氷河期には海水が重くなる

第四紀の気候は氷期・間氷期サイクルで特徴づけられます。そのサイクルは、地球の公転軌道や自転軸の傾斜角などが作る日射量の地理的分布の変化がペースメーカーとなって作られています。氷期・間氷期変動は主にグリーンランド・北米など北半球高緯度の氷床が拡大・縮小を繰り返して起こり、同時に100mを超える海水準の変動も起こります。さらに、海水の酸素同位体比(δ18O、質量数16の酸素 16Oに対する質量数18の酸素18Oの割合)も変化します。

海水の蒸発時には軽い水(H216O)がより高い比率で蒸発します。よって氷床の元となる雪には軽い水が濃縮されることになります。氷期には氷床として軽い水がより多く陸揚げされたままになるため、残された海水は重くなりδ18Oが増加します。過去の海水のδ18Oは有孔虫化石に記録されており、水温変化が少ない深海底に棲む底生有孔虫の化石からは世界中でほぼ同じδ18O変動が得られます。

今では、氷期/間氷期はこのδ18O変動で定義され、δ18Oの増加(氷床拡大、海面低下)イベントには偶数の、δ18Oの減少(氷床縮小、海面上昇)イベントには奇数の番号が、年代の若い方から順に付けられています。1万1700年前~現在に至る温暖な完新世は間氷期になります。番号1が割り当てられ海洋酸素同位体ステージ(Marine oxygen Isotope Stage, MIS)1と呼ばれます。昔の教科書に載っているウルム氷期はMIS 2-4に相当し、同氷期の真中あたりにやや温暖な亜間氷期MIS 3がはさまれています。

今注目の間氷期MIS 19

79万〜76万年前の間氷期MIS 19は、地球軌道の状況が完新世に近いことからその気候記録から将来の気候が予測できるとして注目されています。また、最後の地磁気逆転がこのなかで起こっており、そのとき増えた宇宙線がもたらした寒冷化の発見は長年議論されてきた地磁気と気候リンクの証拠として注目を浴びています。

さらに、最近MIS 19の後半に見つかった千年スケールの多数の気候イベントは新たな議論を巻き起こしています。そして、未定であった中期更新世の始まりがMIS 19のなかに定義されようとしており、今や地質学的にも注目される間氷期です。現在、国際地質学連合の下部組織がその国際標準模式層断面および地点(GSSP)を選考中です。千葉県市原市の千葉セクションはそのGSSPの候補地として、チバニアンという中期更新世を表す名称の提案とともに申請中です。

地質時代(層序)区分と最近見つかった中期更新世の直前~最初期のイベント

チバニアン期(千葉時代)初期に繰り返した気候の激変

私たちは千葉セクションの近くで掘削した海成層のコア試料から、超高解像度(10年間隔)の古海洋環境記録を得ました。この記録と大阪湾、北大西洋中緯度の記録から、中期更新世(チバニアン期、千葉時代―仮称)初期の、数mの海水準変動を伴う氷床の拡大・縮小を500年~2000年間隔でくり返す激しい気候変化を明らかにしました。北太平洋と北大西洋で同時に起こるこの気候変化の一部には、北大西洋の大量の氷山流出が関係している証拠も見つけました。

北大西洋高緯度域へ熱が輸送される通常時(左)と熱輸送が停止する大量氷山流出イベント時(右)の様子。グリーンランド東の点線円は、低温高塩分の北大西洋深層水の沈み込み口域を表す

これらの気候イベントは7万年前から2万年前にかけて起こったダンスガード・オシュガー(D-O)イベントに特徴が似ています。D-Oイベントは数百年~3000年ほど続く温暖期(亜間氷期)と寒冷期(亜氷期)の20回に及ぶ繰り返しです。寒冷期のなかには北大西洋における大量の氷山流出イベントと同時に起こったものもあります。この寒冷期には、日本列島を含む東アジアでは、気温低下に加え、夏季降水量の減少が起こりました。

銀河宇宙線による寒冷化

銀河宇宙線が増えれば下層雲が増え、銀河宇宙線が減れば下層雲が減るという両者のあいだの正の相関(スベンスマルク効果)は銀河宇宙線が気候に影響を及ぼす可能性を示唆しています。正の電荷をもつ銀河宇宙線は地球と太陽の磁場によってシールドされており、磁場が弱まれば大量の銀河宇宙線が地表に降ってきます。このように銀河宇宙線量を制御している地磁気と太陽磁場も気候に影響を及ぼす可能性が出てきます。

