次世代の超伝導物質探索

1911年、絶対温度4.2Kに冷却した水銀の電気抵抗が突然消失する現象から「超伝導」が発見されました。送電線などには電気抵抗の非常に低い銅が広く使われていますが、発電所から我々の手元に電気を送る際は、わずかな電気抵抗であっても長い送電距離により大きな電力ロスが生まれます。もし室温で超伝導を起こす物質を見つけることができれば、電力をロスなく送電できるため、世界のインフラは一変するでしょう。超伝導の発見以降、電気抵抗がゼロになる温度(超伝導転移温度:Tcといいます)を上昇させるための物質探索が続けられてきました。

これまでの超伝導物質探索のブルレイクスルーを振り返ると、1986年の銅酸化物系、2008年の鉄系、そして2015年の硫化水素系の発見などが挙げられます。これらのなかで銅酸化物系と鉄系は、それぞれ誘電体と透明電極の実験の過程でセレンディピティとして発見されました。その後に超伝導のメカニズムを解き明かすためのさまざまな理論研究が後発して発展しました。

一方で、現在で世界記録である-78℃で超伝導転移を示す硫化水素(ただし超高圧力環境)は、理論研究が先行してその高い超伝導転移温度を予測し、実験が後追いで実証したものです(実際には理論よりさらに高いTcが現れる幸運がありました)。

今後の超伝導物質探索は、研究者のカンと経験に依存して試料を絨毯爆撃のように合成するのではなく、データ科学を活用して候補物質を絞り込み、最小限の実験によって進める形態へと移行していくことが予想されます。実際に高分子の研究などでは、物質の機能性から合成の可否まで、データ科学で高精度に予測することに成功しています。しかし、固体物理、特に超伝導についてはその発現機構が複雑なため、データ駆動型の研究は、まさにスタートを切ったばかりといえるでしょう。

本稿では、我々のグループで取り組んでいる、マテリアルズ・インフォマティクスを活用した次世代の超伝導探索の手法と、最近得られた成果について述べます。

超伝導候補物質のスクリーニングを表したイメージ図

データベースを活用した網羅的超伝導探索に成功!

超伝導体の候補物質を探すうえで、物質・材料研究機構が提供している30万個もの化合物が収納されたデータベース“Atomwork”を用いました。本試行実験では計算時間を考慮して、初めに、周期表のなかから化合物の作りやすさ、毒性、放射性などの大まかな条件から、物質を構成する元素を限定しました。これによって候補物質の数は、30万個から1,570個の化合物へと絞り込まれました。これらの物質に対して、物質の性質(金属や半導体など)を表す電子状態を計算して、超伝導に向く45個の半導体化合物を選定しました。

通常、超伝導は金属で起こる現象ですから、金属の性質を示す物質から探すのが常套手段ですが、我々はあえて半導体の性質を持つ物質に的を絞りました。半導体でも、物質に圧力を与えることで性質を金属に変えることができ、超伝導探索の範囲に含むことができます。我々は物質に圧力を与えながら性質を測定する手法を独自に開発しており、この技術を利用することで、超伝導探索において未開拓の半導体に注目したのです。最後に、圧力を与えたときに半導体から金属になることを条件とした振るい落としにかけ、27個の超伝導体候補物質を選定しました。

候補物質を選定したのち、まずは最も合成しやすいと思われたSnBi2Se4の超伝導を確かめることにしました。この物質は層状構造であり、電子状態にはフェルミエネルギー付近にフラットな構造を示します。これらはいずれも超伝導を引き起こすのに有利な特徴であり、今回の候補物質スクリーニングの肝となるポイントです。また、上下の電子状態の間に隙間が空いている半導体の特徴を持ち、高圧力を与えるとこの隙間が縮まり、金属へと性質が変わることが計算で予測されました。

SnBi2Se4の結晶構造と電子状態
層状構造であり、フェルミエネルギー付近(エネルギーがゼロのところ)に平坦な電子状態を持つことは超伝導に有利である。電子状態の上下に隙間が空いているのは、半導体であることを意味する。

実際に高圧力環境で電気抵抗を測定すると、約10万気圧で、電気抵抗が温度の低下とともに減少する金属的な振る舞いを示すようになりました。さらに約20万気圧まで加圧を進めると、電気抵抗が低温で突然ゼロになる超伝導現象が確認されました。つまり、データベースからマテリアルズ・インフォマティクスによって選び出された物質で、実際に超伝導が発見されたのです。また驚くべきことに、約50万気圧まで加圧すると、超伝導転移温度が突然跳ね上がる“第二超伝導相”が出現するなど、予測していなかった物理現象まで発見されました。

