エネルギー散逸のない電気の伝達や情報処理は、持続可能な社会の実現に向けてエレクトロニクス分野が達成するべき究極の目標です。この目標に向けて、通常は極低温でしか観測されない超伝導状態を私たちが生活している温度でも出そうという室温超伝導体の探索研究が、ここ30年のあいだ物性物理学の一大テーマとして精力的に行われてきました。

その一方で、昨年のノーベル賞受賞で注目を集めたように、物質に内在する「トポロジー」に着目したトポロジカル物質科学という分野が、近年の物性物理学の新たな潮流として急速に進展しています。特に、電子状態のトポロジーを用いることでも、エネルギー散逸のほとんどない(トポロジカル)電流を発生させることができます。私たちは「トポロジカル絶縁体」において生じる「非散逸電流」について研究しており、ここでは最近初めて成功した非散逸電流の「オンオフ切替制御」について紹介したいと思います。

トポロジカル絶縁体 -トポロジーが生む絶縁体の表面金属状態

まず名前にある「トポロジカル」という言葉について説明します。トポロジーとは、ある「かたち」を、連続変形によって変わらない量に着目して分類する数学的概念のことです。有名なわかりやすい例だと、物体の穴の数に着目し、コーヒーカップとドーナツは穴がひとつ空いているので同じものとみなす一方で、ボールは穴が空いていないので別物として区別するというものです。

このような観点を、物質、特に絶縁体の持つ電子状態に適用すると、トポロジカル絶縁体は、バンド構造(結晶中で運動する電子のとり得るエネルギー状態)が通常の絶縁体とは連続変形によってつながらない、異なるトポロジーを持った絶縁体です。異なるトポロジーを持つ絶縁体同士を接触させると、それらが互いに連続的につながろうとして、その境界で金属的な状態が生まれます。これを「トポロジカル表面状態」といい、トポロジカル絶縁体とはいわば、中身は普通の絶縁体ですが表面でのみ電気伝導を生じるような、通常の金属とも絶縁体とも異なった新しい枠組みの特殊な物質系です。

上は、物体の形状を穴の数によって分類するトポロジーの考え方。穴をひとつもつ「ドーナツ」や「コーヒーカップ」と、穴がない「球」を区別する。下では、絶縁体をトポロジーの考え方で分類したもの。絶縁体は、電子が詰まった価電子帯と電子が入っていない伝導帯の間にエネルギーギャップを持つが、普通の絶縁体とトポロジカル絶縁体で、価電子帯と伝導帯に対応する電子状態(赤線と青線)が反転している。それらを接触させたとき、境界に必ずエネルギーギャップを閉じるような金属状態を生じる

トポロジカル絶縁体表面に流れる非散逸電流

トポロジカル絶縁体の表面やグラフェン、半導体界面などの2次元的な電気伝導面に対して垂直方向に強い磁場をかけると、「量子ホール効果」と呼ばれる現象が生じます。量子ホール状態にあるとき、サンプル中心は絶縁体となる一方で、端ではトポロジカル電流が流れます。この端電流は非常に強固で、不純物などの障害があっても避けるように進むため、エネルギー散逸がない電流です。

さらに、トポロジカル絶縁体表面を磁化と相互作用させると、この非散逸電流を外部磁場なしに生じさせることができ、この現象は「量子異常ホール効果」と呼ばれます。量子異常ホール効果は、2013年に磁性不純物としてクロム(Cr)を導入した、テルル化ビスマスアンチモン(Bi, Sb)2Te3という強磁性化したトポロジカル絶縁体において、中国の研究グループによって初めて発見され、最近ではこの物質を基盤とした非散逸電流の研究に注目が集まっています。

量子ホール効果(左)と量子異常ホール効果(右)を示す概念図。サンプルの端で一方向に非散逸電流が流れる

トポロジカル絶縁体ヘテロ構造作製と非散逸電流の観測

量子異常ホール効果による非散逸電流の研究を行うため、私たちは図に示したような、磁性不純物Cr、バナジウム(V)を選択的に注入した(Bi, Sb)2Te3薄膜ヘテロ構造を、分子線エピタキシー法によって作製しました。分子線エピタキシー法は、高品質薄膜を作る手法のひとつで、結晶が非平衡成長するので、磁性不純物を熱平衡結晶成長と比較して高濃度に注入することが可能という利点があります。また、基板上に1層ずつゆっくり成長していくため、積層構造の厚みや組成を成長中に自由に設計できます。特に、今回はそれぞれの層の組成を最適化し、量子異常ホール効果を発現する高品質なトポロジカル絶縁体薄膜の作製に成功しました。量子異常ホール効果は、当初100ミリケルビン(mK)以下という、絶対零度(-273.15℃)にほとんど近い温度環境でしか観測されなかったのですが、私たちはこのようなトポロジカル絶縁体ヘテロ構造を作製することで、観測温度を約2Kに高められることを実証しています。