地磁気と太陽磁場は銀河宇宙線を制御し、その結果下層雲量も制御している

大阪湾の海底堆積物コアで見つかったMIS 19の最高海水準期付近の寒冷化は約5000年間続いており、その期間は地磁気強度が40%以上減少し、銀河宇宙線量が40%以上増加した期間にぴったり一致します。このことから、同寒冷化は銀河宇宙線の増加により増えた下層雲の日傘効果が原因だと考えられています。本来なら、最高海水準期に合わせて気温もピークを取るのですが、この寒冷化が起こったことで少なくとも中緯度域の最温暖期は地球磁場逆転後に地磁気強度が40%以上に回復するまで遅らされています。それは最高海水準期の4000年後です。同様の遅れは北大西洋中緯度域の海表面水温でも起こっています。

太陽活動がリズムをとる急激な温暖化、それを終わらせる突然の寒冷化

銀河宇宙線による寒冷化が遅らせた最温暖期のなかで、チバニアン期(千葉時代)最初の、かつ極めて特徴的な温暖イベントが起こりました。それは約200年の周期で振動しながら急激に温暖化して800年後にピークに達した後、大量の氷山が北大西洋中緯度域まで到達する大寒冷イベントにより突然(わずか50年で)元に戻る現象です。

これを見ると、SF映画「デイ・アフター・トゥモロー」の地球温暖化によって突然訪れる氷河期が現実味を帯びてきます。北大西洋では高塩分のメキシコ湾流が赤道域から熱を運び、北上するにつれて同海流の海水は冷やされて低温高塩分水となって、グリーンランド近海で海底に沈みこんで北大西洋深層水を形成しています。その深層水は大西洋底を南下し、インド洋底を経由して太平洋底まで行き、そこで海表面に浮上して最終的に大西洋に戻る海水の熱塩循環を構成しています。大量の氷山流出は北大西洋の中高緯度域に融氷水をまき散らし、海表面を低塩分化させます。その結果、海水の熱塩循環が止まり、熱の輸送が停止して北大西洋上の気温がいっきに低下したと考えられます。その影響は大気を通じてすぐに北太平洋にも及びます。

この200年の周期性を伴う急激な温暖化が大寒冷イベントで突然停止するパターンは最温暖期中に2度繰り返し、その約1万年後の第2の温暖期にもう1度起こりました。約200年の周期は太陽活動のde Vriesサイクルである可能性が高く、その現象が起こった期間の気候は太陽活動に敏感だったことになります。太陽放射の僅かな変化が、銀河宇宙線を介した雲量変化により増幅されて気候に現れた可能性があります。

これら千葉時代開始期の気候現象は、地質学的重要性とは別に、地球の気候システムそのものを理解していくうえで重要な要素を含んでいます。今後、他の地域でも高解像度気候記録を取得して、同気候現象の広がりを調べていくことが重要です。

参考文献

Hyodo, M., Bradák, B., Okada, M., Katoh, S., Kitaba, I., Dettman, D.L., Hayashi, H., Kumazawa, K., Hirose, K., Kazaoka, O., Shikoku, K., and Kitamura, A. (2017) Millennial-scale northern Hemisphere Atlantic-Pacific climate teleconnections in the earliest Middle Pleistocene, Scientific Reports, 7, 10036 doi:10.1038/s41598-017-10552-2.
Kitaba, I., Hyodo, M., Katoh, S., Dettman, D.L., Sato, H. (2013) Mid-latitude cooling caused by geomagnetic field minimum during polarity reversal, Proc. Natl Acad. Sci. USA, 110, 1215-1220, doi: 10.1073/pnas.1213389110.

この記事を書いた人

兵頭政幸
兵頭政幸

神戸大卒、1994年神戸大学理学部助教授、1999年神戸大学内海域機能教育研究センター(2003年内海域環境教育研究センターに改組)教授。地磁気と気候のリンク、人類の進化と拡散に関わる古地磁気・古環境学的研究などを行ってきた。線形システム理論による堆積残留磁化の研究により1986年地球電磁気・地球惑星圏学会「田中館賞」を受賞。古地磁気層序の高度化と古環境・人類学への貢献により2012年日本第四紀学会「学術賞」を受賞。