考えられています。

このような、超新星爆発後に衝撃波が星の表面にたどり着いたときに一時的に非常に明るくなる現象は「ショックブレイクアウト」と呼ばれています。ショックブレイクアウトには半径といった爆発した星の貴重な情報が含まれているため、日本の持つすばる望遠鏡を含めた世界中の望遠鏡でショックブレイクアウトを捉える観測が行われています。赤色超巨星が爆発するときには、ショックブレイクアウトの継続時間は数時間であると理論的に考えられています。超新星爆発が起こった直後の数時間以内を詳細に観測する必要があるため、ショックブレイクアウトを捉える観測は非常に挑戦的なものです。

ブランコ望遠鏡で行われたショックブレイクアウト探査

チリ大学のFrancisco Försterさんは、チリにあるブランコ望遠鏡を用いて超新星探査を行うとショックブレイクアウトを捉えられる可能性が高いことに気づき、実際に観測を行いました。この結果、26個の赤色超巨星の爆発の直後を捉えることに成功しました。爆発後数時間以内に捉えられた超新星爆発も多くあったものの、理論的に予想されているショックブレイクアウトによる一時的な増光を捉えることはできませんでした。Försterさんの行った超新星探査でショックブレイクアウトを捉えられる可能性は高いと考えられていたため、ショックブレイクアウトが見つからなかったという事実は観測チームを悩ませました。

一方で、26個も爆発直後に捉えることができた赤色超巨星からの超新星爆発のほとんどは、これまで予想されていた爆発直後の光り方と大きく異なる性質を持っていることにFörsterさんは気づきました。これまでの標準的な理論では、赤色超巨星の超新星爆発はショックブレイクアウトによる一時的な増光の後に暗くなり、その後20日以上かけて再び増光して最大の明るさに達すると考えられていました。ところが、Försterさんが爆発直後から観測するのに成功した赤色超巨星の超新星爆発は、ほとんどの場合爆発後10日以内に最大の明るさに達していたのです。

厚いガスに囲まれていた赤色超巨星 – 爆発直前の星の未知の活動性

赤色超巨星からの超新星爆発はなぜこんなに早く増光したのでしょうか。私たちは、星が進化の途中で放出するガス中で超新星爆発が発生すると、超新星爆発にどのような変化が現れるかを理論的に研究していました。その際、赤色超巨星が爆発直前に極端に多くのガスを放出する場合、超新星爆発が短時間で増光することを示していました。何らかの理由で爆発直前の赤色超巨星の表面での活動が活発になり、星の表面から多くのガスが放出されると、爆発直後に超新星が周りのガスに衝突し、超新星爆発が早く増光することを示しました。

Försterさんの観測結果は私たちの理論に近いものであったため、理論と観測の詳細な比較を行うことにしました。この結果、赤色超巨星が爆発の数百年前から毎年太陽質量の千分の1の質量を失えば、超新星爆発の10日以内の増光の様子を再現できることがわかりました。

Försterさんの率いる観測チームの捉えた赤色超巨星の爆発直後の増光と、理論的に予想される明るさの変化の比較。実線は爆発直前の赤色超巨星が大質量放出を行ったと仮定した場合の明るさの変化の予想。1つひとつの線がひとつの理論予想であり、さまざまな条件下でのシミュレーションの結果を示している。破線は爆発直前に大規模な質量放出を行わないと仮定した従来の理論予想。
(c) 国立天文台 (Förster et al., 2018, Nature Astronomy, 2, 808を改変)

これは、爆発直前の赤色超巨星が、何らかの理由で通常の10~100倍以上のガスを放出していることを示しています。これにより、爆発する赤色超巨星のごく近傍に太陽質量の約10分1程度のガスが存在するため、超新星爆発の爆発直後の増光が非常に早くなっていたのです。さらに、このようなガスが爆発する星を囲んでいるとショックブレイクアウトの一時的な増光が隠されてしまうため、Försterさんの観測でショックブレイクアウトが捉えられなかったことも説明ができることがわかりました。

爆発直前の赤色超巨星とそれを囲む厚いガスの想像図 (c) 国立天文台

今後の展望

今回の研究により、爆発直前の赤色超巨星が何らかの理由で表面から多量のガスを放出している可能性が高いことがわかりました。しかし、はじめにも書いたとおり、星の中心の崩壊によって引き起こされる超新星爆発と、星の表面で起こる質量放出が関係を持っていることは従来の星の理論では考えられていませんでした。これは、天文学の基礎中の基礎である星の進化に、私たちの理解がまだ及んでいない未知の現象が存在していることを示唆しています。

より多くの詳細な爆発直後の超新星爆発の観測はもちろん、爆発直前の星の姿を捉えることができれば、超新星爆発と赤色超巨星の質量放出がどのように関係をしているのかを突き止めることができると考えられます。たとば、ベテルギウスはいつ爆発してもおかしくないと考えられている赤色超巨星ですが、実は爆発の数百年前から大規模な質量放出が観測され始めるのかもしれません。

参考文献
Förster et al., “The delay of shock breakout due to circumstellar material evident in most type II supernovae” Nature Astronomy, 2, 808–818 (2018)

この記事を書いた人

守屋尭
守屋尭
1986年6月生まれ。東京大学理学部天文学科を卒業後、東京大学大学院理学系研究科天文学専攻に進学。2013年9月に同博士課程修了。博士(理学)。その後、日本学術振興会特別研究員(PD)および海外特別研究員として、ドイツのボン大学アルゲランダー天文学研究所に2016年3月まで滞在。2016年4月より国立天文台理論研究部特任助教。専門は超新星爆発の理論的研究。多種多様な大質量星が爆発した際にどのような超新星爆発として観測されるかを理論的に明らかにし、大質量星の爆発する直前の様子を探る研究を行っている。