作製したトポロジカル絶縁体薄膜の走査型電子顕微鏡による断面像と電気伝導測定の模式図

非散逸電流のオンオフ切替に伴う電気抵抗の劇的な変化

Cr、Vを注入した層はそれぞれ保磁力(磁化を反転するのに必要な外部磁場の大きさ)が大きく異なります(Crドープ層は約0.2テスラ、Vドープ層は約1テスラ)。この保磁力差を用いることで、ハードディスクの磁気ヘッドなどに用いられるスピンバルブのように2層の磁化方向を平行、反平行と外部磁場(ピップエレキバン程度の磁力)で制御することが可能になりました。

そこで、薄膜垂直方向に磁場をかけながら電気伝導測定を行うと、この磁化方向変化により、電気抵抗値が10万倍も変化する非常に巨大な磁気抵抗効果を発見しました。平行磁化状態となる磁場領域では量子異常ホール効果に特徴的な量子化されたホール抵抗値(約25キロオーム)を示し、反平行磁化状態となる磁場領域では2ギガオームを超える絶縁体となります。

CrとVを導入した層の磁化方向が平行の場合は非散逸電流が流れ、反平行の場合は電流が流れない絶縁体状態となる。Crの導入した層は、Vの層より保磁力が小さく、外部磁場によって容易に磁化反転する

このことから、トポロジカル絶縁体の表面状態と磁化の相互作用によって、平行磁化状態では量子異常ホール効果の非散逸電流が流れる(オン状態)、反平行磁化状態では流れない(オフ状態)という状態切り替えができていることがわかりました。また、トポロジカル絶縁体薄膜の内部や磁化と相互作用した表面状態の絶縁性は、これまで金属的な表面状態や非散逸端電流が共存していたため、実験的評価がなされていませんでした。今回のオフ状態の実現により、初めてこの評価が可能になりました。

本研究の意義と今後の展望

本研究によって、平行磁化状態、反平行磁化状態を局所的に制御するスピントロニクス技術を用いれば、ひとつのサンプルで非散逸電流の回路を自由に設計することが可能になりました。現時点では、動作する温度が室温と比較して(ケルビン換算で)まだ2桁ほど低いですが、私たちは、室温での応用を目標に、少しずつ発現温度を高めるための研究を進めています。

一方、学術的な観点では、トポロジカル絶縁体の内部や磁性と相互作用した表面状態が高い絶縁性を持つことが初めて明らかになり、トポロジカル絶縁体とその表面状態が非常に強固であることをより明確にしました。また、これまでのトポロジカル物質研究は、理論家の予測を実験家が実証する場合が多かったのですが、本研究で観測した巨大な磁気抵抗効果はまったく予想外の現象でした。このように、実験してみないとわからない、おもしろく、重要なことが、これから次々と生まれてくるのではないかと期待しています。

参考文献
M. Mogi, M. Kawamura, A. Tsukazaki, R. Yoshimi, K. S. Takahashi, M. Kawasaki, Y. Tokura, Tailoring tricolor structure of magnetic topological insulator for robust axion insulator. Science Advances 3, eaao1669 (2017)
M. Mogi, R. Yoshimi, A. Tsukazaki, K. Yasuda, Y. Kozuka, K. S. Takahashi, M. Kawasaki, Y. Tokura, Magnetic modulation doping in topological insulators toward higher-temperature quantum anomalous Hall effect. Applied Physics Letters 107, 182401 (2015)
M. Mogi, M. Kawamura, R. Yoshimi, A. Tsukazaki, Y. Kozuka, N. Shirakawa, K. S. Takahashi, M. Kawasaki, Y. Tokura, A magnetic heterostructure of topological insulators as a candidate for an axion insulator. Nature Materials 16, 516 (2017)

この記事を書いた人

茂木将孝
茂木将孝

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程1年。十倉研究室在籍。静岡県出身。2015年度から統合物質科学リーダー養成プログラム(MERIT)コース生、2017年度から日本学術振興会特別研究員(DC1)。学部4年生の時から十倉研究室に所属し、それから分子線エピタキシー法によるトポロジカル絶縁体薄膜合成を中心に、物質中のトポロジーを舞台として現れる、今までにない巨大な電磁気応答を追い求め、研究している。