我々が独自に開発した高圧力印加装置とSnBi2Se4の高圧力下の電気抵抗

次々と見つかる新規超伝導物質

SnBi2Se4の超伝導を発見してすぐあと、PbBi2Te4の合成にも成功しました。この物質はSnBi2Se4とほとんど同じ結晶構造と電子状態を持ち、なおかつ電子状態の間に空いている隙間は半分程度です。すなわちPbBi2Te4は、SnBi2Se4に高圧力を与えた状態が常圧力下で実現しているとみなすことができます。実際に電気抵抗を測定すると、SnBi2Se4のときは10万気圧下でやっと金属になりましたが、PbBi2Te4では常圧力下で既に金属的な振る舞いを示しました。さらにSnBi2Se4では20万気圧下で発現した超伝導現象が、PbBi2Te4では半分の10万気圧下で観測され、その温度も高かったのです。これは新たな超伝導物質の発見であるとともに、先だって発見された物質の特性を改善できたことを示しています。

SnBi2Se4とPbBi2Te4の圧力に対する振る舞いの比較
SnBi2Se4の金属や超伝導になる圧力が、PbBi2Te4では低い圧力側にシフトしている。

今後の展望

通常、新たな超伝導物質を発見するためには莫大な時間と人手が必要です。今回のマテリアルズ・インフォマティクスを活用した超伝導物質探索では、短い期間で続々と新規超伝導物質を発見することに成功しました。本稿の執筆中にも、3つ目に合成した物質にも新しい超伝導が確認されました。

これらの結果により、本手法が効率よく新しい超伝導物質を発見するのに有効であることが小さなモデルスケールで示されました。今回発見した物質では、超伝導転移温度はまだまだ低いですが、今後はより広範囲の物質についてスクリーニングの条件をさらに高度化して、より高い温度で超伝導になる物質の探索を目指します。

参考文献

  • Ryo Matsumoto, Zhufeng Hou, Hiroshi Hara, Shintaro Adachi, Hiroyuki Takeya, Tetsuo Irifune, Kiyoyuki Terakura, and Yoshihiko Takano, “Two pressure-induced superconducting transitions in SnBi2Se4 explored by data-driven materials search: new approach to developing novel functional materials including thermoelectric and superconducting materials”, Applied Physics Express 11, 093101 (2018), doi: 10.7567/APEX.11.093101
  • Ryo Matsumoto, Zhufeng Hou, Masanori Nagao, Shintaro Adachi, Hiroshi Hara, Hiromi Tanaka, Kazuki Nakamura, Ryo Murakami, Sayaka Yamamoto, Hiroyuki Takeya, Tetsuo Irifune, Kiyoyuki Terakura, Yoshihiko Takano, “Data-driven Exploration of New Pressure-induced Superconductivity in PbBi2Te4 with Two Transition Temperatures”, arXiv:1808.07973 (2018).
  • この記事を書いた人

    松本凌, 高野義彦, Hou Zhufeng, 寺倉清之
    松本凌, 高野義彦, Hou Zhufeng, 寺倉清之
    ※ 写真は左から同順
    松本 凌
    国立研究開発法人物質・材料研究機構 ナノフロンティア超伝導材料グループ 筑波大学 博士後期課程。学振特別研究員DC1。2017年筑波大学大学院博士前期課程修了。同年4月より現所属。ウィスカーの合成や光電子分光、超伝導線材、超高圧下物性測定の研究に従事。

    高野 義彦
    国立研究開発法人 物質・材料研究機構MANA-PI。ナノフロンティア超伝導材料グループリーダー。博士(理学)。筑波大学物質材料工学専攻教授を併任。1999年に物質・材料研究機構入所。06年より現職。専門は、超伝導と磁性の物理、固有接合、高圧物性、ダイヤモンド超伝導、鉄系超伝導、新超伝導探索。

    Hou Zhufeng
    国立研究開発法人 物質・材料研究機構 統合型材料開発・情報基盤部門 情報統合型物質・材料研究拠点 データプラットフォーム NIMS特別研究員。博士(理学)。現在の専門分野は、熱電理論、データベース開発、物性理論、計算科学。

    寺倉 清之
    国立研究開発法人 物質・材料研究機構 名誉フェロー・エグゼクティブアドバイザー、産業技術総合研究所 名誉リサーチャー、北陸先端科学技術大学院大学 フェロー、東京大学 名誉教授。博士(理学)。現在の専門分野は、物性理論、計算科学。