academistのクラウドファンディング「系統樹マンダラを作り、カメ研究を盛り上げたい!」で目標金額を達成した早稲田大学国際学術院 平山廉教授の対談イベントが、4月14日(土)に早稲田大学早稲田キャンパスにて開催されました。

平山教授は数少ないカメ研究者の1人で、カメの起源や進化の過程を明らかにしようと研究しています。クラウドファンディングでは、カメの進化について系統的にまとめ、カメ研究を盛り上げるために、カメの進化ポスター「系統樹マンダラ【カメ編】」の制作費を募りました。

今回の対談イベントは、古生物復元画家として活躍する小田隆さんをゲストにお招きして二部構成で行われました。小田さんは系統樹マンダラ制作チームの1人で、今回のカメ編の復元画も手掛けています。イベントでは、カメの進化の過程から系統樹マンダラの制作秘話までが語られました。本稿ではその様子を一部ご紹介いたします。

左から、系統樹マンダラ制作チームの小田隆さん、平山廉教授、畠山泰英さん

系統樹マンダラ誕生のきっかけは

イベントではまず、小田さんが系統樹マンダラシリーズ立ち上げの経緯について説明しました。きっかけは、分子系統学の権威である長谷川政美博士が、動物の写真を撮るのが趣味で、多種多様な動物の写真を持っていたことでした。もともと長谷川博士はこれらの写真を使って自分で系統樹を制作し、書籍『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史』(ベレ出版、企画・編集:畠山泰英、扉絵:小田隆)と『新図説 動物の起源と進化』(八坂書房、企画・編集:畠山泰英、装画:菊谷詩子)の2冊の本を上梓していました。『系統樹をさかのぼって見えてくる進化の歴史』には、600枚近くの動物写真を使った9点の「系統樹マンダラ」が掲載されています。しかし、著者の長谷川博士としては、もっと大きなサイズの「系統樹マンダラ」を作りたいという思いが募っていました。また、写真だと背景がまちまちであったり被写体が見切れていたりすることを課題に思っていました。そんな状況を見た小田さんが「写真ではなくイラストで制作すれば、きれいなポスターができるのでは」と編集者の畠山泰英さんに提案したことから、系統樹マンダラシリーズは始まりました。

現在の系統樹マンダラは中心から生物が湧き出るようなデザインになっていますが、これも小田さんの「ひとつの点から拡散するようなイメージを平面で表現できないか」というアイデアがもとになっているとのことです。

 復元するうえで大切なことは?

小田さんは、復元画と自身の専門である美術解剖学の繋がりについて、「化石を復元するということは、骨しかないところから筋肉をつけて、身体を作ることです。そのためには、自分たちの身体の中の構造がどうなっているかを知らなくてはなりません」と説明しました。

さらに小田さんは、化石種を描くことの難しさとして、時間が経つと新しい発見が出てくるため、その当時描いた復元画とのいたちごっこになってしまう点をあげます。しかし、「昔に描かれたものが間違っているのではなく、その時点で描かれるべきものが描かれていることが重要です」と、復元画が描かれた年の重要性を強調していました。

平山教授がカメ研究を始めた理由

次に平山教授による「系統樹マンダラに登場するカメ」というタイトルの講演が行われました。平山教授が化石に興味をもったのは、化石の本を読んだ小学生のころ。大学では経済学を学んでいた平山教授ですが、授業がおもしろいと思えず、独学で古生物の勉強をしてみたところ、やはり自分に向いていると再認識し、古生物研究の道に進むことを決意しました。しかし意外にも、最初からカメ研究を志していたわけではなく「魚やほ乳類などを研究している先輩方と被らないように、研究対象として爬虫類、カメを選んだ」と振り返っていました。

カメは多様である!

続いて平山教授は、系統樹マンダラに登場するカメについて時代ごとに分けて「三畳紀のカメは数種類、ジュラ紀のカメは十数種類と少なかったですが、白亜紀になると爆発的にカメの種類が増え、数百種類にもなりました」と説明しました。その理由として、白亜紀には大陸が分かれたことで固有の種類が増えたことや、首を甲羅に引っ込めることができるようになりさまざまな環境に適応できるようになったことがあげられます。またウミガメが進化してきたことで、海生のカメが増えたことも理由の一端だと考えられています。

恐竜の大絶滅が起きた時代にもカメの種類はほとんど絶滅していないことから、平山教授は「カメだけを見ると、隕石で地球の生命体がやられたという話は信じられない」そうです。生物の大きな分類として「ファミリー(科)」という階級がありますが、カメのファミリーは40程度。これは恐竜とさほど変わらない数です。平山教授は「カメは知識がないとどれもこれも同じに見えてしまうけれど、恐竜に匹敵するくらいの多様性をもったグループなんです」と恐竜との比較からカメの多様性について解説しました。

また平山教授は、系統樹マンダラに登場するカメの詳細と、それぞれの復元方法についても触れました。たとえば世界最古のカメと言われている「パッポケリス」は、肋骨が甲羅になりかかっているところが特長です。さらに現生種のカメと異なり、顎に歯があります。パッポケリスの復元について平山教授は「正直に言って、パッポケリスの甲羅のうろこの証拠はほとんどありません。しかし、胴体が動いていた証拠があるので、柔軟性を示すためにうろこを小さく描いてもらいました」と話していました。

小田さんと平山教授は、イベントの最後に化石や復元画を見ながらサポーターの方々と議論を交わしていました。さらに、小田さんがその場でホワイトボードに絶滅種であるメガロケリスを描くなど、臨場感のある復元画の作成現場を垣間見ることもできました。

系統樹マンダラ【カメ編】の制作は着々と進んでいます。サポーターのみなさん、ぜひ完成を楽しみにしていてください!

この記事を書いた人

大村瑠美
大村瑠美
首都大学東京大学院理学研究科物理学専攻、修士1年生。電子物性研究室所属。希土類を含む金属間三元化合物について、純良な単結晶育成と構造解析、低温物性の測定を行っています。特に結晶構造の対称性に着目し、反転対称性がないものや、カイラル構造をもつ物質について、構造由来の特異な物性について研究しています。趣味は絵を描くことと可愛いものを集めることです。中高生時代は美術部に所属していて、さまざまなイラストを描いていました。