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日々の生活で絶対にお目にかかるモノ。老若男女問わずどんな国籍の人であれ、それは恐ろしいほど平等に水面(みなも)の中に降臨します。日々の体調や食生活によって、形状はさまざまに変化しますが、それは必ず出てきます。

——そう、それとはウンチのことなのですが、このウンチなるものはどうしてこうも私たちを魅了してやまないのでしょうか。もちろん、一般的には「臭い」「汚い」などとネガティブなイメージを持たれがちです。実際に、少し前に流行ったアニメ「妖怪ウォッチ」の主題歌『ようかい体操第一』の4番には、「どうしてウンチは臭いんだ」とか「どうしてウンチはプンプンプン」という歌詞が存在します。ウンチ=臭いもの、というのがウンチに対する世間のイメージであることがわかります。

一方で、国民的コミック『Dr. スランプ』では「うんちくん」というキャラクターが登場し、愛嬌たっぷりに描かれています。さらに、Academist Journalのインタビュー記事『化石はわずか数週間で形成される?!』においても、著者の白瀧さんがインタビュー先の博物館に訪れた際にお目にかかったウンチの化石の展示の写真が掲載されています。これらのエピソードは、本来ネガティブなイメージの塊であるウンチが、一方では人の興味を引き付ける存在であることを示しています。

 

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恐竜のウンコ化石(Academist Journal『化石はわずか数週間で形成される?!』より 白瀧さん撮影)

上述のように二面性を持つウンチですが、良くも悪くも私たちにとっては非常に身近なものです。イントロが少々長くなってしまって恐縮ですが、この記事では、そんなウンチの“化石”をクソ真面目に研究するとなにがわかるか、ということをご紹介したいと思います。

Academist Journalの記事『カンブリア爆発の謎を「リン鉱石」から解き明かす!』の中でも紹介されているように、この地球上に存在する動物のグループのほとんどは、約5億4000万年前のカンブリア紀という時代に一気に出現し、急激に多様化したことが知られています。カンブリア爆発と呼ばれるこのイベント以降は、実にさまざまな動物が栄枯盛衰を繰り返してきたわけですが、動物である以上、それらの大半はウンチをしたはずです。一個体の動物がその生涯に出すウンチの量を考えると(もちろんその動物の種類によりますが)、動物体そのものの化石よりも、そのウンチの化石の方がたくさん存在していても何ら不思議ではありません。古今東西、地質学者たちは伝統的に各地の地層とそこに含まれる化石を調査してきたわけですが、ウンチの化石はほとんど相手にされることはなく、動物体の化石のほうを精力的に研究してきました。もちろんこれには理由があります。動物体の化石の種類を調べることで、その地層の年代を知ることができるからです。これは地球の歴史を知るうえでは非常に大事なことです。

一方、ウンチの化石を研究することによって、また別の重要な知見を得ることができます。ご想像のとおり、ウンチの化石の中身を調べれば、そのウンチ化石の主の食事メニューを知ることができます。当たり前のように聞こえると思いますが、実はこれは結構重要なことだったりします。食事メニューがわかれば、太古の食物連鎖の構造といった生態系に関する情報を得ることが可能です。さらに、すべての動物にとって、食べることは生きるためのエネルギーを摂取するということです。したがって、どのような餌をどのように摂取するか、といったことは個体の生存率に直結します。これは、その個体の適応度を左右することを意味しますので、食べることは(最終的には)生物進化を考えるうえでも重要です。

今生きている生き物であれば、そいつが何を食べたかを知ることは可能です。リアルタイムで行動を観察したり、解剖して消化管の内容物を調べれば良いのです。しかし、それが太古の生き物が相手となると、これらの研究手法を適用することができないため、話は別です。ウンチの化石に頼るしか手段がないのです。

後編では、私がこれまで研究してきた動物のウンチ化石について、いくつかトピック的にご紹介することにいたします。

この記事を書いた人

泉賢太郎
2015年3月に東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻において博士(理学)を取得。専門は地質学。現在は日本学術振興会・特別研究員PDとして国立環境研究所に所属する傍ら、国士舘大学理工学部の非常勤講師として講義と実習を週1回行っている。趣味は、野球とマテ茶。野球は最近初めてド素人ですが楽しくやっています。マテ茶は、2013年の南米留学をきっかけにハマり、現在も愛飲しています。ちなみにマテ茶は「飲むサラダ」と言われるように、食物繊維・ビタミン・ミネラルといった栄養素が非常に豊富です。便通も良くなりますよ!